トップページ > アニキャラ総合 > 2011年09月08日 > SbPqS4fl

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Gulftown ◆mhDJPWeSxc
EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc
リリカルなのはクロスSSその118

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リリカルなのはクロスSSその118
181 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 22:20:39.29 ID:SbPqS4fl
どうもですー
23時からEXECUTOR第3話を投下します
リリカルなのはクロスSSその118
182 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:00:54.83 ID:SbPqS4fl
■ 3


 フェイト・T・ハラオウンは、八神はやてより告げられた事実に驚愕していた。
 表情が引きつり、唇が言葉を紡げずに震えている。

 お互いの知る情報を交換し、共有することが事件解決のために必要なプロセスである。

 しかし時に、その事実は非情に人の心を切り裂く。

「うそ……嘘でしょ、はやて!?」

 わなわなと倒れこむようにはやての肩をつかみ、フェイトは呼びかける。

「正式な情報や……。私の艦のデータベースに入っとる。申請すりゃ閲覧権限つけられる」

「そういうことじゃないよっ!だって、ティアナが、ティアナが……」

 第511観測指定世界、惑星TUBOYへ向かうにあたり、時空管理局次元航行艦隊司令部より、ヴォルフラム幹部乗員へ資料が提示された。
 その中に、船団に同行していた管理局局員の一覧があった。
 名簿の先頭には、『選抜執務官候補選出試験受験者 ティアナ・ランスター』と記されていた。
 はやてのような指揮官クラスの人間には知られていたことであったが、現場の執務官ひとりひとりまでには、個人レベルでは
情報が下りていなかった。
 極秘にスカウトの声がかかり、引き抜かれることがあるとは聞いていたがそれは単なる噂話として扱われていた。
 フェイトも、自身の抱える事件の捜査に追われ、そういった噂話程度の事案を気にかけていなかった。

 気にかけるべきだったのかと、後になって思っても取り返しはつかないことだ。

 そして、その噂話を聞いた段階で知ることの出来た情報だけでは、気にかけようという判断をすることはできなかった。
 気にかけたとしても、それを調べるべきだという判断を下すことはできなかっただろう。

「何を言っても事実は変わらんよ。ティアナは死んだ」

 背の高いフェイトを見上げ、はやてもぐっと感情をこらえているのがなのはには見て取れた。
 惑星TUBOYにおける戦闘で、ヴォルフラムは事実上何もできなかった。
 地表に降りた捜索隊も、最低限の自衛用武器しか所持しておらず、突如出現した謎のメカたちには太刀打ちできなかった。

 いつになく次元航行艦隊司令部の決断が早かったとは感じていたが、それが、公に出来ない非正規部隊の活動が絡んでいたからだという
ことまでは、わかっていてもはやてには口を挟む余地は無かった。
 わずか30分でアルカンシェルの使用許可が下り──あるいは、はじめから許可を持って出航していたかもしれない──、船団が
すでに脱出していたとはいえ、戦艦の到着後即座に発射された。
 脱出した船団の船籍リストには、何隻か欠けた船があった。
 その中に、ティアナを含めた管理局局員たちの乗った艦もあった。彼らが他の船に移乗したかどうかも確認できなかった。

 ただ、入港前に船団よりクラナガン宇宙港事務局へ提出された乗組員名簿および乗船客リストには、ティアナを含め、管理局局員の
名前は、一人も載っていなかった。

「事実って……!捜索に行ったんでしょ!?写真は!?現場は!?本当に、彼女の死亡を確認したの!?」

「冗談ゆうなや!地獄まで行けっちゅうんか!?アルカンシェルで星ごと吹っ飛んだんやぞ……!!」
リリカルなのはクロスSSその118
183 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:03:30.43 ID:SbPqS4fl
「でもっ、ティアナなんだよっ、はやてだって知ってるでしょ、彼女は、わたしたちの」

「知っとるからなんや!?知っとる人間やからよけい人つぎこめゆうつもりか!?知らん人間やったら適当でええゆうんか!!?」

「そんなことっ……」

 肩を揺さぶり、明らかに取り乱しているとわかるフェイトに、はやてもさすがに声が大きくなる。
 張り上げた声に打たれたように、フェイトは肩を落とす。
 そのまま、呆けたようにはやてを見つめている。目の焦点が浮ついている。

「…………やる気あるんか?」

 噴火しそうな感情を抑え、声を押し殺してはやては言った。

 フェイトは手を離し、じっと、はやてを見る。
 すぐに視線を合わせられなくなり、顔を伏せる。

 ロビーに並べられた机は、簡易パーティションで仕切られてはいるが他の席も見える。
 他の職員たちはこちらを見ないようにして、自分の仕事をしている。

「私に会いに来るゆうからなんか手がかり持ってくるか思うてたら、文句と泣き言たれるだけか!?
そんなに言うなら自分で行ってこいや!あんた仮にも執務官やろ!?やる気無いんなら帰れや!!!」

