- ラビン・ユー
913 :見ろ!名無しがゴミのようだ![sage]:2011/07/31(日) 21:26:52.60 ID:pObk7aMt - 5年後のまどかは姉の部屋に入ると見渡す。
(全然変わって無いんだけどなあ…) でも、飾ってあるオーディオを触ってFMを聴くと やはり番組は曲もDJの話も5年前を思わせる構成。 にわかに信じがたいけれど、春日家が何らかの能力を持つ一家である、 そこまでは解っている。 その後5年間行く方が解らなかった彼が幼い姿で現れ そして、明らかに年下と思える自分を見たら 否が応でも信じざるを得ない。 自分の家と思って帰宅したものの、カレンダーも5年前だし やはり自分の方が別の世界に迷い込んだのは間違いなさそう。 そして、そこでは万事上手く事が運んでいる。 『引っ越し』したはずの彼らが戻ってきている。 (どうしよう…やっと春日クンに会えたのに…彼は『彼女』のものだし…) 恭介の元気な姿を見てホッとした。 出来ることなら、もっと彼に触れていたい。 しかし、それは叶わずこのまま元の世界に戻らねばならないのなら、 生きて行くには辛すぎる。
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- ラビン・ユー
914 :見ろ!名無しがゴミのようだ![sage]:2011/07/31(日) 21:41:23.18 ID:pObk7aMt - 彼女はベッドに座るとポケットから写真を取り出し眺め出した。
(あたしの写真は全部春日クン居なくなっちゃったのに…) まどかの部屋から1枚失敬してきた写真を感慨深く見ている。 (あたしはこの世界に居られないのかしら? どうせ戻っても春日クン居ないし 時々貸してもらうのってのは…やっぱり駄目よねえ。) 残りのビールを流し込むとそのままベッドに横になる。 目が覚めたら元に戻っているかも知れない。 それでも、恭介に出逢え、触れることが出来た。 この感じは5年ぶり。 (夢なら…覚めないで…) そのまま深い眠りへと誘われていった。 翌朝 まどかは起き出すと、姉の部屋をそっと覗いた。 シーツとパジャマが畳んである。 「今度は…夢じゃなかったか。」 そ〜っとリビングに降りようとすると (…いい匂い。お味噌汁?) 覗き込むようにキッチンへやって来たまどかを見て 「おはよう。」 「…おはようございます。」 「ごめんね、あなたのお家なんだけど…どうしても白いご飯食べたくって。」 (そうか、ハワイに居たんだよね。) 「もし良かったら、一緒に朝ご飯食べない?」 「あ、はい。」
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915 :見ろ!名無しがゴミのようだ![sage]:2011/07/31(日) 21:53:18.32 ID:pObk7aMt - まどかは顔を洗うと着替えてきた。
ちらっと覗くと、年上の自分が朝餉の支度をしている。 彼女の容姿やその仕草は、それが自分の将来の姿と思うと 気恥ずかしくなる程に女らしく美しい。 5年間抱き続けてきた悲しみがどことなく陰りを帯びて それが得も言われぬ雰囲気を醸し出している。 そんな彼女にぼんやりと見とれてしまいながら (なんか、変な感じ…) 年上の彼女の余裕ある態度に、女として負けている気がする。 (でも、5年経ったら、あたしもこうなれるのよねえ?) 気を取り直してテーブルに着く。 彼女は 「これくらいでいい?」 そう聞きながらご飯をよそうと、黙ってお味噌汁を注いだ。 「頂きます。」 「どうぞ。」 (な〜んか、調子狂うな〜…) 彼女はエプロンを外すと 「よいしょっと。さ〜て、私も食べようかな。」 手を合わせるとご飯を口にする。そしてお味噌汁に口をつけると 「あ〜、やっぱりうちのお味噌だわ。美味しい。」 しみじみと味わっている。
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917 :見ろ!名無しがゴミのようだ![sage]:2011/07/31(日) 22:08:17.51 ID:pObk7aMt - (あたしの味だ、これ。やっぱりあたしなのよねえ…)
まどかもしみじみと味わっている。 「美味しい?」 「ええ、とっても。」 まどかに少し笑顔が出た。 食事が済むと、彼女が片付け始める。 慌てて手伝おうとするのを制して 「あなた、学校でしょ?ここはいいから。着替えてらっしゃい。」 「はあ…」 (やっぱり調子狂う。) まどかは制服に着替えると、かばんを持って降りてきた。 「あの…誰かに見られたら…」 「そうね。…あかねちゃんのサングラス貸してくれる? あなた達が帰ってくるまで街をブラブラしてるわ。 『5年前』のね。」 そう言うとちょっと笑った。 「これ…好きに使って下さい。」 まどかはそう言うとサングラスと一緒に『自分の』カードも渡した。 「じゃ…行ってきます。」 「行ってらっしゃい。」 笑顔で自分に見送られ歩き出す。 (ホント、調子狂うなあ…) 何気なく振り返ると、彼女はまだ見送っている。 まどかは胸元でちょっと手を振ると、もう振り返ることをせずに早足で歩いた。
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918 :見ろ!名無しがゴミのようだ![sage]:2011/07/31(日) 22:16:07.83 ID:pObk7aMt - 近くまで恭介が迎えに来ていた。
「おはよう、鮎川。」 「あ、おはよう、春日クン。」 「まどかさん…家に居るの?」 (ふんっ!) 途端にまどかの表情がよそよそしくなる。 ちょっとスネた口調で 「そんなに気になるのかしら?」 「なんだよ〜、違うよ。あかねも俺も学校あるからさ、取り敢えず 今日の夕方じいちゃん達に来てもらうことにしたんだよ。 だから…夕方には鮎川家に居て貰わないと話が出来ないしね。」 まどかは気を取り直して 「ね、ねえ、彼女元の世界に戻るの?」 「だってこっちの世界の人じゃないし…やっぱりじいちゃん達の力を」 「駄目よ!」 「え?な、なんで?」 昨日散々ヤキモチを妬いてた彼女の口から思わぬ言葉が… 「とにかく…このまま帰しちゃ…駄目なんだから!」 そう言うと、さっさと歩き出した。 (今年で4年目になるけど…相変わらずわかんねーや…) 恭介も後を追うように歩き出した。
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- ラビン・ユー
920 :見ろ!名無しがゴミのようだ![sage]:2011/07/31(日) 22:27:16.69 ID:pObk7aMt - 5年後のまどかは5年前のアバカブの前に来ていた。
窓越しに店内を覗くと、まだ営業前で誰もいない。 (全然変わってないや…ここで働かせて貰うってのは… やっぱりまずいよね?) ウインドウ越しにぶつぶつ独り言を呟いている。 (奪っちゃおうか?) ちょっと悪戯心が湧くけれど 窓に映る自分の姿に焦点を合わせ (若さには勝てないか…それにあたしと同じ目に合わせる訳には…) 「は〜…」 考えがまとまらないままその場を離れ歩き出した。 (他人のそら似ってことにすれば …やっぱり、『向こうの』ママ達心配するだろうし… …でも、帰ったら春日クン居ないんでしょ?) そう思うと 「やっぱり帰りたくない!」 口にした途端、すれ違うタクシーに視線が行った。 (え?やだ!ママ達…) 5年前の両親が険しい表情で乗っている。 まどかは慌ててサングラスをかけ他所を向くと タクシーを振り返ることなく足早にその場を去った。 「危なかったあ〜。」 繁華街に出ると、5年後にはもう閉店となるカフェに入った。
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