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名無しさん@実況は禁止です
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』

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【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
1 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:19:22.31 ID:ScL4UK+F0
【SKE小説】 SKEはESP? 『強き者よ』

の続編です。

規制されていて、なかなかスレを立てられませんでした。


今回はサスペンス風に仕上げて見ました。
暇つぶしにでもどうぞ。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
2 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:22:16.57 ID:ScL4UK+F0
『overture(SKE48 ver.)』


男達はテーブル状に広げた地図の上に何個かの円を書きながら作戦を立てていた。
「大丈夫だ作戦は完璧だ」
「準備も順調だし。あともう少し改造したら完全に仕上がる」
リーダー格の男は更にもう一人の男に問いかける。
「店のリサーチはついたか?」
聞かれた小柄な男は
「ばっちり。その後のルートも任しておいて」
とノートパソコンを見ながら親指を立てた。
「よし、とにかく誰になるか分からないけど明日から待ち伏せ作戦決行だ」

そこから見える風景は雨に煙っていた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
4 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:25:26.86 ID:ScL4UK+F0
>>3
ありがとうございます。
どうぞ最後までお付き合ください。



『握手の愛』


優希は朝からそわそわしていた、何故ならあの事件以来初めての握手会だったから。
珠理奈のレーンは長蛇の列で相変わらずの人気の凄さを表している。
しかし、優希はその待ち時間さへ愛しく感じていた。
やがて、自分の番が回って来る。
「優希っ!」
と大きな声を上げたのは珠理奈の方が先だった。
「どうあれから、学校大丈夫?」
珠理奈が心配するのは当然だった。

優希は学校で酷いいじめを受けていた、でも同じ歳の珠理奈の頑張りを見て
自分も頑張らなくてはと思い始めた頃、初めてファンレターを出してから
珠理奈との手紙のやり取りが始まった。
少しずつ絆を結びながらも、何とか日々を過ごしていたが
珠理奈が倒れてから優希は自責の念に苛(さいな)まれ、ついに羽豆岬で命を断とうとする。
それを珠理奈をはじめとするTeam ESPが自分達が持つ特殊能力で無事優希を救ったのだった。

メンバーが持つ特殊能力とは

松井珠理奈: 
意識すると自分の周りの時間の流れを遅くする事が出来、その中で自分だけが普通の動きをする事が出来る
その為に周りと比べる珠理奈は速い動きをする事が出来る。しかし意識を解くと副作用としてずれた時間分だけ
自分自身が眠った様に動きが止まってしまう。

松井玲奈: 
その人が大切にしている(念がこもっている)持ち物とだけ話が出来る。

中西優香: 
自ら“Healing Human”と言うほど、癒しのパワーを持ち人を落ち着かす事が出来て
時には眠らせる事も出来る。

古川愛李: 
ペアーである物なら、離れ離れになってもその片方さへあればそれから何らかを感じ取り
もう一つの物がどこにあるか見る事が出来る。

向田茉夏: 
その人物に触れるとトイレに来たいかどうかが分かり、その場所が知らない所だとして
そこから近いトイレの場所さへ分かる。ただし自分が該当者の場合のみその能力は発揮されない。

松村香織: 
街灯や他人の家の電燈が点く大まかの時間が分かる。それが1時間以内だと正確な時刻が分かる。

須田亜香里: 
いつ風が吹くのか分かる。特に突風が吹くタイミングはぴたりと当てる。

出口陽: 
彼女自身何ら特殊能力はないが彼女達を束ねTEAM ESPを結成し
自称プロデューサーを名乗っている。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
5 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:28:59.84 ID:ScL4UK+F0
「うん大丈夫。あれから今までがうその様に学校生活が楽しくなったよ」

握手をしながら短い会話をする。

「もう直ぐお昼だから一緒に食べようよ」

優希は珠理奈の提案に返事を戸惑っていると

「すいません。湯浅さんを呼んでもらいますか?この方がちょっと…」

珠理奈はそこにいる係員に怒った口調で呼びかけた。
声を掛けられた男は直ぐに無線で湯浅に来てほしい旨を伝える。
驚いている優希に珠理奈は周りに分からないようにウィンクした。
その間珠理奈のレーンが滞ったのでざわつき始める。
程なくして湯浅が駆けつけて来た。

