トップページ > アニキャラ総合 > 2011年05月12日 > T3tmIad0

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◆bv/kHkVDA2
代理投下 リリカルトリーズナー ◇j1MRf1cSMw氏
名無しさん@お腹いっぱい。
リリカルなのはクロスSSその115

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リリカルなのはクロスSSその115
155 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:25:41.58 ID:T3tmIad0
予約が無ければ19時30分頃から魔法少女なのは☆マギカ3話の投下を開始しようと思います。
リリカルなのはクロスSSその115
157 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:31:51.35 ID:T3tmIad0
それでは、投下を開始します。

 暁美ほむらへと向けられる三人の目線は、どう考えても歓迎の類ではない。
 明確な悪意の権化と化した暁美ほむらを、相対する正義で以て排除せんとする視線だ。
 何故こんな事になったのかと問われれば、説明をするのは至って簡単。ただ単に、暁美
ほむらにとっては明確な敵であるインキュベーターの妨害をしようと追い立てた所で、運
悪く―奴らにとっては狙い通り、か―彼女ら三人に出くわしてしまっただけの事。
 何故ほむらがインキュベーターを追い立てているのか、とか、そういう裏手の事情まで
含めれば、なるほど確かに難しい話にはなるが、現状を説明するだけならば、「襲う者と
襲われる者、そこに出くわしてしまった少女達」……たったそれだけで十分だ。

 先程ほむらは、インキュベーターとの会話で、「高町なのはは暁美ほむらにとってもイ
レギュラーである」という旨の情報を与えてしまった。
 それを知った奴らが何をどう考えて行動するのかは知れないが、奴ら曰く高町なのはも
また、魔法少女になる事が出来る人材らしい。
 となれば、奴らは十中八九高町なのはを魔法少女にする為に行動するだろう。結果とし
てほむらは、何の情報も与えてやらないつもりで、標的を高町なのはに絞らせてしまった
のだ。
 これは、この時間軸においてほむらが犯した最初の大きなミスと言える。
 こういったミスが積み重なる事で、誤解や擦れ違いは徐々に大きく膨れ上がり、やがて
死ななくてもいい人達も、皆死んでしまうのだ。
 開幕早々の痛手に毒づきながらも、ほむらは眼前の高町なのはへ手を差し出し、言った。

「高町なのは、そいつを私に渡して貰えるかしら」
「悪いけど、それは出来ないよ。だってこの子、こんなに苦しんでるじゃない」

 高町なのはの胸の中で、白い小動物の姿をしたインキュベーターが小さく震えた。
 なのははそいつを優しく抱き締め、その後方に佇む美樹さやかと鹿目まどかは―特に美
樹さやかは―、まるで悪人を見るような辛辣な視線で、射抜く様にほむらを見詰める。
 今回の時間軸もまた、出会い方が悪すぎた。如何にほむらが彼女らを救う為に行動を起
こそうと、これでは何を言った所で無意味だ。彼女らの眼にはもう、暁美ほむらは悪人に
しか映らないのだろう。

「ねえほむらちゃん、どうしてこんな酷い事をするの? こんな事、ダメだよ……」

 案の定、鹿目まどかは憂いを帯びた表情で、キュゥべえとほむらを眇め見る。
 心優しいまどかならそう言うのだろうという事も解って居たし、まどかにはずっとそう
あって欲しいとも思う。
リリカルなのはクロスSSその115
158 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:33:04.56 ID:T3tmIad0
 彼女にだけは、決して自分のようにはなって欲しくなから……だからこそ、鹿目まどか
は何も知る必要はないし、何も教える必要だってない。

「貴女達には関係の無い事よ。悪い事は言わないから、そいつとは関わり合いにならない
で……と言いたい所だけど、貴女達はもう、聞く耳を持たないのでしょうね」
「ううん、そんな事ないよ。ちゃんと聞くから、訳があるならきちんと話して欲しいんだ」
「話したところで無意味よ。あなた達には理解出来ないわ」
「そうやって最初から決めつけてちゃ、誰だって、何だって解り合えやしないよ」
「理解が出来ない以上、解り合う必要もないわ」
「……それでも私は、わかりあいたいの。というか、信じてる……って言った方がいいか
な。人は皆、わかりあえるんだって」

 慈愛すら感じられるなのはの表情に、思わずほむらはたじろいだ。
 人は自分が持たない物を持っている相手に憧れ、時には恐怖すら抱くというが、今回の
場合は後者に当て嵌まるのだと思う。
 少なくとも、こんな言葉を恥ずかしげもなく語る少女を、暁美ほむらは見た事が無かっ
たからだ。

