- AKB大島「あたしが犯人を逮捕します!」
1 : ◆x1G.Xq6aH2 []:2013/07/26(金) 09:41:57.45 ID:3JEpidkd0 - 【SUPER MEGA COP STORY】
大島「署長から呼び出し…あたし何かやらかしたかなぁ…」 聞き込みから帰った大島は、重い足取りで署長室へと向かう。 堅物で有名の中尾署長は、ノンキャリアからの叩き上げで署長へと上り詰めた所謂努力と根性の人で、自分の娘の同年代の大島をよく気にかけてくれていた。 しかしこうして改まって署長室へ呼び出されるのは初めてのことだったので、大島はいくらか緊張している。 大島「あーあ、何言われるんだろう…」
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2 : ◆x1G.Xq6aH2 []:2013/07/26(金) 09:42:49.98 ID:3JEpidkd0 - 署長室の扉が近づいてくる。
すると中から荒々しい女性の声が聞こえてきた。 前田「署長!やめさせてもらいます!」 ――あれ?この声…前田先輩? 前田は大島より年下だが、刑事としては先輩だった。 合法化されて間もない潜入捜査において、かなりの活躍を見せている実力派である。 過去にはロボットや男子生徒のふりをして高校に潜入したこともあるというから驚きだ。 そのくせ仕事から離れた途端に、おっとりと可愛らしい性格を見せる不思議な人だった。 前田「次のエースを見つけてもらうしかないです!」 前田は引き留める署長の声を無視して、署長室から飛び出していった。 あまりの剣幕に、大島は声を掛けそびれてしまう。 前田のほうでも、こちらに気づいた様子はなかった。 かなり興奮していたのだろう。 大島「大島です。只今戻りました」 大島は前田と入れ替わるように署長室へ足を踏み入れると、敬礼した。 署長は取り繕うように笑い、まあ座りなさいとソファを指し示す。 そうして大島は署長からある提案をされた。
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3 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:43:34.00 ID:3JEpidkd0 - 署長「例の窃盗グループの話はよく耳にするだろう?」
大島「あの、前田さんが追っているという3人組ですよね…」 署長「そうだ。ふざけた3人組だよまったく…」 署長は難しい顔で指を組んだ。 大島は神妙な面持ちで頷く。 数年前からこの辺り一帯で多発する、大手企業や投資家を狙った窃盗事件。 犯人グループは揃いの派手な衣裳に覆面姿の3人組。 体型からみて、全員女性。 それもかなり若い女性だと思われる。 はじめの頃は、犯人の目撃情報が多数挙がっていることから、逮捕は時間の問題だろうと考えられていた。 相手は年端もいかない女性であり、かなりの派手好きだ。 すぐに尻尾を出すだろう。 しかしいざ捜査が始まってみれば、犯人の尻尾どころか、影さえも掴めない。 短絡的犯行に見えて、調べれば調べるほど、犯人グループの大胆さと繊細さという両極端な特徴が浮き彫りになり、捜査本部は行き詰まりを実感していた。 当然、事件に関する世間から警察への風当たりは厳しい。
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4 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:44:18.63 ID:3JEpidkd0 - 署長「…てくれないか?」
大島「え?」 署長「犯人グループを追ってくれないか?」 大島が聞き返すと、署長は今度、ゆっくりと言い直した。 大島「犯人グループを…あたしがですか?」 突拍子のない提案に、大島の声が裏返る。 世間からのバッシングに、署長は血迷ってしまったとしか思えない。 ――あたしに事件を解決しろと? 無理だ。 ついこの間刑事になったばかりの自分には、荷が重すぎる。 大島「…でも、あたしなんかまだ前田さんの足を引っ張るばかりで、とても捜査なんて…」 大島は遠慮がちに言った。 署長「彼女ならついさっき、事件から下りたよ。前々から無茶な潜入捜査に疑問を感じていたらしい。本当に悪いことをした」 大島「あぁ…」 署長が頭を抱える。 大島は先ほどの前田の様子に合点がいった。 だからあれほどまでに興奮していたのか。
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5 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:46:09.22 ID:3JEpidkd0 - 署長「彼女は以前から海外研修を希望していたんだ。それを私が無理に引き留めていた。しかしついに言われてしまったよ。次のエースを見つけてくれと…」
大島「次の…エース…」 署長「君の捜査本部参加は、前田くんの推薦だ。自分の後任は君しかいないと」 大島「そんな買いかぶりすぎですよ」 署長「まあ突然のことで不安なのはわかる。君の新しい相棒を紹介しよう。わからないことは彼に聞きなさい」 署長はそう言うと、デスクの上の受話器を取った。 二言三言話した後、電話を切る。 少し待つと、署長室の扉がノックされた。 署長「入りなさい」 そして入ってきた人物。 彼は以前から女子署員の会話によく名前が上がっている男性刑事だった。 大島は普段、興味がないので署員同士のそういった噂話は聞き流してしまう。 だから彼がなんという名前だったか、正確には思い出せなかった。
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6 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:46:50.50 ID:3JEpidkd0 - 大島「えっと…」
口ごもっていると、相手のほうから挨拶してきた。 本多「本多です。よろしくお願いします」 大島「大島です。よろしくお願いします」 慌ててソファから飛び上がり、頭を下げる。 瞬間、額に感じる鈍い痛み。 どうやら相手も同じタイミングで頭を下げたらしく、ぶつかってしまったらしい。 大島は額を押さえると、照れ笑いを浮かべた。 その際、初めて本多と真正面から視線を合わせる。 本多も笑っていた。 刑事という職業からは想像出来ない、優しい笑顔だった。
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7 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:52:35.38 ID:3JEpidkd0 - 【THE GHOST SHOW】
渡辺「病院…ですか…?」 渡辺はきょとんとした顔で聞き返した。 直後、声を上擦らせる。 渡辺「それって町外れの閉鎖になった病院じゃないですか!」 とある地方都市。 何の特色もない公立高校。 裏庭に建てられた部室という名のプレハブ小屋で、渡辺は2人の先輩を前に、抗議の態度を露にしていた。 小嶋「だって今年の文化祭はホラー映画を上映しようって決めてたじゃん」 小嶋は渡辺の態度などお構い無しに、穏やかな笑みを浮かべる。
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8 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:53:19.68 ID:3JEpidkd0 - 渡辺「それをあの廃病院で撮影するつもりですか?」