「どうした、珠理奈」

湯浅は珠理奈と一緒にいる人物を見た。

「あっ、優希ちゃん…」

珠理奈はその声を遮る様に

「この人が何か話があるようなので、湯浅さん聞いて貰えますか」

とぶっきら棒の声とは裏腹に湯浅に対してもウィンクを送る。
湯浅はそのサインで全てを悟った。

「わ、分かった。それではお話は私が聞きますのでこちらに」

と優希を導くように先に行く。

「・・・珠理奈?」

泣きそうな表情の優希を見て

「いいから、湯浅さんに付いて行って」

ささやき声で促した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
7 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:32:58.73 ID:ScL4UK+F0
>>6
まさしく!ww



黙って湯浅の後を付いて行くと誰もが好奇の目で優希を見た。
彼女は恥ずかしくなって下を向きながら黙って歩いた。
やがて、スタッフが入るエリアに来ると湯浅は笑顔で振り返り

「ごめんね、優希ちゃん。こうでもしないと周りが色々うるさいんだよ、
珠理奈もその辺の所を理解してるから、分かってあげてね」

そう言いながら湯浅はスタッフから『staff pass』を受け取ると優希に渡して首から掛ける様に言った。
そのカードには『GUEST』と記されていた。

「もうすぐお昼だから皆帰ってくる迄ちょっとそこで待ってて。コーヒーやジュースは飲み放題だから自由にね。
ご飯はメンバーが来てから一緒に食べればいいからね。じゃ僕は用事があるから」

と湯浅は優希だけ残しその場を離れた。


それから少ししてメンバー達が次々と帰って来る。
優希を知っている者は再会を喜ぶように集まってきた。
その内自然にTeam ESPの面々が集結する形になるが珠理奈と玲奈だけは遅れているのかそこには居なかった。
学校は大丈夫?と珠理奈にされた質問を訊かれる。
それだけでメンバーの愛を感じ取れた。
昼ご飯にしようと誰かが言い、優希をケータリングまで連れて行こうとするが
優希はそれを「珠理奈が来るまで」と断った。
暫くして玲奈が帰って来る、玲奈は優希を見つけると大袈裟に喜びながら抱きついて来た。

「優希ちゃん!元気だった?この前、珠理奈に貰ったメロンパンめちゃくちゃ美味しかったよ、
いい店知ってるね。ああ、珠理奈ももうすぐ来るよ、ほらあそこにいる」

と入り口付近を指差すとそこにはこちらに向かって走ってくる珠理奈が確認できた。
やがて玲奈と珠理奈と優希は一緒に食事を取りに行った。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
8 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:37:19.15 ID:ScL4UK+F0
優希はSKEのメンバーと食事を取っていると普通は自分だけが部外者だと感じる筈なのに
実際はそんな思いをする事無く友達同士でいるような錯覚を起こしていた。
それは皆が気さくで優希を自然に受け入れてくれてるからだと分かっている。

「ところで優希、学校は本当に大丈夫なの」

「あの時はありがとう。珠理奈が私の為に頭を下げてくれたから私の周りの環境が変わったの
クラスも学年も違う人からあちこちで私もSKEのファンですって声を掛けられて、
新たな友達が増えたよ。その内に数人のクラスメートからも今までごめんなさいって謝られて
今は学校に行くのが楽しくてしょうがない」

