- ガンスリンガーストラトスのキャラはエロカワイイ5
573 :1/8[sage]:2017/10/11(水) 10:05:19.66 ID:/wEnTU5r0 - 私にとって“花魁道”は、母さんそのものだった。
気高く、たおやかな心を持って、美しく着飾って、美しく立ち振る舞う。 そんな母さんみたいな女性になることが“花魁道”なんだと、幼い頃は信じていた。 だから『跡を継ぎなさい』と言われて、舞や作法を教えてもらうことが、本当に嬉しかった。 それから年月が経って、私が花魁道の修行を終えようとしていた頃。 母さんに呼び出された私は、今まで教わることのなかった話を聞いた。 花魁道として、遥か昔から引き継がれてきた記録。発祥と歴史、本来の務め。 古典芸能として保存され続けてきた理由と、それに伴う継承者が受ける恩恵。 そして、時代にそぐわないものとされてからも、密かに“必要”とされてきた事実。 『じゃあ……母さんも?』 『母さんはね、お父さんと出逢えたから』 無意識に訊ねてしまった私に、母さんは静かに笑って言った。本当に心の底から、幸せそうな笑顔だった。 『花魁道とは、後世まで繋いでいくことを定められた古典芸能。継承者とは、その為の存在。それが今の時代での常識。 ――でも、継承者であるが故に“本来の務め”を要される可能性が、絶対にないとは言い切れないの』 『凛。これから貴女は、そういった覚悟も、常に心の中に留めておきなさい。これは継承者としての責であり、――枷です』 私をまっすぐ見つめる母さんの目は、今まで見てきたどの目よりも険しくて、 言葉を続ける声は、今まで聞いてきたどの声よりも厳しかった。 『でもね、凛。母さんは……貴女がそんな覚悟を示すときが来ないことを、願っているわ』 最後に、酷く優しい声音でそう呟いた母さんは、酷く悲しそうに微笑んでいた。 そのとき私は、受け継いだものの重さと、尊さを、本当の意味で理解した。 それでも私は、この道を選んだことに後悔なんてしなかったし、するつもりもなかった。 全てを知っても、私にとっての花魁道は、幼い頃に憧れていたものと、何も変わらなかったから。
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574 :2/8[sage]:2017/10/11(水) 10:06:19.23 ID:/wEnTU5r0 - 戦場に立ち込めた煙が、徐々に薄れていく。
銃声はしなくなり、敵の気配も消えていた。 『――敵勢力の生体反応が消失しました!全員、撤退したと思われます!』 通信機に、オペレーターさんの声が届く。 嬉しそうな声色から、今回の戦争は、こちら側の勝ちだと分かった。 『我々も撤収します!順番に転送しますから、皆さんはその場で待機していてくださいね』 「――了解でありんす。お疲れ様でありんした」 弾んだ声にそう応答して、構えていた武器を下ろす。 パラサイトガンの電源を落とすと、銃身から熱が引いていく。 「……あの人は、無事に戦えていたでありんしょうか」 ふいに、今は消えているはずの、ビットの先にあった景色を思い出す。 戦闘中、援護射撃のために寄生させたビットからは、あの人の背中が見えていた。 私の攻撃は、あの人の助けになっただろうか? あの人は今、怪我なんてしていないだろうか? だんだん心配になってきて、様子を見に行ってみようかと思い始める。 「――おっと、ここにいたか」 「! アーロン様……!」 そのとき、急に目の前の遮蔽物から人が飛び出してきた。 それは前線にいるはずの、アーロンさんだった。 「そっちは大丈夫だったか?」 「えぇ、問題ありんせん。アーロン様の方は?」 「ああ、無事だ。君の援護のおかげでな」 「えっ……?」 予想しなかった言葉に驚くと、アーロンさんは私を見下ろして、優しく微笑んだ。 「君が露払いをしてくれたから、前線のラインを有利に押し進めることが出来た。だから本部へ戻る前に、一言礼が言いたくてな」 「そんな、わっちの助けなんて……大したことじゃありんせんよ」 「謙遜することはない。実に的確な助力だった、感謝する」 「は……はい」