1年上にあたるこの先輩は、日頃から掴み所がなく、気紛れにやる気を見せたかと思えば、面倒なことは後輩に丸投げしたりと、なかなか一筋縄ではいかない。 しかし妙に人好きする点や、最後の最後で救いの手を差し伸べてきたりする優しい性格からか、学園のマドンナ的存在になっていた。 当然、この映画研究会に置いて彼女の役割は演じ手だ。 去年の文化祭で上映したSF映画でも、小嶋は主役の魔法使い役を演じていた。 そして今年はホラー映画を製作し、文化祭で上映しようと計画している。 さてここで問題になるのが映画の舞台となる場所であるが、小嶋達の案では、町外れの廃病院がいいロケーションになるのではという。 渡辺は気が進まなかった。 河西「ちょっと怖いけど、場所のわりに変な噂が立ったりはしてないから大丈夫だと思うよ」 小嶋の隣で可愛らしい声を発したのは、同じく渡辺の1年上となる河西である。 少々サボり癖があるのが玉にキズだが、基本的に優しく穏やかで、後輩である渡辺をよく気にかけてくれていた。
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9 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:54:06.69 ID:3JEpidkd0 - 渡辺「でも、勝手に忍び込んだら叱られませんか?ましてや撮影となれば色々と許可も必要になってくるし…」
2人の先輩はいい人だが、どこか浮世離れした部分があり、事務的なことを苦手としていた。 必然的に撮影場所の確保やスケジュールなどは渡辺が管理することになる。 渡辺としても細々とした仕事は得意ではないのだが、誰も引き受ける者がいないので仕方がないのだ。 誰かがやらなければ、部活動として成り立たない。 だから渡辺は今、病院の持ち主や地主を探しだし、事情を説明して自主製作映画の撮影に使わせてもらえないだろうか打診するという大仕事に対して、及び腰を見せているのだった。 心霊現象云々については心配していない。 渡辺「今年も校内だけの撮影にしましょうよ。部費も少ないですし。それに脚本だってまだですよね?」 小嶋「脚本ならさっしーが書いて来るって。病院を舞台にしたサイコスリラー」 渡辺「え?わたし全然聞いてないですよ」 その時、タイミング良く部室に指原が顔を出した。
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10 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:55:22.75 ID:3JEpidkd0 - 指原「コピーしてきましたよー!」
彼女の手には閉じられた紙の束。 聞かなくてもわかる。 すでに脚本を書き上げ、人数分コピーしてきたのだ。 小嶋「さっしー早ーい」 小嶋がのんびりと称賛の声を上げる中、指原はバタバタと動き回り、部員に脚本を配る。 渡辺は早速手にした脚本を開いてみた。 ざっと目を通す。 悔しいけれど、なかなかの出来だ。 こういう裏方的なことを振ると指原は俄然やる気になり、普段以上の力を発揮してしまうことを忘れていた。 この脚本なら、部員はみんな賛成するだろう。 指原「細かい部分は実際に病院を見てみないとわかんないんですけど、内容としてはどうですか?いけますかね?」 肩にかけたリュックサックがずり落ちるのを手で押さえ、指原はおずおずと尋ねた。 猫背なうえに撫で肩なので、押さえてもすぐにリュックサックは落ちて来てしまう。 それでもなぜか彼女はずっとその鞄を愛用していた。
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11 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:56:15.62 ID:3JEpidkd0 - 河西「すごいよー。よく一日でここまで書けたね」
指原「いや、普通に徹夜っすよ」 小嶋「これだとあたし悲鳴上げてばっかりの役だぁ…。しかもここに書いてあるパンチラのシーンて必要なの?」 指原「すみません。ホラーだとどうしても萌え要素が少ない気がして、勢いで書いちゃいました」 小嶋「今年もまたパンチラか…」 河西「ていうかあたし達にとっては今回の映画が最後の作品になるんだよね…」 河西がそう言うと、途端に部室内はしんみりとしたムードに包まれた。 渡辺「……」 そうだった。 自分達2年生はまた来年もあるが、3年の小嶋と河西にとっては最後の文化祭である。 気合いが入るのも当然だった。 最後だから、少し無茶してでも最良のロケーションで納得のいく映画を作りたい。 そんな純粋な思いを、撮影の許可云々で頭ごなしに否定していいものだろうか。
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12 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:57:28.11 ID:3JEpidkd0 - 河西「あ、でも麻友ちゃんは病院を舞台にするの反対なんだよね?」
河西が脚本から視線を上げ、気遣うように渡辺を見る。 渡辺の胸が、ちくりと痛んだ。 渡辺「そ、そんなことないです。やりましょう。頑張りましょうよ!」 河西「本当にいいの?」 渡辺「はい」 多少の引っ掛かりを感じながらも、渡辺は快く返事をした。 指原「じゃあ一度、病院の中を確認しに行かないとですよね。今からみんなで行きますか?」 指原はコピーしたばかりの脚本をくるくると丸めながら言った。 河西「昼間はあの辺人通り多いから、忍び込めないよ」 小嶋「じゃあ夜だね」 指原「え?夜?じゃあ懐中電灯必要ですよね。指原んちいっぱいあるんで、持って来ますよ」 小嶋「ありがとー」 渡辺「え?こ、今夜いきなり行くつもりですか?」 渡辺が尋ねると、小嶋は当然とばかりに頷いた。
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13 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 09:58:13.78 ID:3JEpidkd0 - 小嶋「だって時間ないし。早く撮影に入りたいでしょ?」
渡辺「そ、それはそうですけど…」 結局、押しきられる形で渡辺は今夜の病院行きを決断する。 誰も学園のマドンナには逆らえないのだ。 気がつけば今夜の待ち合わせについて話し合いは終わっていた。 渡辺「……」 渡辺はそこで、映画研究会ただ一人の男子部員、博を窺い見た。 博は最初から部員の会話に入らず、何を考えているのかわからない顔で脚本を熟読している。 渡辺「博くん…」 渡辺は小声で呼び掛けた。 博は廃病院を舞台にすることについて、疑問がないのだろうか。 博「大丈夫だよ…麻友ちゃん。出来るだけ俺もフォローするから」 博はこちらに視線を向けると、渡辺の心を見透かしたように答えた。 本当に大丈夫なんだろうか。 渡辺の気持ちはまだ不安なままである。
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14 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:01:32.17 ID:3JEpidkd0 - 【SUPER MEGA COP STORY】
署長「捜査についての詳しいことは彼から聞きなさい」 署長に促され、大島と本多は別室に移る。 本多「毎日あれだけニュースに取り上げられているから、今更って気がするだろうけど聞いて欲しい…」 本多はそう前置きした後に、念のためといった様子で事件についての説明を始めた。 犯人グループの4人は犯行までに綿密な計画を立てている可能性が高い。 これは大手企業や投資家など、通常は容易に近づくことなど出来ない相手をターゲットに選んでいるからで、事件後、被害者達の周辺から決まって一人ないし二人の人物が消えることからも予測できる。 この日本で、まったく痕跡を残さずに人間が消えることなど不可能に近いが、本当に、まるで最初からそんな人間など存在していなかったように消えてしまうのだ。 該当者の個人データから写真、小さなメモに至るまで、昨日まであったものが事件後にはきれいになくなっている。 当然、指紋が検出されることもない。 おそらく消えた人物は、犯行に関わっている。 そうやって事前にターゲットの情報を掴み、犯行に及んでいるのだ。