「それは良かった。やっぱりにししに相談して正解だった」

それを聞いてた出口が口を尖らせながら話に入って来た。

「珠理奈、何で私じゃなくて中西に相談するのよ」

「そりゃ、相談内容によるでしょ」

と珠理奈の代わりに玲奈が答えると周りの皆は無言で頷いた。

「まぁ、今回は仕方ないけど今度は私にも相談しなさい」

「は〜い、わかりました」

珠理奈はふざけた調子に敬礼をした。

「で、珠理奈どんな相談したの?」

優希の問い掛けに珠理奈は少し照れながら話した。

「最初私は優希の学校に行っていじめをしている奴らに『優希をいじめるな!』って文句を言ってやろうと思って
にししに相談したんだ。すると『そんなことしちゃダメ』って注意されて『あなたは優希さんの友達である前に
SKEのメンバーでもある。それに、そんな事を言ったら余計に彼女余計に虐めに遭うよ、
それよりもこれからも優希さんをよろしくお願いしますって言った方が効果がある筈。
なんせ珠理奈が言うんだから、それなら誰も怒らせる事無く傷付ける事もない。
もちろん珠理奈も非難される事もないから文句を言うより優希さんをバックアップしてあげたらいいんじゃない』って
アドバイスしてくれたの、さすが大人のにししだわと改めて見直した」

当の中西は顔を赤らめながら「ちょっと珠理奈、やめてよ」と照れ笑いを浮かべた。

「そうだ、珠理奈は怒られなかった?みんな写メを撮ったりしてツイッターとかあげてるみたいだったから」

優希が思い出したように珠理奈に訊くと

「うん、実は次の日湯浅さんに…」

珠理奈はあの時の事を思い出していた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
9 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:42:26.53 ID:ScL4UK+F0
ちなみに、「T」はここで読む事が出来ます。
http://unkar.org/r/akb/1371354086


SKE劇場の楽屋に入ってすぐに珠理奈は湯浅に呼び出された。
何だろうといつもの感じで支配人室に入ると、そこには腕組をしながらノートパソコンを見て入る湯浅がいた。

「珠理奈、昨日の仕事明けどこへ行ってた?」

その質問で大方の予想はつく。そして珠理奈は開き直って正直に答えた。

「優希の学校に行って帰り道で一緒にお茶しました」

ぶっきら棒に答えると、湯浅は無言でノートパソコンを珠理奈の方へ向け

「これを見ろ、お前が勝手に学校訪問したのが色々な所で賑わせてるぞ」

口調で怒っているのがわかる。

「それがどうしましたか?別に悪いことしているつもりはありませんが」

珠理奈は売り言葉に買い言葉で挑む様に湯浅に答える。

「…ったく。いいかお前はSKEとAKBの選抜メンバーなんだぞ、それが一個人のファン為に動くって事がどう言う事か
分かっているのか!」

「優希は私の親友です!!」

珠理奈は湯浅の言葉を遮る様に声を荒げた。

「そんな事他の人に分かるのか?更に言えば優希ちゃんに迷惑が掛るかも知れないって思わなかったのか?」

「…迷惑?」

珠理奈は思いがけない方向からの攻撃に少し怯(ひる)んだ。

「そうだ、もしこれがファンの人から勘違いされて“依怙贔屓だ!”って優希ちゃんへ怒りの矛先が向いたらどうするんだ」

その言葉で珠理奈は完全に意気消沈してしまい、言葉が暫く出てこなかった。

「…すいません、軽率な行動を取ってしまいました」

素直に謝ると湯浅は溜息をつく。

「劇場支配人としての話は以上だ」

珠理奈は一礼をして部屋を出て行こうとするがそれを湯浅が呼びとめた。

「珠理奈、待て。次は俺からの話だ」

そう言いながら傍まで行くと珠理奈の頭を大きな手で撫ぜながら

「お前にしてはよくやったな。それでこそ我がSKE48のエース松井珠理奈だ、これからも優希ちゃんをしっかり支えてやれ」

珠理奈はその湯浅の言葉にどうリアクションを取っていいのか分からなかったが
何となく、涙がこぼれそうになったのは事実だった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
10 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:46:32.11 ID:ScL4UK+F0
『ときめきの足跡』