 ロビーの吹き抜けの天井に、長い残響となってはやての怒声が響く。

「ちょっ、ちょっとはやてちゃん落ち着いて」

「…………ごめん。私どうかしてた……顔、洗ってくるね。洗面所は……」

「……そこの階段のとこを右手に入ればあるよ」

 はやてもややうつむきながら答え、フェイトは持ってきたバッグを取って足早に席を離れた。

 やがて、はやては苛立ちをぶつけるように勢いよく椅子に座った。
 音が響かないように直前でぐっとこらえ、テーブルに拳を置く。

「ごめんな、なのはちゃん。私もテンパってもうた……」

「……私もびっくりしたよ。選抜執務官の噂は聞いてたけど、まさかティアナがそうだったなんて」

 すでに机に広げていた書類をつまみ上げ、ばさりと落とすように紙を叩く。

「うちらに渡されたのはこれだけや。選抜執務官の試験ゆうても、それがどんな内容なのか、どういう形式なのか、試験に受かると
どうなるのかはわからん。ただ試験をやる場所が惑星TUBOYゆうだけや。ほんで、これを仕切っとる部署もわからん。少なくとも
次元航行艦隊の傘下なのは違いないと思うんやけど」

「選抜といっても私のところ(教導隊)に声がかかってるわけでもなさそうだしね」

 しばらくため息をつき、ロビーの入り口に置いてあるドリンクバーからアイスティーを持ってくる。
リリカルなのはクロスSSその118
184 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:05:21.92 ID:SbPqS4fl
「なのはちゃん、そろそろフェイトちゃんの様子見てきてくれんか。気になることがある、例の緑色の小人な」

「はやてちゃんが行かないの?」

「あんなん怒鳴っといてのこのこ行ったらクサすぎるやろ……」

 軽く微笑み、なのはは席を立った。
 最後に共に戦ったEC事件から2年、自分たちも年はとったが、管理局全体でいえばまだまだ若輩だ。
 それでも、彼女には経験相応の貫禄がついてきていると、はやての座る姿になのはは思っていた。

 ヴォルフラムから惑星TUBOYに降りた捜索隊は、出発した12名のうち帰還できたのは3名だけだった。
 比較的軽症だったアギーラ曹長ははやてへの報告を行い、謎の迎撃ロボットたちの姿を写真に収めることに成功していたが、
あとの二人は傷が深く、ミッドチルダに帰り着く前に手当ての甲斐なく息を引き取っていた。
 結局、アギーラひとりを残して全員死んだことになる。

 軍隊では、通常、戦闘員の30パーセントを損耗した時点で全滅と表現する。それだけの人数を失えば戦闘組織として機能しなくなる
ことを意味し、たとえ幾人かが残っていたとしてもそれは頭数に入らない。
 ヴォルフラムの降下部隊は、まさしく殲滅されたということだ。

 あの人型との戦闘でも、航空武装隊の空戦魔導師が6人も撃墜された。たった1機の相手に対してだ。
 過去十数年間において、一回の接敵でこれほどの犠牲を出した戦闘はなかった。
 撃墜された魔導師の中には、なのはの教導を受けた者もいた。けして技量に劣る者ではないということは、なのはもよくわかっていた。

 まとめられた戦闘詳報を読み返せば、あれは戦闘ともいえない一方的な虐殺だったことが読み取れた。
 人型の不可解な行動は、輸送船の積み荷の中から自分と同じ機体のパーツを探していたとすれば説明できる。積み荷を探すために
邪魔な船を撃ち、まとわりついてくる魔導師たちを振り払おうと撃っていた。人型は、こちらからの攻撃を受けても積極的に回避したり
防御したりしようとせず、進路上に障害となるような場合にのみ攻撃を行っていた。
 もし人型が本気でこちらを攻撃しようとしていたなら、自分を含め迎撃に上がっていた魔導師たち3個小隊48名は全員が撃墜されて
いただろうと、なのはは分析していた。
 エースオブエースの称号に自惚れるつもりはない。それはあくまでも今までに遭遇してきた戦闘においてそう呼ばれるだけだ。
 これから先、どんな相手が現れるかわからないし、それが自分の勝てる相手とも限らない。
 いつ、自分より圧倒的に強い相手が現れるかわからない。その意識は、忘れずにいたつもりだった。

 殺そうと思えばいつでも殺せた。
 敵としてすら認識されていなかったのかもしれない。単なる障害物と、向こうは見ていたかもしれない。

 前線で戦う以上、いつも“死”を意識していないと言えば嘘になる。
 デバイスを持って空に上がる以上、いつ墜ちてもおかしくない。
 それだけは、忘れないようにしてきたつもりだった。あの冬の事件でも、機動六課での訓練でも。