「……あなた、優しいのね」
「そんな事無いよ。私だけが特別な訳じゃない」

 言葉に詰まったほむらを諭す様に、なのははほむらに右手を差し伸べ、続ける。

「本当はみんな同じ……わかりあえるのに、些細な事で誤解をして、それが嘘になって、
お互いを区別しちゃう。本当はとっても簡単な事なのに、人はこうも擦れ違っちゃうから
……だから私は、そうなる前にきちんとお話をして、ほむらちゃんとお友達になりたいの」
「……っ」

 刹那、ほむらの心臓が音を立てて飛び跳ねた。
 人との慣れ合いなど捨て去って、孤独を貫こうと決めたほむらに、友達などは不要だ。
そう心では思っていても、ハッキリと「友達になりたい」などと言われてしまうと、焦ら
ずにはいられない。ほむらはこの手の人間に弱いのだった。
 もしも、出会うのがもっと早ければ……ほむらが何度もその眼に絶望を焼き付けてしま
う前に出会えていたなら……まどかに続いて、二人目の親友になれたかもしれないのに、
と思ってしまう自分が心の何処かに居る事に、まだまだ自分も甘いと思う。

「……馬鹿馬鹿しい、わ……友達だなんて言っても、全てをわかりあうだなんて、無理に
決まってるじゃないの」

 ほむらの声は、自分でも驚くくらい、酷く不器用に紡ぎ出されていた。
 冷め切った声は、心は、確かに揺れていた。何度も繰り返して培ったのは、どれも同じ
人間に対する接し方ばかりだ。それも、ほむらが知る限り、鹿目まどか以外の殆どはほむ
らを敵対視、もしくは危険視していた奴らばかり。
 突然マニュアルに無い台詞を言われて焦るのは、致し方のない事だった。

「これ以上、話す事もないわ……お願いだから、もうこれ以上は関わらないで。私の話を
あなたが理解する事はないし、わかりあう事だって出来やしないわ」
「でも……だからって、ただ見ている事も、私はもう出来ないよ。だって、出来ないって
言って何もしなかったら、もっと何も出来ないから。それじゃ何も変わらないままだし、
ほむらちゃんだって救われないままだよ」
「ッ……、知った風な口を聞かないでっ……!」
 
 何も知らない筈の高町なのはは、しかし全てを悟りきった風に言葉を続ける。
 差し延べられた手は細く、力を込めて握れば折れてしまいそうなのに、誰よりも大きく、
逞しくすら見えてしまう。
 その声は張り詰めた緊張を溶かし解すように柔和で、慈愛の瞳は逸れる事無くじっとほ
むらを見据えていた。
リリカルなのはクロスSSその115
159 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:34:11.17 ID:T3tmIad0
 なるほど高町なのはとはこういう人間らしい。最初に出会った時に感じた、鹿目まどか
にも似た優しい雰囲気は、高町なのはの人間性が成せる業だったのだろう。他の誰にも真
似のしようがないし、仮に似た雰囲気の人物が居るのだとすれば、それは本当の意味での、
根からの御人好しくらいか。

「無駄だよなのは、こいつはあたしらと話す気なんてないみたいみたいだよ」
「さやかちゃん……」

 美樹さやかが、高町なのはの肩を掴んで言った。
 その視線は絶えずほむらを見据えていて、明確な敵意がありありと伝わって来る。もう
慣れたと言えば慣れたが、やはりあまりいい気はしない。
 美樹さやかの所為でまどかが悲しんだ時間軸があった事も知っているからこそ、ほむら
は彼女の事をどうしても好きにはなれないのだった。

「あたしは正直、なのはにここまで言わせておいてそういう態度しか取れないあんたがマ
ジでムカつく。けど、なのはに免じて、それについてはこれ以上何も言わないわ」

 敵意の眼差しと、敵意の言葉。それらを真正面からぶつけながらも、美樹さやかは一度
ほむらからは視線を外し、周囲の異質な空間を見渡した。

「それよりも、今はもっと重要な事があるって、あんたも解るよね?」
「……この空間の事かしら」
「そ。もしかしてこの手の込んだトリックも、あんたがやったってワケ?」
「これは私がやった訳じゃ――」