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16 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:02:54.69 ID:3JEpidkd0 - 大島「そして消える人物は毎回女性…」
本多「そう、世間で言われている犯人グループの性別も全員女性」 大島「被害額はどのくらいなんでしょう…」 本多「さあね」 本多は意味ありげに口の端を上げて見せた。 大島「?」 本多「大島さん、コーヒーでも飲まない?奢るよ」 本多は突然席を立ち、部屋を出て行ってしまう。 大島は首を傾げながら、黙ってついていった。 自販機の前まで来ると、本多は適当に選んで、大島へ紙コップを差し出す。 安っぽい、しかし不思議と落ち着くコーヒーの香り。 本当はミルク入りが良かったのだが、奢ってもらう手前、言い出しにくく、大島は無言でブラックを啜った。 本多「衝立の向こうに人がいたろう?」 本多がソファに座ったので、大島は向かいに腰を下ろした。 大島「あ、さっきの部屋ですか?全然気づきませんでした」 本多「いたんだよ」 大島「はぁ…」
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19 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:04:13.82 ID:3JEpidkd0 - 本多「それでさっきの続きだけど、被害額云々より、盗まれた物自体がちょっとまずいんだ」
本多はそこで声を落とした。 本多「本来そこにあってはいけない物を、犯人グループは盗み出している。つまり被害者が違法に手に入れた品だ」 大島「そもそも被害者自身が犯罪者…」 本多「犯人グループは依頼されて、それを盗み返しているだけだ。盗んで、きちんと元の持ち主に返している。もちろん元の持ち主に聞いたところで、それらが手元に戻って来てるなんて口が裂けても言わないだろうけどね」 大島「だけどなんで元の持ち主は最初に警察に訴えなかったんだろう…。わざわざ犯人グループに頼んで盗み返させるなんて…」 本多「騙されて盗られた権利書や美術品…その他価値ある物…。本来であればすぐに被害届を出せばいい。だけど、どうしても被害届を出せない理由があるんだ」 大島「相手は大手企業や投資家…全員政財界に名の通った人物の息がかかっている。もし訴えでもしたら、こちらの身が危なくなる」 本多「うん…泣き寝入りするしかなかったんだよ」 大島「ひどい話ですね…」 本多「あぁ…しかし警察組織としてはそちら側に味方するしかない」
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21 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:06:00.68 ID:3JEpidkd0 - 大島「わかってます。それにその他にも犯人グループは毎回ある程度の現金や貴金属を盗み出しています。それらを当面の生活費や次の犯行資金に当てているはずです」
大島「どうせ依頼人からも報酬を受け取っているんだろうし、ヒーロー気取りだかなんだか知りませんけど、やっぱりこんなこと許せませんよ。本多さん、絶対に犯人を捕まえましょう」 本多「そうだね…」 本多と視線を合わせる。 本多はまだ新米の自分を、対等に見てくれている気がする。 その期待に、答えてみせよう。 本多「それからこれまでの聞き込みからわかっていることだけど、犯人グループひとりひとりの特徴は…」 大島「あ、ちょっと待ってください。ここであんまり捜査情報を喋らないほうが…」 大島は早速、先程から気になっていたことを指摘した。 いくら周りに人がいないとはいえ、ここは署員共通の休憩スペースである。 大島「続きは捜査本部でお願いします」 本多「おっ、急に大島さん、顔付き変わったなぁ…」 澄まし顔の大島に対し、本多はおどけたように返した。
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22 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:07:30.05 ID:3JEpidkd0 - 【GIANT MONSTER KITTY ALIEN】
柏木「やっと定時に帰れた…」 会社を出ると、空はまだ明るく、途端に解放感に包まれる。 この一週間は本当に多忙だった。 今日は待ちに待った金曜日である。 このまま真っ直ぐ帰るのは勿体ない。 寄り道でもしていこうか。 そういえばこの近くに最近出来たカフェ、まだ行ったことがない。 同期の子達の話では、なかなかおしゃれな雰囲気で居心地がいいと聞く。 柏木「おしゃれ…か…」 どこにでもいるOLの自分には、少々敷居が高い気がしてきた。 清楚系と言えば聞こえはいいが、柏木は地味なほうである。 同期の女の子達のような男性に媚びたファッションでもなければ、ブランド物を身につけたりもしていない。 着る服といえば母親と一緒に選んだ無難な形のブラウスとスカートである。 おしゃれなカフェに入る自分を、柏木はうまく想像出来なかった。
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23 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:08:20.31 ID:3JEpidkd0 - 柏木「たこ焼き買って帰ろうかな…」
結局柏木はカフェの前を素通りし、たこ焼き屋の前で足を止める。 帰宅したら母と一緒にたこ焼きを食べよう。 ついでに母のパート先の愚痴でも聞いてあげよう。 柏木は今時珍しい親孝行な娘だった。 柏木「ただいまー。お母さーん?」 平凡なマンションの一室を開けると、柏木は奥へ向かって呼び掛ける。 母の返事が聞こえた。 柏木「たこ焼き買って来たよ」 柏木母「あら由紀ちゃん、今日は随分帰り早いのね」 母は娘の顔を見ると、お茶の用意にとりかかりながら言った。 柏木「うん、今週ずっと遅かったから」 柏木母「お疲れさま。お仕事大丈夫なの?」 柏木「ほんとはまだ終わってないんだ」 柏木はそこで、悪戯っぽい笑みを浮かべると、小さく舌を出した。 母の表情が咎めるような険しいものへと変わる。
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24 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:09:03.72 ID:3JEpidkd0 - 柏木「でもあとちょっとだから、明日家で片付けるよ」
柏木は慌てて言い直すと、たこ焼きに手を伸ばす。 少し冷めたたこ焼きは、ぼんやりとした味をしている。 柏木「うん、まあまあおいしいよ」 柏木は仕事からたこ焼きへと、うまく話題を反らした。 母もたこ焼きを頬張ると、それ以上柏木を問いただそうとはしてこない。 その代わり、パート先の愚痴をこぼし始めた。 柏木母「店長たら、面接に来たのが若い子だとすぐ雇っちゃうのよ。ほら若い人ってせっかく仕事教えてもすぐ辞めちゃうでしょ?困るのよねぇ…」 柏木「そういえばこの間バイトで入った女の子、あたしと同じ年くらいだっけ?あの子はまだ続いてるの?」 柏木母「そうねぇ、最初はオドオドしてて心配だったけど、今はひとりで出前にも行けるようになったわ」
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25 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:10:22.63 ID:3JEpidkd0 - 【SUPER MEGA COP STORY】