 そして、フェイトにとっても。
 今朝方、仮宿舎から出てきたとき、クラナガンの管理局鑑識課で不審死事件があったと耳にした。
 殺人事件として警察が調べているとのことだが、その死んでいた鑑識官はフェイトから依頼された案件を直前まで調べており、
死亡推定時刻と携帯電話の通話記録から、死ぬ直前までフェイトと電話していたということが判明していた。
 すなわち、フェイトとの電話を終えた直後に殺されたことになる。
 現場に残されていた指紋や体液は、人間のものではないことが予想されていた。
 それも、フェイトが調べていた事件と深いかかわりがある。

 そしてはやては、この事件によって発見された超古代先史文明人──“緑色の小人”──が、惑星TUBOYに未だ生息している無人
ロボット群と、カレドヴルフ社が発掘した人型機動メカの謎を解くカギになるとにらんでいた。
リリカルなのはクロスSSその118
185 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:07:59.97 ID:SbPqS4fl
 女子洗面所になのはが入ったとき、フェイトはいちばん奥の個室で、ドアにもたれかかるようにして背をかがめていた。
 すすり泣く声が聞こえる。

 執務官になってもう10年以上が経つ。それなりに経験を積み、後輩や部下も出来て、順調に仕事をしてきたつもりだった。
 だが、どこかに甘えが残っていた。
 なのはやはやてに対しても、小さいころからの親友ということでどこかに馴れ合いがあった。
 少なくとも仕事に対してはそんな姿勢ではいけない。それを指摘された。
 ティアナは確かに自分が目をかけていた後輩で、機動六課時代の部下であり戦友でもあった。
 それに対し、どこかで贔屓があったのは否めない。部下を喪ったのは、なのはもはやても同じであり、死の悲しみはみな等しく受けた
はずだった。それが自分にとって知人であるかそうでないかは、違いとは言えない。
 確かに、懇意にしている人間に何かがあるのと、まったくの赤の他人に何かがあるのでは、心に受ける衝撃は違う。
 だがそれを、その私情を仕事に持ち込んではいけない。ティアナも、ヴォルフラムのクルーも、航空武装隊隊員も、命は等しく重い。

 それを、はやてに叱咤された。
 海では、甘えは許されない。ひとりの怠慢は自分だけでなく、何十人何百人の、同じ艦の仲間たち全員の運命に影響する。
 そんな厳しい職場で戦ってきたはやてにとっては、今の自分は弛みきっているように見えたのかもしれない。

 備え付けのペーパーをちぎり、顔を拭く。化粧が崩れないように、ペーパーを軽く肌に当て、紙に涙を吸い取らせる。

「大丈夫?」

 声をかけたなのはに、うつむいていた顔を上げ、背を向けたまま答える。

「うん……ごめんね、心配かけて……」

「フェイトちゃんの調べてた事件がきっと重要な情報になるよ。それははやてちゃんもちゃんとわかってるから」

 手を握り、そっと抱きすくめる。
 子供の頃はそうでもなかったが、大人になって、はっきり体格の差を意識し始めた。
 小さな自分と、大きな彼女。
 けれど、儚い。



 “緑色の小人”──そう仮称された生物は、現在自分が居るクラナガンの土地勘はほとんど無いと推測された。
 鑑識官の殺害現場にも多数の指紋を残しており、また床に流れた血だまりを踏んで、床に足跡が付くことに気づいていないと思われた。
 少なくとも、足に付いた血を落とそうとしていた形跡が無かった。
 さらに、殺害現場である検査室を出てからも、あちこちの通路を行ったり来たりして、最終的に建物の外に出るのに15分以上を要していた
ことがわかった。管理局は警察当局に情報統制を敷き、極秘に捜索を行う予定としている。

 鑑識課では、あくまでもDNAの分析だけであり、サンプルを培養装置にかけたりなどはしていない。

 そのため、少なくとも個体数は2体──魔力炉辺電施設で感電死していた個体と、管理局オフィスに侵入し鑑識官を殺害した個体──が
存在することになる。また、床材に残されていた足跡から、体重は10キログラム以下であると計算された。
 やはり、体格は幼児程度の大きさしかないことになる。

 身長90センチメートルで体重10キログラムということは、ホモ=サピエンスとしても比較的細身である。
 殺害現場に残されていた指紋は、人間のものに比べて指が細長く、爪が短いことが判明した。
 はやては墜落した人型の機体から、コクピットと思われる空間内部に搭乗者が居た形跡が無いか、徹底的に調べるように命じた。
 採取した試料は管理局本局へ回す分のほかに、ヴォルフラムの設備を使っても独自に解析を行うことにした。もちろんバレれば
ただでは済まないだろうが、それでもやる価値はあるとはやては踏んでいた。
リリカルなのはクロスSSその118
186 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:10:50.79 ID:SbPqS4fl
 フェイトは、鑑識官が今日提出する予定だった資料のまとめを行っていた。
 彼は昨夜、これから調査結果をまとめると言って電話を切り、おそらくその直後に殺された。
 殺害犯は鑑識官を殺しただけで、検査室に置かれていた資料には全く手をつけていない。このことからも、殺害犯であると予想される
“緑色の小人”は、現代の次元世界人類の技術文明に対する知見を持っていないと予想される。