 しかし、その言葉は最後までは紡がれなかった。
 それ以上を告げようとした、その瞬間、突然ほむらとさやか達三人の間に、黒い影が落
ちたのだ。黒い影は、まるで紙に落とした墨汁のように広がって、そこから、小さな異形
が幾つも現れた。橙色の蝶にも見える身体からにょきりと胴体が伸びて、その先に出来た
白い綿の塊の中心には、手入れの行き届いた黒の髭が見受けられる。
 使い魔だ。魔女に仕えるこいつらは、魔女の造り出したこの空間で、魔女に従って行動
する。魔女が人間達を餌と見なすのであれば、当然使い魔達にとっても人間は餌でしかな
い。使い魔達は、縦横無尽に宙を舞いながら、なのは達三人へと襲い掛かった。
 なんと間の悪い事か。魔力を持ったほむらよりも、一般の人間であるなのは達を第一の
標的として選んだのかは知らないが、これではほむらが彼女ら三人をこの空間に誘い込み、
そして今また使い魔共を使って彼女らを苦しめている様に思われても無理はない。
 最初に行動を起こしたのは、そんな三人の中心たる高町なのはだった。

「今は逃げるよ、二人とも!」
「待ちなさい……!」

 ほむらが声を荒げるが、それはもう三人には届いていなかった。
 何処かから現れた桃色の光弾が、予測不能な軌跡を描いて、空を舞う使い魔共に命中し
た。ほむら自身も理解出来ぬ現状に、何事かと思案するよりも早く、高町なのはは二人を
連れて撤退した。宙を舞う桃色の光弾は、まるで疾走する三人を護るかのように使い魔を
撃ち抜いていた。
リリカルなのはクロスSSその115
160 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:34:57.02 ID:T3tmIad0
 すぐに追いかけようと地べたを蹴るが、ほむらが一人になった途端、使い魔共はほむら
にも襲い掛からんと飛翔して来る。それを華麗なステップで回避しながらも、暁美ほむら
は舌打ちと共に、鋭い眼光で以て使い魔共を睨み付けた。

「くッ……今は相手してる場合じゃないのにっ!!」


* * *


 全力疾走で駆け抜けながらも、なのはが意識を集中させる。そうすれば、なのはの意思
に応える様に、空を舞う桃色の弾丸―アクセルシューター―は的確に異形を撃ち落とし、
撃墜せしめてくれる。
 今のなのはならば、この程度の簡易魔法はバリアジャケットを装着せずとも使用する事
は出来る。その分意識を集中させねばならないのもまた事実だが、この程度の敵を落とす
のに、それ程の魔力は必要とは感じられなかった。
 この異形共は、数は多いが一匹一匹の戦闘能力は大したことは無い。魔道師として数多
の戦場を駆け抜けて来たなのはにとってこの程度は朝飯前だし、こいつらと比べれば、か
つて戦った親友や、守護騎士達の方が圧倒的に強かったし、なのは自身も今よりもずっと
苦しめられた覚えがある。
 とは言ったものの、流石に終わりが見えないのは辛い。こいつらを撃墜するのは容易だ
が、その先に元の空間に戻れるのかという保証もなければ、こいつらの増殖が止まる気配
もないのだった。

「何なんだよコレ! コレもあのコスプレ通り魔がやったっての!?」
「落ち着いてさやかちゃん、まだそうと決まった訳じゃないよ!」

 なのはの後方を走りながら、さやかとまどかが息も絶え絶えに騒ぐ。
 どうやらさやかは暁美ほむらという人間を好いてはいないようだったし、そう思うのも
無理はないのかも知れないが、なのははこの空間含めて、この異常事態はほむらが招いた
ものではないと考えている。
 そもそもほむらは、さやかに問われた時に否定していたし、レイジングハートに調べさ
せてみたが、やはり今周囲で沸いている異形共からは何の魔力も感じられないらしい。
 となれば、魔道師―多分―の暁美ほむらがこれをやったとは思えないし、そもそも暁美
ほむらにここまでやる程の敵意も感じられなかった。
 唯一情報を知って居るのがキュゥべえだけなのだから、それについては後からキュゥべ
えに聞き出すしかないのだ。その為にも、今ここで数の暴力に負けて押し潰される訳にも
行かない。

「ね、ねえ、なのはちゃんっ……ほむらちゃんは大丈夫なのかな」
「こんな状況でもあの転校生を心配しようって、どんだけ優しいのよ!」
「うーん、何とも言えないけど、ほむらちゃんなら大丈夫……だと、思う」