大島「あ、今からお昼?」 交通課の前まで来ると、同期の梅田に呼び止められた。 梅田「そうなのー」 梅田はいつも、にっこりと目を細くし、きゅっと口角を上げたお手本のような笑顔を浮かべる。 小さめのランチバッグを顔の横まで上げ、一緒に食べないかと誘ってきた。 梅田「優子もお弁当でしょ?」 大島「ごめん、今日は出前頼んじゃった。それにこれから食べながら捜査についての会議なんだ」 梅田「うわぁ…さすが刑事課は違うな。あたし達交通課は気楽なもんよ」 梅田は冗談交じりにそう言うと、身を乗り出して外を眺めた。 梅田「出前まだ来そうにないねぇ…」 交通課は入り口に一番近いところに位置しているので、人の出入りをよく見ることが出来る。 逆に刑事課は署内では奥のほうにあるので、慣れていない人だとちょっとわかりにくい。 だから大島はいつも、出前を頼んだ際は交通課の前で待って、受け取ることにしていた。
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26 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:11:13.51 ID:3JEpidkd0 - 梅田「ランチの時まで会議なんて、新しい事件?」
大島「ううん、例の3人組窃盗グループ」 梅田「何、優子ついに捜査本部に加えてもらったの?すごいじゃん」 大島「いやいやあたしなんかまだ先輩方の足引っ張っちゃいそうで不安だよ」 梅田「優子なら大丈夫だって。同期の間では一番優秀だったじゃない」 大島「そうかなぁ…」 梅田「すごいなぁーあの窃盗グループを優子が追うのかぁ…ね、ぶっちゃけどこまで捜査進んでるの?」 大島「何、梅ちゃん興味あるの?」 梅田「そりゃあ世間で話題になってるからね、一応。それに噂だと、3人ともすごい美人だっていうし、犯行も無駄がなく鮮やかで大胆不敵!かっこいいじゃない。あたしもし警察官じゃなければ、窃盗グループのほうを応援しちゃってたかな」 梅田はうっとりとした表情で言った。 そうなのだ。 最近ではマスコミが窃盗グループについての様々な憶測記事を書くので、一般人の間には窃盗グループをまるでアイドルのように崇めたてる風潮が起きつつある。 それもまた捜査本部の悩みの種だった。 窃盗グループを捕まえ損ねれば厳しく責められ、そしていざ捕まえてしまうと、きっと彼女達を擁護する輩が現れる。 どちらにせよ警察のイメージは悪くなるのだ。
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- AKB大島「あたしが犯人を逮捕します!」
27 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:12:12.66 ID:3JEpidkd0 - 大島「全然かっこよくないよ。どんな理由があるにせよ、盗みは犯罪。あの3人組は最低の犯罪者なんだから」
大島は思わず梅田に言い返してしまった。 梅田は驚いたのか、ちょっと眉を上げて見せる。 梅田「確かに法律上は犯罪だけど、別に窃盗グループは私利私欲のために盗みをしてるわけじゃないでしょ?目撃者や現場に居合わせた人物を殺したりもしないし。弱きを助け、悪に鉄槌を喰らわすための犯行なら、少しくらいおおめに見てあげても…」 大島「そうだとしても、やっぱり駄目なものは駄目だよ。でないとあたし達警察の存在意義が危うくなる」 梅田「うん、まあそうなんだけどね」 梅田はまだ何か言いたそうであったが、出前が来てしまったため口をつぐんだ。 大島「あ、それ中身エビチリですよね?あたしですあたし」 大島が出前を持ってきた少女に向かって片手を上げた。 今時珍しく割烹着姿に三角巾を被った店員は、大島に気づいて笑顔で歩み寄ってくる。 注文した料理を受け取ると、大島は梅田に軽くウインクした。 大島「じゃあまた後でね」 足早に刑事課へと戻っていく。
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28 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:14:12.22 ID:3JEpidkd0 - 【SUPER MEGA COP ANOTHER STORY】
篠田「え?今日帰国?」 篠田は受話器に向かって驚きの声を上げた。 それでももう片方の手では休みなく鍋の中身をかき混ぜている。 安アパートの一室は、カレーの香りで充満していた。 篠田「佐江?今どこなの?え?もう羽田って…」 毎度のことながら、宮澤のフットワークの軽さには舌を巻いてしまう。 篠田「じゃあ気を付けて帰って来てね」 それだけ言うと、篠田は電話を切った。 直後、今度は騒々しい足音が玄関へ近づいてくる。 松井珠「ただいま麻里姉!」 元気良く帰宅したのは、珠理奈だ。 篠田はすでに足音の時点でそれが誰かわかっていた。 端正な顔立ちをしながら、いつも明るく無邪気な珠理奈は、この家の末っ子にあたる。
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- AKB大島「あたしが犯人を逮捕します!」
29 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:15:09.49 ID:3JEpidkd0 - 松井珠「またカレー?」
珠理奈は鞄を放り出すと、鍋を覗いてがっくりと肩を落とした。 篠田「文句があるなら食べなくていいよ」 篠田は姉らしく、ちょっと意地悪な口調で言う。 珠理奈は案の定、篠田の肩に抱きついて、語尾を伸ばした。 松井珠「嘘嘘、麻里姉の作るカレー大好きー」 大人っぽく見えて、中身はまだまだ甘えたがりの子供である。 篠田「制服着替えてきて。サラダ作るの手伝ってよ」 松井珠「はーい」 珠理奈は素直に返事をすると、高校の制服から私服へ着替えに、和室へと入っていった。 篠田「あぁまたこんなところに鞄放り出して…」 篠田はガスコンロの火を止めると、床から珠理奈の放り出した通学鞄を拾い上げる。 その際、鞄の中身がバラバラとこぼれ落ちた。
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- AKB大島「あたしが犯人を逮捕します!」
30 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:16:05.29 ID:3JEpidkd0 - 篠田「……!」
床に出来た参考書の山。 タイトルを見て、篠田はぎょっとした。 どれも普通の高校生が読むものとは思えない。 さらに鞄の中身を探ると、怪しげな薬品が入った小瓶が見つかった。 松井珠「あー!麻里姉勝手に鞄の中見ないでよ!」 着替えを終えた珠理奈が和室から出て来て、ひったくるように鞄を取り返す。 篠田は眉を吊り上げた。 篠田「珠理奈…こういうことはやめなさいって前にも言ったよね?」 松井珠「だって…」 篠田「だってじゃないでしょ!だいたい家の中でこういうことされて、何かあったらどうするの?このアパートだってやっと借りられたのに…何か起こしてここ追い出されたら、あたし達みんな生きていけないんだよ!」 松井珠「ごめんなさい…」 篠田は普段温厚で優しい人だが、怒らせるとかなり怖い。 珠理奈はしゅんと肩をすぼめた。 松井珠「あたしだって麻里姉達の役に立ちたかっただけなのに…」
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- AKB大島「あたしが犯人を逮捕します!」
31 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:17:01.35 ID:3JEpidkd0 - 篠田「あのね、珠理奈は普通に毎日学校へ行ってくれるだけで充分役目を果たしてるんだよ」
松井珠「嘘…あたしの学費とか稼ぐために麻里姉達だけ苦労させるわけにいかないよ!」 珠理奈は頑固だ。 篠田は呆れたように首を振った。 確かに珠理奈の言い分は理解できる。 そちらの方面で才能があることも知っている。 しかしこれ以上自分達の仕事に首を突っ込まれては、本末転倒なのだ。 珠理奈にだけは、自分達のような人生を歩ませたくない。 普通の女の子のように友達を作り、恋をして、おしゃれを楽しんで、真っ当な人生を歩んでほしい。 今の自分達にとって、珠理奈が人並みの幸せを手に入れることこそが希望なのだ。 そのためにはいくら手を汚したっていい。 しかし最近、篠田は疑問を感じはじめている。 そもそも自分達のような人間と一緒にいる自体、珠理奈に悪影響を及ぼしているのではないか。 ――じゃあ珠理奈をまたあのような施設に戻す? そう考えた時、次に頭に浮かぶ問いかけは必ずこれである。 珠理奈を施設に戻したほうがいいのか。 探せばそれなりの施設は見つかるだろう。 だが――。 ――もしまたあの時のような悲劇が起きたら? そこまで考えて、いつも篠田は躊躇してしまう。 結局珠理奈をこのまま手元に置いておいたほうがいい気がしてくる。 結論は出ない。 決まって堂々巡り、現状維持。 我ながら決断力のなさに辟易してしまう。