 魔力炉変電所から発見された遺体のDNAは、先史文明人のものと酷似していた。また現代の次元世界人と、聖王の血統は、この
先史文明人を共通の祖先として、古代ベルカ時代に分化しそれ以降、混血が起きていない。もともと、聖王の血統が特殊な遺伝子を
持っていることは調べられていたが、その共通の祖先が判明したのはこの先史文明人の遺伝子を入手できたことによる。
 これは今回の件とは別に調査を行うため、資料を無限書庫に保存し、クラナガンの国立大学考古学部へ調査を依頼する。

 鑑識官が調べたDNA情報は、あの小人の肉体は人為的な遺伝子操作がなされたことを示していた。
 超古代先史文明人は、自らの肉体を改変するため、さまざまな遺伝子操作実験を行ったと予想される。その過程で、この緑色の小人の
ような種族も生まれた。この時代(2万年前)の地層からは、さまざまな形態を持った人骨が発見されている。これらは、現代の次元世界に
さまざまな姿、体格、顔つき、肌の色を持った人類が暮らしている源流になると考えられている。
 子供と大人、とするにはやや形態が違いすぎる人骨が見つかっていた理由は長い間わかっていなかったが、生きた完全なDNAのサンプルが
見つかったことで、その理由を推測することが可能になった。

 ヴォルフラムは仮係留ということで宇宙港に停泊し、護衛艦の補充が配備されるまでのつなぎとしてクラナガンにとどまることになった。
 この期間を使って出来る限り、惑星TUBOYに関する調査を行う。
 いずれにしろ、もう一度第511観測指定世界へは赴く必要があるが、そのためには入念な準備が必要だ。

「しかし、艦長も凄い度胸ですね」

 CICに集まった幹部士官の中から、ヴォルフラム副長であるエリー・スピードスター三佐が半ば笑うように言った。

「サーチャーメモリーの複製がバレたら軍法会議モンですよ」

 ヴォルフラムの搭載サーチャーで記録していた惑星TUBOY、および人型の観測データは次元航行艦隊司令部に提出した。
 規則では、メモリーユニットを交換してオリジナルのマスターテープを提出することになっているが、はやてはその前にデータを
別のメモリーにコピーしていた。もちろん、軍事機密の漏えいを防ぐためにマスターテープからの複製は固く禁じられている行為だ。

 それでも、上に提出して解析結果を待つだけ、では時間がかかりすぎる。
 たとえ隊規を犯すことになっても、はやては自らこのデータを調べることにしていた。

「OK、これでコイツを解凍すれば……出ました。データは本艦のコアにロードできましたよ」

 電測長を務め、幹部の中では一番の年長になるヴィヴァーロ曹長が、マルチスクリーンにデータを表示させて皆に示す。
 はやてとエリーは前に出て、それぞれヴィヴァーロの左右からスクリーンを覗き込んだ。

「艦長、これが“インフィニティ・インフェルノ”の魔力スペクトルですが……何か気になる点でも」

 魔力光は、単に固有の色の光を放出するだけでなく、周波数帯が部分的に欠けたスペクトルを発生させる。
 その欠け方は術者もしくは魔力機械ごとに固有であり、指紋や網膜同様、個人識別の手段となる。
 次元航行艦は、数光時から数光日程度の短距離ワープを行うことで、目標から発せられた魔力光の伝わる速度である
秒速30万キロメートルを先回りし、その痕跡を辿るという追跡方法が可能だ。
 また次元航行艦隊ではこの手法は広く行われている。
リリカルなのはクロスSSその118
187 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:13:32.74 ID:SbPqS4fl
「LZ級は旧式とはいえアルカンシェルの威力は今でもトップクラスや。それを喰らって、少なくとも船体を維持できてたっちゅうことは、
ヤツは次元航行能力をもっとるゆうことや。いや、へたすると次元潜行能力まであるかもしれん」

「なるほど……もし敵が単なるワープ能力だけでなく、次元航行能力を持っているとするなら」

「惑星TUBOYから一足飛びにミッドまで飛んでこれるっちゅうことや」

「通常のワープではあくまでもひとつの次元の中でしか移動できませんからね。次元間を経由すればさらに距離短縮がはかれる」

 マルチスクリーンには、座標計算中の惑星TUBOYとミッドチルダ、さらに両惑星を結ぶ航路図が表示されている。
 その航路は現在、複数の次元世界を経由しており、もし通常空間のみで移動しようとすれば少なくとも30日はかかる距離だ。
 次元航行艦は、虚数空間を経由して移動することで18時間で到着が可能だが、もし敵戦艦にこの航路を発見されれば、即座に
ミッドチルダへの侵攻を許してしまうことになる。はやても当初は、仮に敵戦艦インフィニティ・インフェルノが復活し発進したと
しても、ミッドチルダへ到着するまでに何十日もかかるのでその間に迎撃態勢を整えることが出来るだろうと考えていたが、
そのアドバンテージがどうやら無くなる可能性があるということが判明した。