 暁美ほむらは魔道師だ。なのはと同じように、戦う力だって持っているのだろうし、こ
の程度の敵に遅れを取るとは思えない。こいつら程度の戦力であるならば、戦闘には向い
ていないユーノだって負ける事はないだろうと、なのはは思う。
 少なくとも、こいつらはほむらと自分達の間に立ち塞がり、自分達目掛けて襲い掛かっ
て来たのだから、ほむらの方向へ逃げる事も出来ず、仕方なく二人を安全地帯まで送り届
けてから何とかしようと思ったのだが、その安全地帯も当分は見付かりそうもなかった。

『マスター、これではジリ貧です。やはりここは直射型の魔法で一気に空間ごと破壊した
方が良いのではないでしょうか』

 レイジングハートの提案が、なのはを急かす。
リリカルなのはクロスSSその115
161 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:36:53.82 ID:T3tmIad0
 やるしかないのか。そう思い、心中で愛機レイジングハートにデバイスとしての戦闘形
態へと移行する為の起動命令をしようとした、その時だった。

「……きゃっ!」
「まどかちゃんっ!?」

 なのはの後方を走って居た鹿目まどかが、脚をもつれさせて、その場で転んだのだ。
 当然、動きを止めたまどかは、奴らにとってはただの標的。弱肉強食の世界では、こう
して動きを停めた草食動物から、肉食動物に食われてゆくのだ。
 無数の異形が徒党を組んでまどかへと迫るが、今ならばまだ間に合う。なのはが変身を
果たし、強力な魔法で群がるこいつらを一気に薙ぎ払えば、まどかは事なきを得るのだ。
だとすれば、なのはのやる事は決まっている。
 レイジングハートがなのはの意思を汲み取って、その宝玉の身体を煌めかせた。
 しかし、それよりも速く、この空間を駆け抜けたのは、金色の閃光だった。
 金の閃光は幾筋にも延びて異形へと迫り、なのはは思わず「金の閃光」の異名を関する
友が駆け付けてくれたのかと思うが……違う。
 なのはの友ならば、一瞬の内に戦場を駆け抜け、これまた一瞬の内に異形共を斬り伏せ
る筈だ。この場を駆け廻った金の光はどれも、敵を斬り伏せるどころか、まどかに迫る数
体の異形の身体に纏わりついて、その身を拘束していた。

「バインドっ……一体誰が!?」

 思わず叫んだなのはの問いに答えたのは、先程と同じ金の閃光。されど今度は、ただの
拘束魔法の類では無く、直射型に伸びる、金の砲撃魔法のように見受けられた。
 何処かから放たれた金の魔力は、まどかに迫る異形を的確に撃ち落とし、それと同じ要
領で、一斉に周囲の異形へ向けて金の砲撃は放たれる。圧倒的なフルバーストの後には、
片手で数える程しか生き残らなかった異形が、困り果てたように宙を漂っていた。
 静寂になったこの空間で、コツ、コツ、コツ、と、誰かが歩く音が響く。
 なのは達の視線が一斉に「誰か」を捉えると、その少女は手に持ったマスケット銃を投
げ捨てて、柔和な微笑みを浮かべた。

「危なかったわね、あなた達。でも、私が来たからにはもう大丈夫!」

 現れた少女に、なのはは兎に角「黄色い」という印象を受けた。
 まず目に付きやすい特徴の一つとして上げられるのが、頭髪だ。なのはの親友たる金の
魔道師と同じくらいの明るさの金髪は、左右で上品に巻かれていて、何処となくお嬢様の
ような印象を抱かせる。
 しかしながらその表情は、なのはの知るお嬢様であるアリサや仁美とは違っていて、仮
に誰かに例えるとするならば、親友の一人である八神はやてに近いのではないかと思う。
 別段顔が似ている、という訳ではないが、無邪気そうな笑みからははやてにも通ずる確
かな強気が感じられるし、それでいて優しそうな雰囲気を宿した瞳が、何処となくそんな
イメージをなのはに抱かせた。
 衣服―恐らくバリアジャケット―は上から下まで黄色やベージュを基調としたドレス風
味で、彼女の動きに合わせてひらりと舞うスカートと、足首から太腿までを覆い隠すニー
ソックスの間からは、健康的な白い素肌が見える。
 その外見と髪の毛が、なのはに「黄色い」という印象を植え付けた由縁であった。