食事も終わり、今取って来たばかりのデザートを食べていると湯浅がトレーに食事を載せて優希達のところへ来た。 

「ねぇ、湯浅さんあいりんと連絡着いた?」

玲奈が食べている最中の湯浅に問い掛ける。

「それがまだなんだよ。本当にどうなってるんだか、このままだと世間を騒がせる事になるぞ」
優希は小声で「あいりんがどうしたの?」と珠理奈に訊いた。

「実は昨日からあいりんに連絡が取れてないの。正確には昨日の劇場公演が終わってからなんだけどね」

「昨日の、劇場公演?私見に行ったやつだ…」

そう呟くと暫く考え込んだ。

「もしかして、その事だったのかな…」

「どうしたの優希?」

珠理奈が意味深な事を言う優希に声を掛けた。

「うーん。何から話したらいいかな」

優希は頭の中で話の順番を組み立てていた。

「最初から話すね。実は私も羽豆岬から不思議な感覚に目覚めたの、それはある場所に来ると
片方の頬だけがゾワってするようになったの…」

「それって、上から何か落ちてくるのが分かるって事じゃない?」

湯浅が話を遮る様に割って入る。

「えっ、何のことですか?」

「あっ、いや。羽豆岬の展望台で写真を取った時に優希ちゃんが珠理奈の腕を引っ張って
何故かその場所を移動したんだけど、その直後上からカラスの糞が今まで二人がいた場所に落ちて来たから
てっきり上から何かが落ちてくるのが分かるんだって思ったから」

優希はその時を思い出そうと首をかしげる。

「そう言えば、あの時に何かそこにいたらいけない気がしたから珠理奈の腕を引っ張ったんだ。
そうですか、糞が落ちてきたんですか。全然知らなかった」

「それよりも続きを話して」

珠理奈が急かした。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
11 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:51:13.60 ID:ScL4UK+F0
「そうそう。そのゾワッてした場所で2日以内に交通事故や事件が起こってる事に気付いたんだ。
最初は気味が悪かったんだけどだんだん慣れてきて、今では家族や友達にそこを通る時は
気を付けるように注意してる。そして昨日、私はKUの劇場公演に行ってたの。
終わってすぐに劇場を出て母との待ち合わせるファミレスへ急いだんだ。
あの日以来、母は心配症になっていて夜遅いと迎えに来るの。
それで劇場の西側の道を通ったんだけどその時頬にゾワッて感じる場所があって、
近いうちにそこで何かが起こるんだなって思ったんだけど…」

優希の話は何故か尻切れトンボの様にトーンダウンした。

「そう言えば、あいりさん何か用事があるのか急いでた様な気がします」

同じチームの向田茉夏が思い出す。

「で、でも違うかもしれないし…」

優希は今度は慌てて今までの話を否定した。
その時に湯浅のスマートフォンが鳴った。湯浅はいくつかのポケットを弄りようやくジャケットの内ポケットから取り出した。

「あっ、噂をすれば愛李からだ」

皆にそう報告してから出た。

「愛李、今どこにいるんだ。心配するだろう…」

急に湯浅の表情が強張る

「お前は誰だ」

その声でそこにいたみんなの動きが止まり湯浅に注目した。

「…古川愛李は無事なんだろうな」

短いやり取りが続き、やがて「おい、もしもし」の湯浅の叫びで通話が終わったのが分かった。
茫然としている湯浅に玲奈が「あいいりんに何があったの?」と訊く声で我に返った湯浅は呟くように

「愛李が誘拐された…」

とだけ告げた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
12 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 15:56:07.50 ID:ScL4UK+F0
『目が痛いくらい晴れた空』


湯浅はすぐに秋元康に相談し愛李の親と警察へと連絡を入れた。
警察には昨日の段階で家族の方から届けが出されてあったので、すぐに担当者が来た。
銀縁の眼鏡を掛け、七三にきちっと分けられた髪。年の頃なら40代半ばで湯浅より少し若い
愛知県警刑事部捜査第一課特殊犯捜査係(愛知県警SIT)の五十嵐警部は名刺を渡しながら自己紹介をすると
直属の部下である巡査部長の桜井も紹介した。

くわしい状況を聞かれたので湯浅だけは会場を後にし警察の対策チームと共に
犯人から連絡があるかも知れない古川愛李の家へと向かった。
そこで愛李自宅の電話と湯浅の携帯の通話が録音できるようにしながら
ここ最近の気がついた事と犯人からの要求の詳細を事情聴取された。
それによると愛李の誘拐と詳しい事はまた連絡するとの事だけで切れたらしかった。
愛李の両親はオロオロしながら「お金なら何とかしますから娘を助けて下さい」と
五十嵐にすがりついた。