 さらに虚数空間を単艦で航行された場合、発見がさらに難しくなる。実際には迎撃のために取れる時間は数時間しかなくなるだろう。

「アルカンシェルは次元干渉をその破壊力の源とする──つまり、単独次元でしか存在しない物体には理論上防御手段がない、
装甲の硬さとか厚さ、魔法防御シールドやなんかはアルカンシェルに対しては全く防御力がない」

「逆にいえばアルカンシェルを受けて耐えていたということは、敵が次元干渉能力を持っていることを意味する。次元干渉ができるの
なら、被弾時に自艦の存在を別次元に逃がす、あるいは高次元から波動幕を引き出してくることでアルカンシェルを防御できる──
──ブレーンワールド理論(膜理論)では予言されていたことですが、実際に観測されたのは初めてですね」

 エリーの言葉に、はやては重くうなずく。

「そのとおりや」

 エリー・スピードスターは、士官学校でははやての2年先輩にあたり、やはり次元航行艦隊ではトップクラスの若手として注目を
集めていた。通常、はやてのような若い佐官には経験豊富な副官が付けられるのが常だが、エリーはその年齢としては驚異的なほどの
状況分析力があり、次元航行艦隊でも異例の措置としてヴォルフラム副長に就任していた。
 本人の性格としても、士官学校ではその狡猾さと慇懃無礼さからとっつきにくいところが見られていたが、はやてとは妙に
ウマが合っていた。

「高町さんがあの人型を撃墜したときも──、中性子線のことは言っていましたが、重力波のことは伝えていませんでしたね」

「あの場でいちばん危ないのはそっちやろ」

「ですが、敵が重力波を出していたということはあれのエンジンは波動制御機関であることを意味します」

「たしかにな……ミッドでもまだ基礎理論の領域を出てない次元属性を持つ魔力エンジン、やからな……」

 砕いた言い方をすれば波動エンジンと呼ばれるこの新機関は、従来の内燃機関や原子力機関と違い、超高次元であるカラビ=ヤウ空間への
アクセスによってエネルギーを取り出す。理論上、燃料は必要ない。もちろん、理論上は魔力素さえ必要ない。なぜなら、たとえ強力な
AMFなどを用いて魔力素の無い空間に放り込んだとしても、他の次元から魔力素を吸い寄せることが可能だからだ。最初に起動させるための
補助動力だけは必要になるが、いったん起動してしまえば、理論上無限に稼動できるエンジンとなる。
 このエンジンは──もちろん従来の魔力炉やデバイスであっても規模の大きいものでは観測されるが──次元干渉を行うという
作動原理上、稼動時に大量の重力波を放出する。エンジン内での反応を直接通常空間に吐き出せば、それはアルカンシェルの弾体と
同じものになる。
 いわば小規模なアルカンシェルを連続して発射しそれを動力源とするものだ。
 第97管理外世界の技術でいうなら、核パルス推進ロケットが発想としては近いものになる。
 これまでは力場や炉の中に閉じ込めることが出来ずただ爆発させるだけだった物理現象を、エンジンシリンダーの中で制御することが
できるようになったのだ。
リリカルなのはクロスSSその118
188 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:16:00.53 ID:SbPqS4fl
 はやては士官学校では指揮幕僚課程の他に現代宇宙論も学んでおり、若手の艦長というだけでなく、新進気鋭の宇宙物理学者という
顔も持っている。この分野では、エリーよりもはやてのほうが知識はある。それだけに、はやては自分の中で考えをまとめることに
恐怖を感じていたが、エリーはそれをよく理解しはやてに理論の構築を促していた。

 ミッドチルダ術式およびベルカ術式における魔法の属性には、全部で6種類が存在する。
 その6種類とは、炎熱、電撃、氷結、重力、次元、粒子。
 単なる打撃を与えるような、一般には無属性攻撃と呼ばれるような魔法でも、実際には必ずこの6種類のどれかの属性を持っている。
 たとえば、はやてに近しいところでいえばヴォルケンリッター・ヴィータのギガントシュラークの場合、属性は重力と粒子である。
 すなわち、物理打撃部分を巨大化させるので空間内の粒子を制御していることになり、また大重量を生成するので重力を制御している
ことになる。もちろん他の魔法も、複数の属性を複合して持っているものは珍しくない。