「安心して、すぐに終わらせてあげるから」

 なのは達に向けて放たれたその言葉には、絶対に負けはしないという強い自信と、すぐ
に助けてあげるから、という優しさが感じられた。
 そこからは圧倒的な戦い―というのもおこがましいくらいに一方的な蹂躙―だった。
 僅かに残った敵が徒党を組んで襲い掛かるが、黄色い魔道師は恐れの表情すら浮かべは
しない。確かな実力が彼女の自身を裏付けし、それは事実、彼女の動きをより軽やかにす
る。
リリカルなのはクロスSSその115
162 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:37:41.55 ID:T3tmIad0
 何処かからマスケット銃を取り出しては、そこから放たれる金の閃光で異形を焼き払い、
一発撃ち終えたマスケット銃はすぐにそこら辺に投げ出して、また次のマスケット銃で敵
を撃つ。これをする度に異形の数は減っていくのだから、後はこれの繰り返しだけで済む
戦いだった。

(あの人……あの銃がデバイスって訳じゃないのかな)

 なのはは考える。
 普通、デバイスというのは魔道師が肌身離さず持っているものだ。
 なのはで言うならレイジングハートがそれに当たるし、レイジングハートが無ければ強
力な魔法を行使する事だって出来はしない。
 事実として、魔道師の強さとは、その才能だけでなく、魔道師が用いるデバイスに依存
する所があるといっても過言ではないのだ。
 しかし目の前の彼女は、デバイスと思しきマスケット銃を取り出したかと思えば、一発
発射するだけですぐにそれを投げ捨てる。時たまそれを鈍器の代わりとして使用する事も
あるが、それはどう見たってデバイスの使い方などでは無い。
 何処かに装着型のデバイスがあって、彼女は何らかの魔力であのマスケット銃を生成し
て戦っているのではないかと想像するが、どっち道それもなのはにとっては未知の戦い方
だ。
 そんな戦い方をする魔道師は見た事がないし、居るのだとすれば、多分、魔力の使い方
としては非常に面倒で非合理的な運用方法をしてもまだ余裕のある、よっぽどの実力者な
のだと思う。
 しかしながら、目の前の黄色の魔道師の戦闘能力は確かに圧倒的ではあるが、エース・
オブ・エースたるなのはから見れば無駄な動きも多いし、お世辞にもそんな魔力運用を用
いる程の余裕を持った実力者だとも思えなかった。
 こうして、気付いた時にはなのはの興味は黄色の魔道師へと移り変わって居たのだった。

(レイジングハート、あの人の戦い方、どう思う?)
『少なくとも、ミッド式でもベルカ式でもありません』
(私達の知らない、全く新しい術式の魔法って事かな?)
『いえ。ミッド式もベルカ式も、魔力を運用する戦術である以上、どちらも同じ魔法だと
言えますが、彼女の戦術はそもそも、我々の知る魔力運用ですらありません』
(……つまり、魔法じゃないって事?)
『我々の知り得る常識の範疇で魔法を語るのなら、そうなりますね』

 レイジングハートの分析は、相も変わらず冷静だった。
 ミッドもベルカも、大元は同じだ。魔力の源―リンカーコア―から生成される魔力を運
用して戦うから、どちらも共通して「魔法」と呼ばれている。
 しかし、今まで魔道師だと思っていた黄色い彼女が使う術式には、そもそも「魔力」が
用いられていないという。「魔力」が運用されない以上、それを「魔法」と呼ぶのは違う
のではないか、というのがレイジングハートの見解であった。


* * *


 巴マミは、なのは達が通う中学校の、一歳年上の先輩だという。
 まだ義務教育の段階でありながら一人暮らしで毎日学校に通っている巴マミは、誰が聞
いても立派だと思うし、だからと言って、爛れた生活を送って居る訳でもなく、部屋は至
って上品に片付けられていた。
 インテリアとしても非常にセンス良く、家具の配置から置物の飾り付け方まで、若者が
好むお洒落な喫茶店なのではないかと錯覚してしまうくらいの気品さでありながら、しか
しそこに嫌味さなどは皆無。
 家具も置物もあまり高価過ぎる訳でもなさそうで、頑張れば手が届きそうな親近感が、
なのはにとっては非常に居心地が良かった。

「ろくにおもてなしの準備もないんだけどね」

 苦笑いを浮かべながらも、先程なのは達の窮地を救ってくれた黄色の魔法少女こと、巴
マミはテーブルに人数分の紅茶が注がれたカップを置いて行く。
リリカルなのはクロスSSその115
163 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:38:22.31 ID:T3tmIad0
 注がれた紅茶もまた一級品。味も香りも非常に上品で、テーブルを囲むなのはだけでな
く、さやかやまどかまでもが幸せそうな表情を浮かべていた。
 そんな三人を眺めるキュゥべえも、マミに怪我を治して貰った事で調子が良くなったの
か、機嫌良さそうに小首を傾げていた。