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575 :3/8[sage]:2017/10/11(水) 10:07:18.45 ID:/wEnTU5r0 - 一番危険な前線で戦っていた人と比べたら、遠くから援護していた私なんて、本当に大したことはしていない。
それなのにアーロンさんは、労うように私の肩に手を置いて、はっきりと褒めてくれた。 (どげんしよ……嬉しか、ちかっぱ嬉しかと……!) 嬉しすぎて、顔が笑ってしまう。見られないように、そっと下を向く。 私はちゃんと、この人の役に立てていた。それが分かってよかった。 「それにしても、最近は勝ち戦が増えてきたな」 ぽつりと、アーロンさんの零した独り言が聞こえて、私ははっと冷静になる。 仮にもまだ戦場にいるのだから、浮かれている場合じゃない。 「そうでありんすなぁ。勝ちを重ねることで、ちゃんと未来を救えていればいいのでありんすが」 そう言ってみると、アーロンさんはだな、とだけ返して、軽く肩を竦めた。 「この調子でいけば、時空越境作戦が終結する日も案外近いかもしれないな」 「終結……」 明るい口ぶりで呟かれた言葉の中の、一部を耳が拾って、一瞬思考が止まった。 「そうすればようやく君も解放されて、元いたところに帰れるだろう。一日も早くそうなればいいな」 「……えぇ、本当に」 そう言われて、私は返事の形にしただけの言葉を返す。 時空越境作戦。この戦争が終わったとき、私には戦う必要も、理由もなくなる。 そして、――私がここにいる理由もなくなる。 私は未来からの来訪者。今いるこの時代に居続けることは、許されない。 留まる理由がなくなれば、本来いるべき未来に帰らなければならない。 つまり……アーロンさんとも、お別れしなくちゃならない。 未来に戻ったところで、私にはなにが残っているんだろう。 母さんはもういない。父さんは……もういないも同然だ。 この時代へ飛ばされてきたとき、私は何もかも失ってきたのだから。 そんな未来へ戻ったところで、私はどうすればいいんだろう。 私はそこから先、ひとりぼっちで生きていかなければならないんだろうか。
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576 :4/8[sage]:2017/10/11(水) 10:08:10.91 ID:/wEnTU5r0 - そう考えたら、いずれ受け入れなければならない事実が、急に現実味を増してきて、怖くなった。
「どうした、具合でも悪いのか?」 「なんでもありんせん。ちと風に冷やされただけでありんす」 「……君は優秀な戦闘員だが、その前に一人の娘なんだ。何よりもまず自分を大事にしろ」 「有り難いお言葉を頂戴いたしんした。肝に銘じておきんす」 僅かに体が震えてしまったのを、アーロンさんが察してくれて、心配してくれる。 すぐに平静を装って微笑み返したけど、胸に針が刺さるような痛みが走った。 微笑み返す中で、気付かれないように、目の前の人を見つめる。 初めて出逢ったときから変わらない。強くて優しい人。私の大好きな人。大切な人。 ……お別れなんてしたくない。たとえ戦争が終わって、戦う理由がなくなったとしても、 ずっとこの人の傍にいたい。こうして優しい目を、気持ちを、ずっと向けられていたい。 でもそれは、許されないこと。願ってはいけないこと。……分かってる。 分かっているから、胸に刺さった針が、更に深いところで痛みを強くしていく。 「!――本部からの信号だ。ようやく帰還出来るな」 突然そう言って、アーロンさんは持っていた通信機に目をやる。 気が付けば自分が付けている通信機にも、信号がきていた。 先に転送が始まったのは、アーロンさんの方だった。 「じゃあお先に。向こうでまたな」 「えぇ、また。お疲れ様でありんした」 最後に短く言葉を交わして、私はアーロンさんが本部へ転送されるのを見送った。 一人になって、急に思考が巡る。 ――ここに残ることが許されないのなら、私が未来に持っていくしかない。 ここで積み重ねてきた記憶を、経験を、想いを、全部。 それがあれば、私は未来に帰っても、ひとりぼっちでも、生きていける。 私の中にひとかけらでも、あの人の存在があれば……きっと大丈夫だ。 そのためには、どうしたらいい?どうすればいい? そう考えたとき、ふとあの日、母さんから聞いた話を思い出した。