 この6属性の中で、次元属性に関しては術式が極端に少なく、またそれを扱える者も非常に稀であった。

 はやてが過去に知る人物では、フェイトの母、プレシア・テスタロッサが使用していた次元跳躍魔法だけとなる。
 彼女は虚数空間に沈底させた要塞「時の庭園」から、次元航行艦アースラへ向けてサンダーレイジを使用した。
 通常の術式であれば、異なる次元に攻撃を送り込むことはできない。デバイスのジオメトリエンジンが時空連続体を飛び越えて
計算できないため、魔力を配置する座標が特定できなくなるからだ。
 そのため、次元跳躍魔法を使うには術者自身が時空連続体の計算を行う必要があり、それにはデバイス側のハードウェア
アクセラレーションが効かないため、負荷も高く、使用できる術者は限られてくる。また、計算式そのものも構築できる人間は少ない。

 波動制御機関を使用すれば、多数の時空連続体を同時に扱う計算が可能になり、次元航行艦の機動力が格段に上がる。
 虚数空間を単なる航路としてでなく、実数空間にしか攻撃できない通常兵器からの回避に利用する“次元潜行艦”だ。潜水艦が攻撃を
かわすために海に潜るように、次元潜行艦は虚数空間に潜行しつつ、実数空間を攻撃することが可能だ。
 さらにこの技術を応用すれば、現代のミッドチルダの魔法技術では事実上防御手段が無いアルカンシェルを、減衰ないし
無効化することが可能になる。

 次元属性魔法の研究が進まない原因には、単に難解な理論であるというだけでなしに、次元世界間の軍事バランスにも大きな影響を
与えるファクターであるという現実があった。アルカンシェルは戦略級兵器であるがゆえに、その威力に裏打ちされた相互確証破壊の
原則が崩れてしまうことは、次元世界の調和が破れることを意味する。

 ミッドチルダの魔法技術が揺らぐことなどあってはならないと、政府が考えるのは当然の帰結といえるだろう。
 魔法はあくまでも人類の持つ道具であり、危険をもたらす道具を作ってはならないと、人は考える。

「こいつの実態が知れる前に深宇宙に沈めろと、そう上(最高評議会)はゆっとるんやな」

「正確にはミッドチルダを含めた各次元世界首脳が管理局に要請しています」

「まあいまさら無理ですとは言えんわな」

 はやてはこめかみに手を当て、唇を引いて笑みを浮かべた。

「本艦の搭載火力ではあれほどの巨大戦艦を沈めるのは厳しいですね」

 ヴォルフラム砲雷長のレコルト・ガードナー三佐が言った。彼ははやてと同期である。
 基本的には真面目な性格だが、気配りもきき柔軟な発想のできる男だ。

 インフィニティ・インフェルノについては、浮上直後に撃墜したということもあり、艦の全体をおさめた映像がなかった。
 アルカンシェルによって露出した惑星TUBOYのマントルに埋まっている様子は観測できていたが、地表に出ている部分はともかく、
艦のどれくらいの部分が埋もれているのかがわからないため、全体の大きさは推測するしかない状態だ。
 艦の全体的な形状を単純なデルタ翼型と仮定した場合、全長は約73キロメートルとなる。艦首の船型を変えて船体を延長
していた場合はこれよりも長くなる。最も幅の広い艦尾部分は24キロメートルだ。
 外部に露出した艦橋は無く、制御区画は艦内部の深い場所にあり、推進器は艦尾に集中配置されていると予想される。
リリカルなのはクロスSSその118
189 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:19:58.31 ID:SbPqS4fl
 はやてはコンソールのパームレストに肘をつき、スクリーンのガラスを指ではじいた。

「相手は恒星間戦略母艦クラスや。いくらこのLS級が傑作艦ゆうても所詮は沿岸警備用やからな」

「ミッドチルダ海軍の全艦艇を出しても厳しいんじゃないですかね?それとも、博物館から次元戦争時代の戦艦を引っ張り出して
きますか。あの頃のアルカンシェルは、今みたいに自主規制なんて無いですからとんでもない威力だったらしいですね」

 正面切って戦うには厳しい相手だというのは、誰もが受ける印象だ。
 とにかく大きさが巨大すぎるため、仮に敵が全く動かなかったとしても、完全破壊するにはどう考えても火力が足りない。
 速射砲でちまちま撃っていたのでは何万発が必要になるかというものだ。

「当面の問題はCW社ですね。彼らがどこまであの星の実態をつかんでいるのか……そして、どこまであの星を穿り返しているのか」

 レコルトの言葉には、珍しく苦々しさが出ていた。
 いつでも冷静に、理知的に振る舞う彼が感情を滲み出させているというのは珍しいことだ。

 たしかに、発掘したロストロギアが突如暴走し、甚大な被害をもたらすという事故はこれまでに幾度となく起きてきたし、その度に
時空管理局は多大な犠牲を払ってでも鎮圧し、ロストロギアをねじ伏せ、制御下に置いてきた。それはある意味、人類の誇りと意地の
象徴でもあった。この世にはロストロギアが存在し、それは人類に牙をむく。この強大な力を人類は征服してみせる。それこそが
人類の生きる証であり生きる意味だ。