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- AKB大島「あたしが犯人を逮捕します!」
32 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:18:11.56 ID:3JEpidkd0 - 篠田「とにかくこれ以上危ないことはしないで!」
結局篠田はそう言って話を切り上げると、再び鍋に向かった。 それから思い出し、まだいじけている珠理奈に声をかける。 篠田「そういえばさっき電話があって、佐江ちゃんもう日本に着いたみたいだよ」 松井珠「ほんと!?」 珠理奈の表情がパッと明るくなる。 立ち直りの早さは彼女の数多い長所の中の一つだ。 松井珠「やった、今日は久しぶりにみんなでごはんだー」 珠理奈が小躍りを始めるのを、篠田は微笑ましく眺めた。 松井珠「あ、おかえりー」 と、突然珠理奈が玄関の方を向く。 宮澤が帰って来たのかと思ったが、空港から真っ直ぐ来たにしても早すぎる。 ということは――。
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33 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:18:55.22 ID:3JEpidkd0 - 篠田「梅ちゃん…」
篠田は歩いて行って、玄関でヒールを脱ぐのに手間取る梅田の鞄を持ってやった。 梅田「ありがとう。もう一日働くと足がパンパン…」 梅田がしんどそうに笑う。 篠田「お疲れさま」 松井珠「彩姉、佐江姉が今日帰って来るってー」 梅田「佐江が…」 梅田はハッとして、篠田と視線を合わせた。 篠田がゆっくりと頷く。 篠田「いよいよだね…」
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35 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:30:27.42 ID:3JEpidkd0 - 【THE GHOST SHOW】
夜になった。 渡辺「怖いなぁ…」 待ち合わせ場所である廃病院前には、博と一緒に向かった。 道中、渡辺の心臓は壊れそうなほど激しく鼓動していた。 真面目な学生である彼女は、これまで深夜に出歩くなどほとんどなかった上に、これから足を踏み入れる場所は潰れた病院である。 しかも、無断で侵入するのだ。 禁忌を重ねるという罪悪感が、渡辺の心を蝕む。 渡辺「あ、小嶋さん!河西さん!」 2人の先輩はすでに到着していた。 なんとなく学校外で会うと新鮮な気分である。 渡辺「あとはさっしーだけですか?」 河西「さっしーちゃんと懐中電灯持って来てくれるかな…」 渡辺「ここ、思ったより外灯が届かないもんですね」 渡辺は暗闇に目を凝らす。 街の明かりは遥か遠く、今は自分の足先すら確認するのが難しい。 先輩2人が到着していることに気付いたのも、ほとんど声で判断した部分が大きかった。 2人それぞれ、可愛らしい声の持ち主である。
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36 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:31:25.24 ID:3JEpidkd0 - 小嶋「遅刻した罰として帰りはさっしーにアイス奢ってもらおう」
小嶋は甘い声で厳しいことを言う。 河西「あたしはアイスよりミルクティーがいいな」 河西は独特の鼻にかかった声を放った。 そうこうしているうちに自転車のライトが近付いて来て、指原が現れた。 指原「遅れてすみません」 謝った拍子に、例のリュックサックが肩からずり落ちる。 指原「これ、懐中電灯」 指原はよほど飛ばして来たのか、息を弾ませながら言った。 自転車の篭から懐中電灯を4本取り出す。 小嶋「わぁーありがとー」 渡辺「あれ?1つ足りないよ?」 博「俺と麻友ちゃんで一緒に使えばいいよ」 河西「麻友ちゃん、大丈夫?」 渡辺「あぁはい、平気です」 そうしていよいよ病院の中に足を踏み入れた。
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38 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:32:34.43 ID:3JEpidkd0 - 小嶋「わぁ…」
中は想像していたほどに荒れていなかった。 もちろん埃は被っているが、ロビーに置かれたソファやカウンターなどはまだ充分使えそうである。 壁に落書きや、侵入者に荒らされた形跡もなく、病院特有の神聖な雰囲気が未だ維持されていた。 ただ、よく観察してみると、床がところどころ剥がれていたり、枯れた観葉植物が残されていたりと、なんとも物寂しい。 改めて、ここが世間から見捨てられた場所なのだと認識する。 博「じゃあ俺たちはあっちを下見してこよう」 渡辺「うん。集合場所はこのロビーでいいですか?」 小嶋「わかったー」 河西「あたし達はこの辺りから見て行こうか」 渡辺と博は階段を上り、小嶋と河西は1階を下見することにする。
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39 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:33:24.42 ID:3JEpidkd0 - 渡辺「行ってきます」
思わぬアクシデントで、博と一緒に行動出来ることになった。 渡辺は内心、安堵している。 薄々気づいていたが、2人の先輩は頼りにならない。 しかし唯一の男子部員である博といれば、何か起きても大丈夫な気がした。 そこまで考えて、渡辺ははたと気付いた。 ――何かって…何? 自分は今、一体何を想像したのだろう。 こんな深夜に自分達の侵入を咎める者などいない。 それにここは廃病院とはいえ、今まで一度も所謂出ると噂されたこともなく、つまり心霊スポットとは違うのだ。 何も起きるわけない。 自分達は無事に下見を終えるだろう。 博「麻友ちゃん…?」 先ほどから黙ったままの渡辺を心配して、博が顔を覗きこんでくる。 渡辺「何でもないよ」 渡辺は慌てて作り笑いを浮かべた。
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40 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:34:21.57 ID:3JEpidkd0 - 一方同じ頃、1階では小嶋と河西がキャーキャーいいながら下見をしていた。
小嶋「見て見て!聴診器見つけたよ。撮影の小道具で使えるかなー?」 河西「もっといかにもな物がいいよ。注射器とか…メスとか!ホラー映画なんだから」 小嶋「そっかぁ…あ、さっしーはどう思う?」 小嶋は聴診器を持ちながら振り返った。 小嶋「さっしー…?」 てっきり後ろからついてきてると思った指原が、いない。 河西「さっしーは麻友ちゃん達と一緒に2階に行ったんじゃない?」 小嶋「え?そうなの?」 小嶋はびっくりして、思わず聴診器を取り落とした。 河西「あたし達ずっと2人だったじゃない」 河西が呆れたように言う。 それから奥に移動式のベッドがあるのを見つけ、駆けていった。 小嶋「変なの…」 小嶋はまだその場で、腑に落ちない表情をしている。 ――じゃあずっと後ろについて来てた足音は何…?
