- ガンスリンガーストラトスのキャラはエロカワイイ5
584 :1/8[sage]:2017/10/12(木) 19:35:34.60 ID:ZIdjvEdl0 - 行燈を模した照明が、和を装った室内を、緋色に染める。
畳の匂いと、さっき焚いたばかりの香の匂いが、空気に溶けている。 窓を隠す障子の隙間からは、外の明かりが星の光のように散らばっている。 鏡の前に座る私は、生まれて初めてと言ってもおかしくないほどに、緊張していた。 唇に紅を差そうとする指が、震えている。うっかり他の箇所に付けてしまいそうになる。 それでも何とか身支度を終えて、私は改めて、鏡に映る自分の姿を見る。 一番綺麗に見えるように化粧をして、髪を結って、艶やかな柄の入った着物に身を包んで。 今の私は、継承者としての体を装った、いつもの私じゃない。 歴史として聞き継いできたとおりの、花魁そのものだった。 あの人は、私のこの姿を見て、どう思うんだろう。 綺麗だと褒めてくれるだろうか。少しでも喜んでくれるだろうか。 それとも……軽蔑されるだろうか。時代にそぐわないことをしたがる、愚かな娘だと。 考えたいけど、考えたくない。不安と期待で、また胸が押し潰されそうになる。 「……しゃきっとしんせい。これがわっちの望みでありんしょう?」 今にも泣きそうな顔をしていた、鏡の中の自分を睨んで、叱りつける。 どんな結果になっても、あの人の厚意を無駄にすることだけは、絶対にしてはいけない。 そんなことになったら、私は私を絶対に許さない。 そう気を引き締めたとき、遠くの方からノックの音がした。 「――!」 体と一緒に、心臓が跳ねた。一度深く目を閉じて、気持ちを落ち着かせる。 「――入っておくんなんし」 入り口の方へ声を掛けると、人の気配が近付いてくる。 部屋に入ってきて、行燈の緋に照らされたあの人の姿は、いつにも増して強く惹きつけられた。 「……これはまた、雰囲気があるな」 アーロンさんはまず部屋を見渡して、次に私を見て、感慨深げに呟く。 「もともと、外国からの客人用に使われる一室とのことでありんす。今夜にあつらえ向きと思い、お借りいたしんした」
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585 :2/8[sage]:2017/10/12(木) 19:36:31.05 ID:ZIdjvEdl0 - 平静を装いつつ経緯を説明すると、アーロンさんはそうか、とだけ答えた。
「アーロン様。こちらへ」 鏡の前から、布団が敷かれた畳の上へ移って、腰を下ろしてもらうよう促す。 用意していた膳の前に座ったアーロンさんへ、私は小さな杯を手渡した。 「まずは、どうぞ」 杯にお酒を注ぐと、アーロンさんは黙って受け取って、ちらりと私の方を見る。 「これも、作法の一つというものか?」 「えぇ。基礎中の基礎でありんすな」 「なるほど。確かに趣がある」 納得したように呟いて、アーロンさんは静かに杯を煽った。 寡黙な横顔に、思わず見惚れてしまいそうになる。 もう一杯注ごうとしたけど、アーロンさんは空になった杯を私に向けた。 「酌を返そう」 「でも、わっちは……」 「もちろん酒なんて注がん。……そうだな、茶を淹れてもらえるか?悪いが俺はやり方を知らなくてな」 「……あい、分かりんした」 そんなことを頼まれて、私は少しだけ戸惑いながらも、急いで急須と湯呑みを用意する。 茶葉とお湯を入れて、頃合いになったものを盆に載せて差し出すと、アーロンさんは急須を手に取って、私には湯呑みを取るよう促した。 「ぬし様に酌をさせるなんて……恥でありんすなぁ」 「受けた酌は返すものだと聞いたが、違っていたか?」 「いえ、間違っておりんせん。……頂戴いたしんす」 本当に知らなさそうな口ぶりの疑問に、否定と承諾を返して、私はそっと湯呑みに口を付けた。 淹れたばかりのお茶の熱さと苦みが、喉を通り過ぎていって、ほんの少しだけ緊張が和らいだ気がした。
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586 :3/8[sage]:2017/10/12(木) 19:37:25.59 ID:ZIdjvEdl0 - 「それで少しは落ち着いたか?」