 さらなる世界を求め、次元の海に漕ぎ出していくのは、このロストロギアを征服するという野心、よく言えばフロンティアスピリットに
よるものが大きい。この現代でも、冒険家たちはそんな大国の王族などからの援助を受け、未知の次元世界の探検を行っている。

 彼ら冒険家を支援するパトロンには、ミッドチルダをはじめとした次元世界超大国政府、そして聖王教会のような巨大宗教組織などがいる。
 次元の海を旅する者は、ほぼ例外なくこれらの組織とつながりを持っている。

 ロストロギアの分布は各次元世界に、まったくの規則性も無く一様にみられ、次元世界を旅するなら、いつ、どこでロストロギアに
遭遇してもおかしくないという様相だ。生物が住んでいない星なので安心して降り立ったら、実はとんでもない罠が仕掛けられていた、
それ自体はありえない話ではない。
 しかし、どこか腑に落ちないのも事実だ。
 自分の中の勘が、この事件には何らかの意志が働いていると告げている。はやてはそう思っていた。

 もう一度、あの本を開く時が来たのかもしれない。

 次元から次元へ、果ての無い旅を続けてきたあの本は、この世の全てを見通すアカシックレコードである。



 特別救助隊が、宇宙港の桟橋に散乱した瓦礫に生き埋めになった人々の救出作業を行っていたさなか、それは目覚めた。
 貨物船の外板が覆いかぶさっていたコンテナの中から、突如、大型のメカが飛び出してきた。モーターの駆動音を響かせて動き出した
そのメカは、無限軌道の履帯のように見えた部分が、実際には多数の甲羅のような外殻を接地させて駆動する、節足動物のような構造に
なっていた。
 腹をうねらせて進む異様な動きに、救助隊の隊員たちがあわてて逃げ出す。

 コンテナの残骸を押しのけて進み出たメカは、実際の駆動システムは別にして、戦車のような下半身に、蟹のような腕が生え、中央の
盛り上がった部分にセンサーユニットのようなガラス質のパーツが見えていた。
 黄色い外見は、塗装されているのではなく外皮素材の金属そのものが黄色をしていた。

 隊員たちは武器を持っていないので、動き出したメカに対し、遠目から様子をうかがうしかできない。
 あんなものが残骸の中に隠れていたなど想像も出来なかっただろう。
リリカルなのはクロスSSその118
190 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:22:14.34 ID:SbPqS4fl
 黄色い戦車型のメカは──メカと言っていいのか分からないが金属質の身体をしているのは間違いない──は、まるで冬眠から覚めた
動物のように、ゆっくりと周囲を見回している。身体を左右に振るたびに、細い多脚が動く不気味な駆動音が耳を毒する。

「なっ、なんなんですかあいつは!」

 隊員のひとりがおびえた声で叫ぶ。
 エリート部隊ではあっても、特別救助隊は災害現場への出動が基本で、戦闘を行う組織ではない。
 スバル・ナカジマは、見たこともない異様なメカの姿に、かつて戦ったおびただしい数のガジェットドローンたちを思い出していた。

「まさか、あの船団の積み荷はロストロギア……」

 つぶやくように口に出し、すぐに意識を引き締めて次に指示すべき内容を考え出す。
 スバルは直ちに、現場からの避難と管理局地上本部への通報を命令した。機動六課の頃は幼さが抜けない新人兵士だったスバルも、今は
防災士長として権限と責任を与えられた人間だ。他の特別救助隊の士長たちも、陸士部隊などで実戦経験を積んできた者が多い。
 彼らと連絡を取り、指揮系統を失わないよう、隊員たちに的確な指示を与える。
 ただ命令を聞く、聞かせるだけでなく、迷わないようにすることが大切だ。部下の迷いを取り除くことが大切だ。

 再び、背後で金属がひしゃげる大音響が聞こえた。
 振り返ると、別のコンテナからもう一体、同じ戦車型のメカが這い出してきていた。こちらはコンテナが積まれていた貨物船が墜落した
衝撃で損傷したのか、腕が一本しかなく、もがくような動きを見せている。
 ゆがんだコンテナを突き破り、瓦礫を乗り越えて這い出てくる。
 メカの表面のどこにも顔などないのに、苦痛にうめいているような動きを見せる姿に隊員たちはさらに恐怖を受ける。

「たっ、助けてくださいっ!」

 叫び声のするほうをとっさに見やると、戦車型が蟹のような腕を伸ばし、地面に倒れた隊員の身体を突いていた。
 向こうにとっても未知の物体であろう人間を目の前にして、それがいったい何物なのかを調べようとしているように見える。
 しかし、体格差がありすぎるため、向こうにとっては軽く触れているつもりでも、人間にとっては巨大な力となる。