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577 :5/8[sage]:2017/10/11(水) 10:09:42.16 ID:/wEnTU5r0 - 花魁道の継承者として聞き継いだ、華やかで悲しい過去。残酷な事実。
もしかしたら、自分にも降りかかるかもしれない事情。 母さんは、私がそうならないことを、心の底から願ってくれていた。 正直なところ、私は実感が沸かなくて、もしそうなるときが来たとしても、何とかなると思っていた。 それが継承者としての役目だというのなら、務めるべきだと思ってきたし、 そんなことで、大好きな母さんから受け継いだものを、手放したいとも思わなかったから。 でも今になって、その“万が一の可能性”が、とても身近なものに感じる。 ――もし、これから先、そういう可能性があるのだとしたら。 そうなる前に私は、自分が慕う人の存在を、先に残しておきたい。 初めてこの身を捧げる相手は、自分が心の底から想う人がいい。 「……あぁ、そういうことでありんしたか。あのときの話は」 そのとき、私は母さんから聞き継いだ歴史の一部を、実感した。 私が今考えたことは、まさにこの道の始まりにいる“花魁”が、かつて密かに願い、焦がれたことだったと。 「わっちに唯一残されたもの。――その道上に、ぬし様はいらしてくれるでありんしょうか?」 空を仰いで、先に行ってしまったあの人の姿を目に浮かべながら、独り言ちる。 また冷たい風が肌を撫でていったとき、次の転送が始まって、私の番が来た。 本部へ戻ってきて、任務を解かれると、私はすぐにあの人の姿を探しに行った。 廊下を渡って、階を降りて、建物の出口までの道のりの途中で、背の高い人影を見つけた。 「アーロン様……っ!」 「ああ、君も戻ってきたか。転送されるまで大分待たされたようだな」 急いで駆け寄ると、アーロンさんは足を止めてこちらに振り返る。 また優しい目で見下ろされて、また胸の中に痛みを覚えて、心がざわつく。 「あの……アーロン様。……聞いてほしいことがありんす」 「聞いてほしい?俺にか?」
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578 :6/8[sage]:2017/10/11(水) 10:11:58.09 ID:/wEnTU5r0 - 意を決して、口火を切る。アーロンさんは意味が分からなそうに、怪訝そうな顔をする。
「相談事に乗ってやれるか分からないが……どうした?次の作戦について何か言われたか?」 「そうじゃありんせん……」 当たり前のように、アーロンさんは軽く膝を屈めて、そう問いかけてくる。 まるで子供の言い分を聞くかのように。でもそれは、私が望んでいることとは違う。 「この戦争が終わる前に、一度だけ……アーロン様の一夜を、わっちにくれんせんか?」 思い切って核心を口にすると、アーロンさんは今まで見たことないような、驚いた顔をした。 口にしてしまったことで、私の胸の中に生まれたざわつきは、更に大きくなっていた。 「それは、どういう……」 息を詰まらせるような声音で、アーロンさんがまた問う。 私は小さく深呼吸をしてから、少し距離が縮まっていた、目の前の顔を見上げる。 「わっちは“花魁道”の継承者。遥か昔に“花魁”が築いた歴史や文化を、後の世に引き継いでいくことを定められた、身の上でありんす」 「その長い道の途中、継承者としての意義とは別に、本来の……“花魁”としての役目を求められることが、万が一の可能性として、存在しているでありんす」 今はもう私しか知らない真実を打ち明けると、アーロンさんはまた驚いた後に、複雑そうに表情を歪める。 真面目なあなたのことだから、聞けば必ずそういう顔をするだろうと思っていた。 「それもまた継承者としての責ゆえに、覚悟はしておりんす。でも……もしこれから先、役目を果たす日が来るとしたら、 わっちはその前に……わっちが心を寄せた人に、この身を捧げておきたいと思いんした」 「アーロン様。わっちにとってその人は、ぬし様でありんす。だから……この戦争が終わって、お別れする日が来る前に、 ぬし様と過ごす一夜を……わっちにくださんし」 目線の先で、戸惑って困り果てて、揺れている二つの目を、じっと見入る。 この想いが、決心が、ちゃんと届いてくれるように。 私の目から、アーロンさんは少しも逃げなかった。でも私を見つめ返す目には、否定する意思が宿っていた。 「……生憎だがその願い、俺には叶えてやれない」