 ここへ来てから、既に数十分が経過していた。
 その間で、マミが用いる魔法についても、簡単な説明は受けた。
 なのは自身も、まだ完全にその情報の全てを飲み込めている訳ではないし、所々がまだ
不透明なままである事は否めないが、少なくともなのは達魔道師が用いる魔法と、彼女ら
魔法少女が用いる魔法は、概念を全く違えた別物という事らしい。
 なのは達魔道師が魔法を行使する為には、まずその素質たるリンカーコアを持っている
事が前提条件で、そこから生み出される魔力を有効に運用する為に武器としても用いられ
るものがデバイスだ。
 魔法といえど人が考案し開発したシステムを用いて使用しているあたり、こちらの方が
まだ幾分か馴染み易いものがある。
 一方で、マミ達魔法少女が用いる魔法は、そもそもリンカーコアを必要とはせず、それ
とは全く異なる素質である「ソウルジェム」が必要であるらしい。直訳すれば「魂の宝石」
という意味になるが、それがどのようなものなのかはまだなのはも詳しくは知らない。
 ソウルジェムを持つ魔法少女は、魔道師の魔法とは全く異なる未知の力で魔法を行使す
る為に、デバイスなどは必要としないし、それこそ戦闘タイプに関わりなく、どんな戦い
方でも出来るらしい。と言っても、皆ある程度は使い慣れた武器を用いて戦うらしいが。
 要するに魔法少女の力とは、非常に精神的で、神秘的。科学でも解明できない、全く未
知の能力らしい。

「そして、魔法少女になった者は、魔女と戦う使命が架される」
「その、魔女っていうのは?」
「マミのような魔法少女が希望を振りまく存在なら、反対に魔女は絶望を振りまく存在っ
てところかな。世間でよくある理由のはっきりしない自殺や殺人事件はかなりの確率で魔
女の仕業なんだ」

 希望とか絶望とか、非常に抽象的な説明だなと、なのはは思った。
 何がどうなれば絶望が振り撒かれて、どうすれば人が自殺や殺人事件を犯すのか、もう
少し具体性を持った説明をして欲しいと思うが、多分、今これ以上魔法少女の設定を一気
に教えられても、余計に頭がこんがらがるだけな気がしたので、なのははそれ以上は問わ
なかった。とりあえず魔女を放っておく事は出来ないという事さえ解れば、今は問題なく
話を進められる。

「それで、マミさんはその魔女と戦ってるんですか?」
「ええ。今日あなた達が引きずり込まれたのが、魔女の結界。あの時私が助けに入らなけ
れば、あなた達は生きては帰れなかったでしょうね」
「私達、そんな怖いところに居たんだ……」

 さやかとまどかが、青ざめた顔で縮こまっていた。
 一歩間違えれば死んでいたなどと言われれば、それも無理はないのだが、それならそれ
で疑問も生まれる。なのははあの時、魔道師としての魔力ダメージで敵を殲滅しようとし
たのだが、果たして魔女は魔法少女以外でも太刀打ち出来るものなのだろうか。

「マミさん、魔女は魔法少女でないと倒せないんですか?」
「ええ、そもそも魔女の空間に入れるのが魔法少女だけだからね」
「つまり、魔女の空間に入る事さえできれば、魔法少女でなくても魔女は倒せる……?」
「……前例が無いからなんとも言えないけど、圧倒的な力があれば、不可能ではないでし
ょうね。実際、私の知ってる魔法少女の中に、物理ダメージだけで戦う人も居るし」
「物理ダメージ……?」
「ええ、例えば……穂先に槍が付いた多節棍、っていうのかしら……で戦う魔法少女とか」

 しどろもどろな説明ではあったが、何とか脳内でイメージする事は出来た。
 要は、シグナム達と同じ様に、格闘武器で戦う魔法少女も居る、という事だ。多節棍と
いうのは多分、レヴァンティンのシュランゲフォルムと似た様なものなのではないかと勝
手にイメージしておく。
リリカルなのはクロスSSその115
164 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:39:04.30 ID:T3tmIad0
 少なくとも、物理的なダメージが魔女に有効であるのならば、なのは達の魔力ダメージ
だって通用するのだろう。魔女空間に侵入出来ない事はネックだが、もしも魔女に狙われ
たとしても、ただ殺されるだけではないという事はとりあえず解ったので、良しとする。