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41 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:36:01.26 ID:3JEpidkd0 - 【SUPER MEGA COP ANOTHER STORY】
松井珠「いっただっきまーす!」 行儀よく両手を合わせ、珠理奈は夕食に取りかかる。 篠田作のカレーはいつも絶妙な辛さでおいしい。 さすがに頻繁に食卓へ出されると飽きてしまうし、文句も言うが、実のところ珠理奈はこのカレーが大好物である。 松井珠「……」 しかし今日はゆっくりとカレーを味わう余裕はない。 さっさと皿を空にすると、珠理奈はそっと襖に近づいた。 リビングでは篠田達の話し合いが始まっている。 宮澤が帰宅したので、間違いなく仕事の打ち合わせだ。 まだ子供だからという理由で、一人だけ除け者なんて許せなかった。 だから珠理奈は和室から、そっと姉達の声に耳を澄ます。 怪しまれないように時折カレー皿とスプーンを合わせ、わざと音を立てるのを忘れない。 篠田達はきっと、自分が呑気に夕食を食べていると思い込んでいるはずだ。
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42 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:37:07.01 ID:3JEpidkd0 - 宮澤「例の会社が中国の野生パンダ保護団体に多額の寄付をしたなんて真っ赤な嘘。そんな事実は確認出来なかった」
宮澤が中国に渡り、調べた事柄を述べる。 梅田「じゃあまだお金はあの会社の金庫の中?」 宮澤「うん」 篠田「ううん、もしかしたら権利書のまま残されているのかも。頃合いを見て現金化する気だよ」 梅田「依頼主の要求は、権利書を取り返して欲しいってことでしょ?じゃあ今ならまだ間に合うかも」 篠田「うん…明日、決行する…」 宮澤「よっしゃ!」 篠田「佐江ちゃん、帰国したばっかりで大丈夫?」 宮澤「平気平気。今回の依頼人は報酬かなり弾んでくれるんでしょ?明日決行すれば、来月の珠理奈の修学旅行代が余裕で払えるじゃん」 梅田「そうだね、頑張らなきゃ…」 篠田「警察の動きはどう?」 篠田は梅田に問いかけた。 梅田は以前から警察に潜入している。
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43 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:38:29.43 ID:3JEpidkd0 - 梅田「今のとこ特には…あ、でも捜査からエースが下りたみたい」
宮澤「捜査本部が縮小されたの?」 梅田「さぁ…でもエースの後任にあたしの同期が選ばれた」 篠田「それって、用心したほうがいい?」 梅田「まだなんとも言えないかな?彼女、同期の中では確かに優秀だったけど、刑事としての経験は浅い。まああの様子からだと、まだ警察は全然あたし達に近づけてないね」 篠田「だけどいつか必ず警察はあたし達に辿り着く。今回の仕事で最後になればいいんだけど…」 篠田はそう言って、ちらりと襖を見やった。 先程から珠理奈がやけに騒々しい。 普段なら気をつけるはずなのに、今日は無駄に食器のぶつかる音が聞こえる。 行儀のいい珠理奈にしては珍しいことだった。 ようやく施設の呪縛から解放され、伸び伸びと食事出来るようになった証拠だろうか。 だとすればいい傾向だ。 あんな施設の記憶など、早く消えてしまえばいい。 あの場所で、自分達はこの世の地獄を見た。 篠田「あれからもう3年になるのか…」
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44 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:39:53.70 ID:3JEpidkd0 - 篠田には両親がいなかった。
なぜいないのか、理由は知らない。 教えてくれる人もいない。 生まれた時から施設という場所で育った。 途中、様々な事情で施設を点々としたことはあったけれど、概ねどこも同じだった。 施設にいる子供はみんな何かに怯えるように周囲の大人達に甘え、顔色を窺い、そのくせ心の底のほうでは拒絶している。 大人を、子供を、教師を、つまり世界のすべてを。 誰も本音で語る子供などいない。 3人に出会ったのは、最後にいた施設だ。 明るく面倒見のいい宮澤は、子供達の間では常にムードメーカーだった。 彼女がいるだけで、空気が柔らかくなる。 無邪気で優しく、いつも花のように笑う梅田からは、両親がいない子特有の暗さや悲壮感が感じられなかった。 彼女が何か言うと、大抵の問題は解決される。 そして珠理奈。 まだ幼かった彼女は、出会った当初、あまり笑わなかった。 いつも心を閉ざし、他人を遠ざけ、孤立していた。 しかしそれが本当に彼女自ら望んだ結果でないことを、篠田は見抜いていた。 だから例え無視されようと、辛抱強く声を掛け続けた。 そんな篠田の努力が実ったのか、珠理奈は少しずつ笑顔を見せるようになり、大人びた外見の奥に隠されていた無垢な素顔を露にし始めた。 いつの頃からか、4人で過ごす時間が多くなった。 互いの虚しさや寂しさを埋めようとしたら、まるでぴったりとパズルのピースが嵌まるように、自分達はよく気が合った。 周囲からはまるで4姉妹みたいだねと冗談を言われた。 本当にそうだったらいいのに、と何度も篠田は思った。 しかし平和な日々はある日突然、呆気なく壊れた。
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45 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:41:51.73 ID:3JEpidkd0 - 施設の新しい経営者として、あの夫婦が現れた。
外面が良く、社会的信用度も高かった夫婦が、まさか裏では自分達をこき使い、気に入らないことがあれば殴り、罵倒し、家畜のように扱っていたことを、世間は気付いていなかっただろう。 いつか施設を卒業する時のためにと、こつこつ貯めていたお金は、すべて夫婦に奪われてしまった。 食事のマナーがなっていないと言っては、髪を掴んで引きずり回された。 掃除後のチェックで、床に髪の毛が1本落ちていただけで頬を張られ、日暮れまで頭から水を掛けられ続けた。 そんな生活でも、篠田達年長者は要領を覚え、夫婦の攻撃を回避する術を身につけられたのだが、まだ純真な珠理奈には無理だった。 すぐに限界が来た。 次第にやつれ、疲弊していく珠理奈の、一体何が気に障ったというのか、夫婦は彼女ばかりを攻撃するようになった。 珠理奈は食事中も、寝るときも、耐えず緊張し、気を配っていなければならなくなった。 夫婦はそれでも意地の悪い視線で珠理奈を監視し続け、少しのミスも見逃さなかった。 珠理奈が何か間違えばすぐに追及し、責め立て、そして殴った。 あの日々を地獄と呼ばないで、他に何があるというのだろう。 篠田達にとっても眠れない日々が続いた。 なんとか珠理奈を救えないものか。 そんなある夜、施設で火災が起きた。 出火したのは夫婦と年少者達が眠る建物だったため、同じ敷地内のプレハブ小屋にいた篠田達年長組は難を逃れた。 さらに幸運だったのは、その夜、珠理奈がお仕置き部屋と呼ばれる物置小屋に拘束されていたために無事だったことである。 真冬の、とても乾燥した日だった。