「お父さん大丈夫です。娘さんは我々が必ず救出しますから」

となだめながら「でも要求は恐らくSKEサイドに来ると思います」と告げた。

「もちろん、私達も全力をつくします」

湯浅は力強く答えた。


湯浅が会場を後にした頃、残ったTEAM ESPのメンバーは出口を中心に短いミーティングをした。
とにかく手がかりをつかもうと、とりあえず優希が感じたその場所へと行って見ようとなり明日動けるメンバーとして
出口・中西・須田・松村そして学校がたまたま試験休みになっていた優希が加わる事になり
その時のミーティングは終わった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
13 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:01:35.69 ID:ScL4UK+F0
翌日は朝から晴れ渡りまだ昇り始めて間もない朝陽が街を起こし始めていた。
騒ぎにならない様にと早朝のSKE劇場が入っているサンシャイン栄のビル前に集合した所為か
みんな目を屡叩(しばたた)かせていた。

「ふぁ〜、おはよう」

出口があくび交じりに挨拶をした。

「早速だけど、優希ちゃんそこに案内して」

と言われたので優希は記憶を思い起こさせあの時の道順を歩いた。

「確かこの辺だよ」

もう今はその場所には違和感は感じないが、確信はあった。

「とりあえずこの周辺をよく探してみて」

出口の号令で手分けして周辺探査が始まる。
今は人通りが少ないだけであって新聞の配達人や早朝通勤する人の何人かは探し物をしている
出口達を歩きながら怪訝な顔で見ていた。

「これ、あいりさんのじゃない?」

松村が側溝に落ちていたイヤリングの片方を見つけ出す。

「茉夏どう、あの日あいりがしてた物か分かる?」

松村からイヤリングを受け取った茉夏はそれを見つめると記憶を遡る。
するとスマートフォンを取り出しそこにある写真と見比べた。

「あの日に撮った写真、そこにあいりさんが写っているからもしかしたら分かるかも」

みんな一つのスマートフォンを覗き込むように頭をくっ付けた。

「あっこの写真分からないかな?」

と茉夏は何人かと写っている一つの写真を選ぶと拡大した。
拡大するほど画面はぼやけたがどうにか現物と似ている事が分かった。

「良かった。あいりが普段から耳を出していたのが幸いしたわね」

出口が安堵すると茉夏が

「それだけじゃないですよ、ペアーだから片一方の場所が分かります。
これは、大きな手掛かりでしょ」

とドヤ顔で話すのをみて中西が溜息をつきながら

「片方を愛李が今でもしてればね。で、誰がそれを感じるの?」

「もちろん…あっそうか…」

そこでようやく茉夏はその能力を持っているのが愛李だと気付いたようだった。

「とにかくこれを玲奈に見せて何か感じないか訊いてみよう」

出口がイヤリングを受け取ると、一息つく為にどこかでモーニングでもしようと歩き出した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
15 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:09:06.32 ID:ScL4UK+F0
>>14
残念ながら、違います。ごめんなさい...


古川愛李は昨晩から広い部屋に閉じ込められていた。
部屋には長ソファーとテーブル。壁には備え付けの棚がいくつかあったが
そこには何も置かれてなかった。
窓はあるにはあったが天井付近で首が出るか出ないかの細長い形をしたのが二つ
同一方向に並んでいる。今は朝の陽の光がそこから斜めに入っているので、どうやらそれは明り取りの役目を
果たしているみたいだった。と言う事はこの部屋は地下室でオーディオルームかと愛李は推理した。
現に一方の壁の上部には収納式のスクリーンの様な物がある。
そこまで確認した時、足らないのはオーディオ機器だけで空の棚はきっとソフトを含めた
それらの機器が設置してあったんだなと思った。

更に部屋を見渡せば幸いな事にトイレがあり、こんな状況下でもどうやら恥ずかしい思いはしないで良いんだと
考えただけで少し安心したのはやはり自分も若い女の子だからかと苦笑した。
愛李はそれからベッドを兼ねたソファーに腰掛け当時の事を思い起こす事にした。