「……っ!」 先に置かれていた杯の隣に、湯呑みを置いて、小さく息をついたとき、そんな台詞を投げられた。 思わず顔を上げた先で、アーロンさんは様子を伺うように私を見ていた。 平静を装っていたはずなのに、内心を見透かされていたことを知って、頬が一気に熱くなる。 耐え切れずに目を逸らすと、微かな吐息が聞こえた。まるで小さく吹き出したような音に聞こえた。 「今ならまだ、取り止められるぞ」 次に聞こえたのは、硬い声音だった。まるで最後の警告をされているかのようだった。 私は、そんな台詞を向けられたことで、恥じらっている場合ではないと気付かされる。 甘さを振り捨て、私はアーロンさんをもう一度見上げて、その警告を拒否する。 「止めるなんて、有り得んせん。野暮ったいことは、聞かんでくんなんし」 そして今一度、心の底から愛する人へ、覚悟と願望を言葉にして捧げる。 「……そうか」 分かってくれたのか、アーロンさんはそうとだけ呟くと、静かに目を閉じた。 「なら俺も、踏み止まるのは止めよう」 そんな台詞が聞こえたかと思うと、突然、強い力に体を引っ張られた。 「――!」 一瞬のうちに私は、アーロンさんの腕の中に、捕えられた。 心臓が、早鐘を打っている。 私の体が、あの人の体温に温められていく。あの人の匂いで満たされていく。 「この装いも今夜の為か。――綺麗だ」 低い声が耳元で囁かれる。私の体を抱きしめる手が、背中を伝って、結った髪を撫でる。 間近に感じたあの人の感触に、震えた息が、口から零れた。 脈打ち続ける心臓は痛くなるばかりで、今にも破けてしまいそうだった。 そのうち、本当に破けて死んでしまうかもしれないとさえ思った。
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587 :4/8[sage]:2017/10/12(木) 19:38:06.99 ID:ZIdjvEdl0 - 「――このままこうしていればいいのか?それとも、自力じゃ横たわれないか?」
「っ…………ぁ、」 熱の籠った声がまた近くから聞こえて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。 私がちゃんとしなければいけないのに。私が全部やらなきゃいけないのに。 体が動かない。口が開かない。頭が回らない。 どうしよう。どうしよう。どうしよう。 何も答えられず、何も出来ないままで、思わず縋るように、あの人を見上げてしまった。 そのとき、自分の視界が、ぼやけていることに気付いた。 「え……」 気付いた途端、ぼやけた視界がさらに歪んでいって、瞼が重くなっていく。 これは、なに?なにが起きているの? 「アーロン……さ……」 強制的に閉じていく目の向こうに見えた、あの人の表情は、何故かとても辛そうで、 僅かに動いた口が、“すまない”と呟いたように見えた。
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588 :5/8[sage]:2017/10/12(木) 19:38:56.00 ID:ZIdjvEdl0 - 深い眠りの淵から、意識が戻ってくる。
あんなに重かった瞼が動かせるようになって、ゆっくり目を開ける。 上には行燈の緋色に照らされた天井が見えて、背中には柔らかい布の感触があった。 「――目を覚ますのが早かったな」 頭の上の方から、溜息交じりの声がする。 目で追うと、アーロンさんが、優しい表情で私を見下ろしていた。 「わっちは……どうして……」 「軽い不眠症によく効くとのことだが……どうやら今夜の事が相当、心労になっていたようだな」 ふっと苦笑を零して、アーロンさんは自分の隣から、湯呑みを持ち上げて私に見せる。 その指先で一緒に持たれていたのは、何かの粉末が入った小さな袋だった。 「夜が明けるまでここにいるから、ゆっくり休め。――それで一夜の約束は、終わりだ」 まるで諭すような口ぶりで、アーロンさんはそう言って、私の額に手を置く。 大きな手から伝わる体温が、とても優しくて温かいと思ったとき、 私は言われていることと、自分がされたことを、全て理解した。 「――ずるい人」 無意識に、そんな台詞が出てしまう。あなたを責める権利なんて、私にはないのに。 それでも、どうしても。私の想いも、覚悟も、はぐらかされたと思ってしまう。 それがとても悔しくて、悲しかった。 「君が惚れたのはそういう男だ。いい人なんかじゃないんだよ」 アーロンさんは、困り果てたような苦笑の中に、ばつが悪そうな表情を混ぜて作っていた。 いっそ、我儘に付き合わされて困っていた、という態度でいてほしかった。 私のことを気遣って、悪いことをした、なんて思ってくれない方がよかった。 横たえられていた布団から体を起こして、アーロンさんの方を向く。 そして、一度は迎え入れてくれた胸の中に手を伸ばして、自分から捕らわれにいく。 「わっち……ほんとに好いとうと。ほんとにあなたを、好いとうとよ?」 あの人の体温と匂いを、また間近に感じると、言葉が次々と溢れていく。