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46 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:43:42.49 ID:3JEpidkd0 - 建物はあっという間に燃え尽き、中の子供達を助け出す隙もなかった。
だがこれで、自分達を虐待し続けた夫婦もこの世から消えたことになる。 赤々と燃える炎を、4人並んで茫然と眺めた。 遠くで消防車のサイレンが鳴り響いていた。 まだ火事の野次馬も集まっていない。 あの時、最初に逃げようと言い出したのは誰だったか。 今となっては思い出せないけれど、とにかく自分達はその場から一目散に逃げた。 施設が燃えても、自分達はまた別の施設に移されるだけだ。 もしかしたら、4人バラバラにされるかもしれない。 新しい施設に、またあの夫婦のような人間がいないという保証はどこにもない。 親がいないというだけで、自分達は他人から攻撃対象にされてしまうことを知った。 それならいっそ、4人で行ける所まで行ってみよう。 自分達がここから消えても、きっと世間は火事の死傷者リストに含めるだけだ。 今までの自分は、あの火事の夜に燃えて消えた。 これからは生まれ変わり、4人で力を合わせて生きていこう。 3年前、篠田はそう誓ったのだ。 篠田「あーあ…3年間あっという間だったな…」
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47 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:45:17.07 ID:3JEpidkd0 - 施設から姿をくらまし、目まぐるしく日々は過ぎた。
住む所もない。 お金もない。 戸籍もない。 そんな4人が集まったところで、生活なんか出来るわけがない。 まともな所へなんか行けない。 しばらくの間、人目を忍ぶようにして生きた。 お金のためなら、どんな怪しげな仕事にも手を染めた。 怪しい物事の傍には、怪しい人間が集まるものである。 周辺には、太陽の下を歩けないような者達が集まりだした。 なぜかそういう人達は決まって片足を引き摺っていたり、歯が抜けていたりした。 戸籍屋も、その中のひとりだった。 篠田達に戸籍がないとわかると、戸籍屋は4人分の戸籍を用意してやると持ち掛けてきた。 ただし、要求された額はとても払えるものではなかった。 一刻も早くまともな仕事や生活を送るには、一番に戸籍が必要である。 篠田は喉から手が出るほど、それが欲しかった。 だから、次に戸籍屋が提案してきた話に乗った。 戸籍代を支払えないのなら、稼げる仕事を紹介してやる。 その仕事を引き受けるのなら、今すぐに使える戸籍を用意してやってもいい。 ただし、一度引き受けたら、支払い額に達するまで絶対に仕事をやめることは出来ない。 篠田はこの条件を呑んだのである。 以来、篠田達は裏社会専門の窃盗グループとなった。 あれから3年。 戸籍屋への借金返済は、あと少しで終わる――。 松井珠「明日…決行…」 一方、篠田が過去を振り返っている時、珠理奈は襖の向こうで今を見つめていた。 今、自分に出来ることはないだろうか。
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48 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:47:32.33 ID:3JEpidkd0 - 【GIANT MONSTER KITTY ALIEN】
柏木「おはようございます」 ビルの中に入ったところで、警備員が2人立っていた。 休みの日にまでご苦労なことである。 そういう自分も、休日出勤をしているのだが。 柏木「休みの日にまで会社に来ちゃうなんて、最悪…」 セキュリティカードを翳し、無人のオフィスに入ると、柏木はため息をついた。 今朝、持ち帰った仕事を自宅で片付けようとしたところ、資料をデスクに置き忘れてきてしまったことに気づいた。 資料がなければ仕事が出来ない。 仕方なく、柏木は重い足取りで会社までやって来たのである。 柏木「あーあ…あったあった」 デスクの引き出しを開け、ファイルを取り出す。 苛々しているので、多少荒っぽい動作だった。 背後で掲示物か何かが外れ、床に落ちる音がした。 柏木「?」 振り返るとそこに、派手なスーツを来た男が立っていた。
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50 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:53:20.70 ID:3JEpidkd0 - 柏木「専務…!!い、いらしてたんですか?」
男はこの会社の専務で、その役職は会長の息子だから与えられているというものだった。 絵に描いたような高慢で、ずる賢く、甘ったれた男で、柏木は苦手である。 普段は仕事と偽ってふらふら外出ばかりしているくせに、たまにオフィスに顔を出したかと思えばえらそうに見当違いな指図をする嫌われ者だ。 専務「あ、あぁちょっと必要な物があってね…」 専務のほうも、柏木がここに居ることに驚いた様子だった。 手にしたアタッシュケースを大事そうに胸の前で抱えながら、目を丸くしている。 それから柏木の顔をまじまじと眺め、にやりと笑った。 ――嫌だな…。 柏木の胸は早くも悪い予感でいっぱいになる。 ここで専務の相手をしている暇などない。 早く帰って仕事を片付けなければ。 専務「柏木くんは今日どうしたの?休みの日にまで出勤なんて、今頃彼氏が寂しがっているんじゃない?」 案の定、専務は手近な椅子に腰を下ろすと、ねっとりとした口調で話しかけてきた。 柏木「ちょっと忘れ物してしまったので…。それに彼氏なんかいません」 柏木は嫌悪感を押し殺し、愛想笑いを浮かべた。
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51 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:54:33.29 ID:3JEpidkd0 - 専務「ふうん…」
専務はまたニヤニヤ笑い。 柏木は全身に鳥肌が立つのを感じた。 一刻も早くここから立ち去りたい。 しかし曲がりなりにもこの男は専務である。 邪険に扱うことなど出来ない。 柏木「せ、専務?コーヒーでもお淹れしましょうか?」 柏木は取りあえず給湯室に逃げる作戦を思いついた。 コーヒー一杯でも飲ませれば、後はなんとなく帰宅する雰囲気に持って行けそうである。 しかし、そもそも専務は急ぎの用事だから、普段滅多に来ないオフィスにわざわざ出向いて来たんじゃないだろうか。 だとすれば、コーヒーは断ってきそうである。 専務「ああ、じゃあ頼むよ」 柏木「はい」 ――ちぇっ、飲むのか…。 自分から言い出しておいて、柏木は心の中で舌打ちした。 給湯室へと向かう。 ここは一応来客用の高価なコーヒーカップを使ったほうがいいだろう。 来客じゃないけど。 コーヒーカップは食器棚の一番上の段にあり、柏木は背伸びをして、さらに腕を伸ばさなければ届かなかった。 無理な体勢をしたせいで、足元がふらつく。
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52 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:55:40.60 ID:3JEpidkd0 - 柏木「キャッ…」