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579 :7/8[sage]:2017/10/11(水) 10:13:24.92 ID:/wEnTU5r0 - 「一度でいいのでありんす。たった一度、一夜だけ戴ければ、他に何も望みんせん。
そうすればわっちはこの先……未来に戻っても、孤独が待つ道を歩んで往けんす」 断られるのも分かっていた。でも、だからって引き下がれない。諦められない。 今ここで我儘を通さなければ、私は……後に待ち構えている日々を、生きていける自信がない。 「わっちの願い、どうか……聞いておくんなんし。――アーロンさま」 嵐のように感情が暴れ回っている心境を訴えたくて、複雑そうに歪んだままの表情を もう一度じっと見つめて、言葉にして伝える。 この想いが実を結ばないとしても、傍に居続けられないとしても、 せめて、あなたという存在だけは――未来まで、持ち帰らせて。 胸の中で募らせていたものを、全て打ち明けた私は、そのまま言葉をなくして立ち竦む。 後悔はしていない。していないけど、胸の中が今にも痛みで潰れてしまいそうだった。 アーロンさんは何も言わずに、やっぱり立ち竦んでいた。 馬鹿なことを言うなと怒ることもしなければ、呆れてその場を去るようなこともしない。 しばらくの間、そこだけ二人の時間が止まったように思えた。 「――四日後」 長い沈黙が終わったのは、囁くような低い声の呟きが聞こえたときだった。 「四日後なら、仕事も任務も予定がない」 「――え」 唐突な話を理解出来ずに、思わず困惑した声を漏らしてしまった私を、 アーロンさんはとても真剣な表情で、まっすぐ見据えてきた。 「一夜で、いいんだな」 「――!!」 「こういったことは先延ばしにしない方がいい。――四日後の夜、君を訪ねよう」 「あ……アーロン、様……?」 淡々と告げられた言葉が、受け取った返事が、信じられなくて、私の頭は、真っ白になっていた。
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580 :8/8[sage]:2017/10/11(水) 10:14:04.50 ID:/wEnTU5r0 - 「それとも、こちらが場所を用意した方がいいか?」
「!! ――っい、いえ!そんなっ……ぬし様の手を煩わせるなんてこと、しんせん……!」 そう聞かれたことで、混乱から抜け出した私は、慌てて首を振る。 ……聞き間違いじゃない。夢じゃない。 アーロンさんが、私の願いを聞いてくれようとしている。私が欲しいものを、くれようとしている。信じたいのに、信じられない。 「四日……四日後の、夜。その日になったら、アーロン様はただ……わっちの元へ、来てくださんし」 「――分かった」 喉が詰まりそうになりながら、なんとかそう言葉にして伝えると、 静かな声色の返事を返されて、約束が交わされた。 アーロンさんは背を向けると、黙々と廊下を歩いていった。 その後ろ姿を、私はいつまでも、いつまでも、見続けていた。 静かに、激しく鼓動を繰り返す心臓を、胸の上から押さえながら。
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581 :ゲームセンター名無し[sage]:2017/10/11(水) 10:15:07.07 ID:/wEnTU5r0 - なんか書けたから投げさせてもらった。
連投規制くらいそうだからまた後で続き投げさせてもらう。
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