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589 :6/8[sage]:2017/10/12(木) 19:40:11.50 ID:ZIdjvEdl0 - 「初めて逢ったときから、ずっと。傍にいて、お話して……こんなにも嬉しゅうて、幸せな気持ちになるんは、あなただけたい。
わっちのいい人はアーロンさんだけ……アーロンさん以外の人なんて、考えられんけん」 もう私は、“継承者”としても、“花魁”としても、体勢を保てなくなっていた。 ただの“私”として、大好きな人に、気持ちをぶつけることしか出来ずにいた。 「未来になんて帰りとうなか……帰ったらわっちは、ひとりぼっちたい。ずっとここにいたい…… あなたがいるなら、戦場でも何処でもいい。わっちは……っ、アーロンさんとずっと……一緒にいたいと……っ」 言葉が溢れていくのと一緒に、目からは涙が零れて、止まらなくなっていく。 きっと目は腫れて、化粧も流れてしまうだろう。酷い顔は見られたくない。 結局私は、自分で始めた事なのに、何もかも中途半端に終わらせてしまうんだ。 この一夜がたとえ、同情からの厚意だったとしても、あの人を悪い気持ちにはさせたくなかったのに。 どこまでも情けなくて、どこまでも悔しい。でもそれ以上に、――悲しくて仕方ない。 吐き出す言葉も無くなってしまった私は、ひたすら泣き続けた。 アーロンさんは黙ったままでいたけど、私を咎めることも、退かすこともせずに、そのままでいさせてくれた。 やがて、自分の泣き声の隙間から、深く息を吐く音が聞こえた。 そして頭の後ろの方で、また大きな手が触れる感触が生まれた。 「――君の気持ちだけは、ありがたく受け取るつもりでいるよ」 そんな台詞が聞こえて、静かに頭を撫でられる。 そうされたことで、私の目から涙が止まっていく。 「君がそこまで俺を想ってくれることも、これから待ち受ける過酷な道を進む支えに 俺を選んでくれたことも、嬉しいと思っている。これは本当だ」 溜まった涙の向こうで揺らぐアーロンさんの顔は、穏やかに笑っていた。 指で涙を拭ってもらうと、その笑顔はもっと鮮明に見えた。 「ただな。俺という男は、どうしたって君には相応しくないんだ。分かってくれ」
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590 :7/8[sage]:2017/10/12(木) 19:41:08.76 ID:ZIdjvEdl0 - そしてアーロンさんは、また自嘲するような物言いをして、苦笑を浮かべた。
それはどこまでも優しすぎる、否定の意思だった。 相応しくないなんて有り得ない。分かれって言われたって、分かりたくない。 あなたを好きじゃなくなるなんて、できるわけない。嫌いになんてなれるわけない。 でも……私はこれ以上、大好きな人を困らせたくなかった。 私は小さく深呼吸をして、ずっと泣かせてもらっていた胸上から離れた。 残った涙を袖で拭い取って、きっと酷い顔になっているだろうけど、なんとか笑ってみせる。 「――分かりんした。今夜のところは、身を引きんす」 そう告げて、私は自分が根負けしたことを認める。やっぱりこの人には敵わない、そう思いながら。 「でもわっちは、諦めたりしんせんよ?何と言われようとも、アーロン様はわっちのいい人。これからもずっと……お慕いいたしんす」 そして精一杯、優雅に微笑んでみせて、改めて想いを伝える。 たった一回はぐらかされたくらいで、私の気持ちは変わらないから。 「今夜はすっかり謀られてしまいんしたけど、いつか帰る日までに、また機会を伺いんしょ」 「……これは、実に手強いな」 最後にそう宣言すると、アーロンさんは驚いて目を瞬かせてから、また困ったように苦笑した。 けど『次なんてない』とか『諦めろ』なんていう台詞は出てこなかった。 私の想いを受け取ってもらえる可能性が、全くないわけではない。それだけでも今は、嬉しい。 「ねぇ、アーロンさま」 また手を伸ばして、さっき私の涙を拭ってくれた指先に触れる。 「どうせ傍にいてくれるのなら、隣で一緒に寝てくれんせん?」 触れた指先をそのまま摘んで捕まえて、そっと力を込めて、またじっと見つめる。 アーロンさんは眉間に皺を寄せると、私の指先から自分の手を逃がした。 そして少し悩む素振りを見せてから、胡坐をかいていた膝上を軽く叩いた。
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