「で、魔法少女になった者は、僕が一つだけどんな願い事でも叶えてあげられるんだ」
「どんな願い事でもって……!? 金銀財宝も、不老不死も……あんな事でも!?」
「あんな事……?」

 キュゥべえの説明を聞いて真っ先に飛び上がったのはさやかだった。
 あんな事、というのが何を意味するのかは敢えて深くは考えないようにするとして、キ
ュゥべえはさやかの問いにも迷い無く「うん」と首肯する。

「そして、僕の事が見える君たち三人にも、魔法少女になる素質があるって事」
「私達が、魔法少女に……?」

 なのはにさやか、まどかの三人が、それぞれ顔を見合わせる。
 全くの一般人であるさやかとまどかのみならず、既に魔道師としての力を持ったなのは
までもが魔法少女になる事が出来るというのだ。もしもそうなれば魔道師と魔法少女の力
を併せ持つハイブリット魔法少女―今考えたネーミングだ―という事になるし、そうなれ
ば、なのははきっともっと多くの人間の命を救う事が出来るようになるのだろう。
 ただ命を救いたいと言う願いだけで戦うなのはにとって、それは魅力的な提案ではある
が……既に魔道師としての未来を歩み始めたなのはにとって、魔法少女をも兼任するとい
うのはつまり、命を賭けた仕事を二つも同時にこなさねばならないという事。
 思わず躊躇ってしまうなのはに、キュゥべえは可愛らしい笑顔で言った。

「だから僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ」
リリカルなのはクロスSSその115
165 : ◆bv/kHkVDA2 [sage]:2011/05/12(木) 19:42:58.96 ID:T3tmIad0
今回はここまでです。
今回から改行を1行40文字に固定し、1話と2話も改行し直して修正しておきました。
内容は変わって居ない(ほむほむやインキュベーター側の情報描写を増やした程度です)ので、ご安心ください。
この後で3話纏めてwikiの方に収録しておこうと思います。
それでは、お目汚し失礼しました。
リリカルなのはクロスSSその115
187 :代理投下 リリカルトリーズナー ◇j1MRf1cSMw氏[sage]:2011/05/12(木) 21:32:10.44 ID:T3tmIad0
 それによって切り裂かれた以上は、マトモに済む筈もない。プラズマは何ものも例外なく切り裂き、その傷口そのものを焼いてしまうのだ。
 後から振り返っても、それはえげつのない武器だったと、八神はやては正直に述懐する。
 言いようにこちらをボコボコに蹴り飛ばしてくれたとはいえ、それでもこれは気の毒以前にやり過ぎだ。
 殺す気でやったのか、とその下手人に思わず怒鳴りつけたかったはずだ。
 ……尤も、当人からすればそれこそが愚問だと、歯牙にもかけずに切り捨てたのだろうが。

「喧しい。喚くな」

 自分でそれだけのことをなしておきながら、のた打ち回る東風へとその相手が吐き捨てるように告げたのは、冷酷そのものとすら思えるそんな短い一言だった。

「ス……ッ……スト……ッ……ライダァァァ………ッ!」

 足を斬り飛ばされ、地面にのた打ち回る東風が、それでも最後の意地のように涙と汗とその他もろもろの、激痛と屈辱と怒りに満ちた表情で、その相手を見上げながら言葉を発する。
 そこにいる相手――それこそ見たままの忍者そのままのような格好をした、はやてとそう年齢も大差ない青年は、しかしそんな東風の怨嗟に満ちた態度すら何ら歯牙にもかけはしなかった。
 度胸が据わっているのか、それこそ本当にこれくらいのこと何とも思っていないのか、はやてには正直その判別がつかない。
 鉄のような無反応の無表情。その青年は既に東風など見てはいなかった。
 恐らくは、不意打ちで彼女の足を飛ばしたのも、決して殺されようとしていた八神はやてを助けようとしてしたわけではあるまい。
 事実、それがありありと分かるくらいに、結果的に助けたことになったであろうはやてにすら一瞥さえくれずに、そのまま真っ直ぐに奥へ――重力制御室へと向かっていく。
 はやてはハッと正気に戻ると共に、とにかく青年を呼び止めようと口を開こうとしたその瞬間だった。