「私がどかしますからっ!今のうちに!」

 叫び、スバルはマッハキャリバーを起動させて突進した。瞬発力に優れるインラインスケート型デバイスは、急を要する場面で活躍する。
 戦車型の前に割り込み、蟹のような腕をつかんで押しのける。
 見た目どおりに戦車型は重量があり、体重で地面にはりついているためなかなか動かない。
 足を打った隊員は這いずりながらなんとか逃げようとする。戦車型は腕を押し返しているスバルに、さらに力を入れるようにして腕を
突き出してきた。スバルもさすがに踏ん張りきれず、マッハキャリバーのローラーがコンクリートの地面にめり込む。

「くあっ……重い……!」

「ナカジマ士長!離れてください!」

 別の隊員が、転がっていた鉄パイプで戦車型の腕を殴りつけた。衝撃がさすがに通ったのか、戦車型はよろめくように胴体を左右に
振りながら後ずさった。人間の力程度では傷が付けられないようで、戦車型は目の前にいる大勢の生き物(人間)が何者なのかを警戒する
ように、腕で地面をたたいている。
 ふとスバルが振り返ると、最初に出てきたものとこいつと、そのほかにもたくさんのメカたちが、壊れたコンテナや船の残骸の中から
這い出してきているのが見えた。一面瓦礫だらけの宇宙港の地面に、とっさに数え切れないほどの謎の戦車型メカが蠢いている。

「ひっ!こ、これは!死んでます、踏み潰されてっ……!」

 今度は女子隊員の悲鳴が聞こえた。あたりを見回すように動いている戦車型の脚部の下に、人間の腕が見えた。袖口が見えている服は
おそらく港湾職員の作業着だろうか。戦車型が脚を動かすと、地面に踏ん張られる多脚の殻の動きに従って腕の肉がすり潰されるように
ひしゃげ、肉から血が搾り出され、地面に流れ出て広がる。
リリカルなのはクロスSSその118
191 :EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc [sage]:2011/09/08(木) 23:25:26.67 ID:SbPqS4fl
 スバルは思わず奥歯を噛んだ。
 仲間が怯え、救助すべき人々が死に、しかしその原因となったメカたちは、人間を意に介していない。
 たとえば人間が、足元を這い回る蟻を踏み潰しても気に留めないように、彼らにとっては人間は気に留められない。

 戦車型の大きさは全高が2メートルほど、幅は1.5メートル程度。小型自動車程度の大きさだ。
 体重は、おそらく500キログラム程度であろう。戦車型の腕を押したときの感触からするとそれくらいだ。

「まずいです士長、こいつらは力がありすぎます」

「……今まで何人救助できた?」

「っ、自分の班では7人です……」

 スバルは思考をフル回転させる。戦車型を振り払い、救助を続けるか、それともすでに確保できた人々の安全を優先して撤退するか。
 特別救助隊の装備では、戦車型と戦うことはできない。

「……仕方ない。重傷者を最優先してヘリに──」

 言いかけたところで、異様な駆動音とともに、短い悲鳴が衝撃音にかき消されるのが聞こえた。
 重い物体の衝突に、やわらかいものが潰される湿った音。液体が飛び散る音。
 喉を裂くような若い女の悲鳴、そして、硬いものが割れて潰れる音。

 隊員の誰かだろうか、言葉にならない吼えるような悲痛な叫びが聞こえた。

 戦車型の一体が突如、隊員の一人に向かって突進してきていた。
 突進を受けた女子隊員は突き倒され、そのまま戦車型にのしかかられた。数百キログラムもあるであろう戦車型の体重に、彼女はなす
すべもなく押し潰され、まだ意識があるうちに、両脚、腰、胸の順に踏み潰されていった。
 戦車型の脚は多脚の先端に接地面積を広げる殻があり、これで地面をまんべんなく踏みきれるようになっている。
 この足の形のため、踏まれた場合全身に体重がかかり、皮膚が肉を包んだまま潰れて、重みによる圧力に耐え切れなくなった皮膚が
はじけて破れてしまう。

 悲鳴に、喉から血液が噴き出す水音が混じる。

 胸の上に戦車型が乗り上げ、肋骨が潰れて心臓が破裂し、彼女は腕を硬直させたまま動かなくなった。
 スバルのそばに報告に来ていた班長が、とっさに顔をそむける。今、彼の目の前で踏み潰された女子隊員は、彼の班の新人だった。

「くっ……全員撤退!急いで!」

 振り絞るように叫び、スバルは隊員たちの誘導にかかった。
 職責と、悔しさと。彼女を死なせてしまったのは自分の判断が遅れたせいかもしれない、もっと早く撤退を決断していれば、彼女は
助かったかもしれない──湧き上がる後悔を必死で押しとどめる。今、そうやって気力を萎えさせるわけにはいかない。
 今の自分は、心を奮い立たせて人を指揮しなければならない立場なんだ。

「走れ!走れっ!」

「あっ、足がっ、た、立てない!」

 瓦礫につまずき、足がもつれて転んだ隊員に、背後から戦車型が迫る。
 先輩隊員が必死に声をかけるが、立ち上がれない。助けるために引き返すにも、他の負傷者を抱えていて、危険すぎる。


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