すぐ隣の冷蔵庫のぶつかってしまった。 その拍子にマグネットで留められていたデリバリーのメニュー表がバサバサと床に散らばる。 柏木「もお…今日はほんとツイてないな…」 柏木は肩を落とすと、屈みこんでメニュー表をかき集めた。 ピザ屋に蕎麦屋に弁当屋――、中には柏木の母がパートをしている店のメニュー表もある。 母は今日も朝からパートに出かけた。 自宅で仕事を終えたら、母の代わりに家事のひとつでも片付けてあげようと思っていたのに、とんだ邪魔が入ったものである。 それに、ここで大嫌いな専務にコーヒーを淹れるより、家で大好きな父にお茶を出してあげたい。 親孝行な柏木は心底そう思った。 柏木「さーってと、適当にコーヒー淹れて帰ろう」 柏木は気を取り直すと、コーヒーカップを持ち出し、本当に適当な分量でインスタントコーヒーを作る。 給湯室にはドリップ式のコーヒーも常備してあったし、そのほうが断然香りがいいのだが、もうどうでもいい。 柏木はほとんど自棄になっていた。 柏木「専務、コーヒーはいりました」 泥のようなコーヒーを持って、オフィスに戻る。
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54 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:57:52.49 ID:3JEpidkd0 - 【THE GHOST SHOW】
小嶋「ねぇー?ほんとにさっき後ろで足音聞こえたんだってば」 河西「やめてよ怖いこと言うの」 小嶋と河西は病院内をさらに奥へと進んでいた。 河西「あ、あれ?」 突然、河西が焦ったように手を振る。 手元の光がチカチカと点滅した後、ふっと消えた。 河西「懐中電灯、電池切れちゃったみたい」 小嶋「まだあたしのがあるから大丈夫だよ」 小嶋は大きく手を上げると、電灯の光を足元から前方へ移した。 その時、光の届く範囲ぎりぎりのところで何か黒い影が動いた気がしたが、次の瞬間には消えている。 ――気のせい…だよね…、うん。 河西「もうそろそろ…ロビーに戻ろうか。麻友ちゃん待ってるかもしれないし」 河西が消え入りそうな声で言った。 先ほどから小嶋が不可思議なことを言うので、怖くなってしまったのである。 小嶋「そうだね」 そうして小嶋が踵を返した時だった。
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55 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 10:59:03.01 ID:3JEpidkd0 - 小嶋「え?」
今度は小嶋の持つ懐中電灯が消えた。 周囲が暗闇に包まれる。 小嶋「もうさっしーの奴め、欠陥品持って来たんだな」 河西「どうしよう…暗くて先が見えないよ」 小嶋「携帯のライトは?」 河西「そ、そうか…あ、あれ?」 小嶋「?」 河西「携帯、電源切れてる。嘘…ちゃんと充電してあったのになんで?」 小嶋「あたしのものだ。おかしいねぇ」 河西「何なのこれ…さっきから変だよ…なんか…あたし達以外に誰か居そうな気がしてきた」 小嶋「ふうん」 河西「ほんとだよ!?陽菜ちゃんだってさっき後ろで足音がしたって言ってたじゃない!もしかしてこの病院…呪われて、」 河西が言い終わらぬうち、衝撃音とともに非常灯が点いた。
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56 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 11:00:14.14 ID:3JEpidkd0 - 河西「キャー…!!!」
廃病院に電気が通っているわけない。 もし通っていたとしても、一体誰がスイッチを押したのだ。 その事実が、河西をパニックに陥れる。 河西「もうやだこんなとこ、帰りたいよ…」 河西は滅茶苦茶な方向へと駆けて行ってしまう。 小嶋「あ、待ってよー」 このような事態においても、小嶋には余裕が窺える。 特に河西を追いかけようともせず、不思議そうに頭上の非常灯を眺めていた。 河西「帰る…絶対帰るんだから」 一方河西はひとり、無我夢中で通路を進む。 どこかに外へ繋がる所があったら、すぐにでも飛び出すつもりだ。 もう河西の頭の中には、他の部員を心配するという気持ちもない。 とにかく自分だけでもここから出て、賑やかな場所に行きたい。 ただそれだけだった。 もつれる足で、角を曲がる。 瞬間、目の前には知らない女の顔があった。 長い髪を振り乱し、恨みがましい目でこちらを覗き込んでいる。 河西「……!!」 声を上げようとしたが、どんなに振り絞っても河西の喉からは空気しか出なかった。 女があまりにもこちらを睨むので、ふいと視線を下げる。 小刻みに震える自分の足の向かいで、女の足は完全に床から浮いていた。 ――この子…人間じゃない…! そこでようやく声が出る。 河西は喉が張り裂けそうなほどの悲鳴を上げた。
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57 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 11:01:24.11 ID:3JEpidkd0 - 一方その頃、渡辺は――。
渡辺「非常灯が点いた…なんで?」 渡辺は周囲を警戒し、きょろきょろと視線を動かした。 小嶋か河西が点けてくれたのだろうか。 お陰でだいぶ足元が明るくなり、動きやすくなったが、病院内の不気味さは増した気がする。 博「大丈夫だよ、麻友ちゃん」 突然、博が渡辺の手を握る。 渡辺はたいして恐怖を感じていなかったのだが、心の奥のほうがきゅんとこそばゆくて、不思議と嫌じゃなかった。 握られた手をそのままにしておく。 渡辺「手、冷たいね」 博「麻友ちゃんの手は温かい」 渡辺は恥ずかしさにうつむきながら、博に引かれるようにして通路を進む。 と、前方にある扉から人影が飛び出して来た。
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58 : ◆x1G.Xq6aH2 [sage]:2013/07/26(金) 11:02:43.56 ID:3JEpidkd0 - 指原「良かったまゆゆ〜、探しちゃったよ」
指原だった。 渡辺と博は反射的に繋いだ手を振りほどく。 なんとなく指原に手を繋いでいるところを見られるのが気まずい。 指原は半泣きになりがら、へっぴり腰でこちらに歩いてきた。 渡辺「さっしー!ひとりだったの?小嶋さん達と一緒だったんじゃ…」 指原「途中までついて行ってたんだけど、いつの間にか見失っちゃって…てかいきなり非常灯点くから怖くて怖くて…」 渡辺「さっしー、一緒に周る?」 指原「お願い…もうひとりじゃ怖くて腰が抜けちゃって、」 渡辺「……?!」 突然、指原の動きが止まった。 渡辺「さっしー?」 指原は目を白黒させて、ただ口をパクパクと動かす。 次の瞬間、何かに引っ張られるように床に伏せると、ずるずると後退し始めた。 指原「うわぁぁぁぁぁぁ…助けて助けて助けて助けて…!!」 指原は本当に、誰かに引き摺られているような仕草を見せ始める。 見えない手に足を掴まれ、必死に抵抗している様子である。 死に物狂いで腕を伸ばし、床に手を付き、助けを求めて来た。
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