「阿呆……がっ! あのお方に……ッ……まだ逆らい続ける……ッ……つもりかッ!?
 貴様などに……ッ……あのお方は……決して、斃せんッ!」

 先んじて、東風がそんな嘲笑も顕にその背中へと向かって叫びかける。
 そんな気力がまだ残っているのかと、それこそはやてが驚いたほどだった。

「世界は……あのお方の……ッ……ものだッ!
 あのお方に逆らった……ッ、貴様……などに……ッ……未来はない!」

 まるで断言するとでも言うように。後悔しろと言わんばかりに。
 青年の背に向かい、嘲笑と罵倒をまるで妄執するかのように続ける東風。
 怨嗟の篭るその挑発の数々は、正直まるで関係ないはやてですら聞いていて思わずにゾッとしたほど。
 この女がそれほどまでにグランドマスターに畏怖し、そして忠誠を誓っているのだということが、薄っすらとだがはやてにも察せられた。
 しかし、そんな東風の罵詈雑言に対しても、それを言いたい放題に言われていた青年の方はといえば。
 ただ静かに振り返ってきて、まるで蟲でも見るような目で、倒れ伏している東風へとたった一言。


「だから貴様は飼い犬なのさ」


 たった一言。されど痛烈とも言える、皮肉の篭った斬り返し。
 傍らのはやてですら、これは効くと思ったのだ。恐らくは忠誠心の塊とも思われる東風が、その侮辱同然の物言いを許せるとは思えなかった。
 事実――

「飼い…犬……ッ……だとッ!?」

 私の忠を。私のあのお方への献身を。
 これまで誇りを持って続けてきた私のその全てを。
 度し難くも、薄汚い、愚かな死に損ないに過ぎぬストライダー風情が。


リリカルなのはクロスSSその115
188 :代理投下 リリカルトリーズナー ◇j1MRf1cSMw氏[sage]:2011/05/12(木) 21:33:02.22 ID:T3tmIad0
 ――飼い犬、だと?

「ふざ……ッ……けるなぁぁぁぁぁぁ!」

 殺す! 絶対に殺す! 必ず殺す!
 許さん! 許してなるものか!
 新世界に居場所を許されぬ、古き神の遺物ごときが。
 あのお方の第一の臣たるこの私を飼い犬呼ばわり。
 万死すらも生温い。絶死を下し、来世すらも許さん。
 否! 今この瞬間、もはや一秒たりともその存在が永らえ続けること自体が冒涜だ。
 故に殺す! 疾く殺す! この眼前の身の程知らずの不届き者を、私のあのお方への忠が完殺する!

「ストライダァァァァァァァァァァ!!」

 故に躊躇も何もありはしなかった。
 右足が無いなど関係ない。勝ち目云々そのものなど視野にも入れていない。
 狂的なまでの忠誠と、そして怒りに支えられた東風は、地面についた両手をばねの様に叩きつけ、その反動で片足のみで宙へと跳んだ。
 そしてそのまま、その残った足にプラズマを纏わせながら、眼前の絶死を誓った怨敵目掛けて容赦なく迫る。

 そんな鬼気迫る突撃を敢行してくる相手に、飛竜は――


 ただ無言でサイファーを構え、迫り来る相手を見据えながら、その蹴りを直撃寸前で、難なく見切り、躱す。
 そして相手が驚愕や次手を打つことすらも許さずに――

「犬の茶番に付き合っている暇はない」

 そんな一言を無情に告げると同時に、一閃。
 最後まで屈辱と憤怒にその表情を歪めながら、東風のその切断された首が宙を舞った。




以上、投下終了
ミッドナイト氏、支援入れてくださりありがとうございました。
まだまだ長いので今回はここまでにしときます。久しぶりの投下で色々と不備が出てた場合は申し訳ありません。
まぁそんなわけでクロス元は『ストライダー飛竜2』。若干のナムカプアレンジ設定も使わせていただいています。(後、根も葉もない捏造設定もありますが)
マヴカプやナムカプでお馴染みとは言えやはり元ゲーがマイナー過ぎるかと危惧もしたんですけど……よくよく考えれば某界隈ですっかり汚い忍者呼ばわりで有名だから、そうでもないんですかね。
……ストライダーは忍者じゃないんだが
久しぶりに元ゲーとナムカプ再プレイして、マヴカプ3でまさかのリストラにあった腹いせで書いたんですけど、本当は3レス程度の嘘予告で書いてたつもりがいつの間にか短編ssになってました。
そんなわけでもう暫しお付き合いしていただければ幸いです。それでは、また
リリカルなのはクロスSSその115
189 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/05/12(木) 21:36:14.56 ID:T3tmIad0
投下乙でした
元ネタはわかりませんが、相変わらず心理描写も戦闘描写も丁寧で引き込まれました
スクライドの方も含めて、今後の投下も楽しみにしております


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