昨日は公演日だった。家をちょっと遅れ目に出てしまったが十分(じゅうぶん)に間に合う時間だ。
行く道すがらi Podでアニソンを聞いていると急にどうしてもそのアニメが見たくなって来てしまった。
いつもならネット通販で購入するのだが、その時はそれが待てないくらいの衝動に駆りたてられので
すぐに共通の趣味を持つ友人に電話を掛けて今夜どうしても見たいから貸してほしいと頼んだ。
友人は最初は渋ったが公演後の夜9時30分に丸栄百貨店前に車で待っているからと約束と取り付けたのだ。

公演が終わり帰り支度を済ましたのが9時15分。何とか間に合うと一人で先に劇場を出て
急ぎ足で劇場の西側の道路を歩いていると歩道に半分乗り上げて白っぽいワゴン車が止まっていた。
後ろから見るとフイルムが貼ってある上に夜なので中が見えない。
しかし、エンジンも掛ってなく無人の様だったのでそんなに気にも留めていなかった。
それよりもその時は待たせている友人の方が気がかりだったのだ。
そして、その車の横を通り過ぎようとした時、スライドドアが開いている事に気が付く。
と同時に中から手が伸びてきて後ろから口をハンカチで覆われ羽交い締めの様な状態にされ、
首元にナイフが突き付けられた。愛李は一瞬の事で出来る限りの抵抗は試みたが、結局は言われた通りに
おとなしく車に乗り込むしかなかった。瞬間的な事でもあり車の陰で見えなかったので目撃者はいなかった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
17 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:13:52.44 ID:ScL4UK+F0
>>16
「E.S.P」ですね。好きなメーカーの一つですが、ネタバレ禁止で
お願いします。ww


車の中には5人の男達がいる。
彼らは名前を隠す為にそれぞれを「ナカイ」「キムラ」「ゴロー」「ツヨシ」「シンゴ」と呼び合っていた。
その内のリーダー格のナカイとシンゴは兄弟だった。元々彼らの親は貿易の仕事で成功していて
二人兄弟である彼らは何不自由のない裕福な暮らしを送っていた。
兄は頭脳明晰で国立の大学に通い、弟は学力では兄に敵わないものの根っからの几帳面さと
努力家で兄からも愛されていた。
そんなある日、兄弟の元に両親が仕事の為に訪れた中国で交通事故に会い亡くなったとの知らせが入る。
急に会社を引き継ぐ事になった兄は大学を辞め社長の席に就いた。
しかし、いくら頭がよくても会社経営などいきなり出来るものではなく業績は見る見るうちに落ちて行った。
弟は高校の卒業を待ってから兄のサポートに入ったがその時にはもうどうしようもない所まで来ている。
更に追い打ちを掛ける様に詐欺にあい、会社を含めたほとんどの財産を失ってしまった。
これからの事をどうしようかと悩んでいた時に
テレビ画面では能天気にはしゃいでいるアイドルが映っていた。
兄は自分が明日の事であえいでいるのに、彼女達はバカな事で笑っていると思うと腹立たしくなった。
弟に訊くと彼女達はAKB48の姉妹グループで栄を拠点に活動しているSKE48だと教えられる。
芸能界に疎い兄でもAKBの事は知っている。
何枚ものヒットを飛ばし街中(まちなか)を歩いても彼女達の歌が聞こえてくる。

「儲けてるんだろうな」

「そりゃ、あれだけCDが売れてテレビにたくさん出てるからな何億、何十億円単位は稼いでるんじゃないかな」

と兄の問い掛けに弟は憶測で答えた。
兄はそれを聞いて今回の計画を思いつき、渋る弟を説得して知り合いから厳選して集めた3名と共に
犯行に及んだのであった。
細かい計画は兄が立て、それに伴う情報や手続きは弟が担当した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
19 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:20:54.34 ID:ScL4UK+F0
>>18
すいません、ノーコメントとさせて下さい。でも作家志望ではありません。
趣味の領域を出ていませんwww



「待ち伏せて7日目だよ、長かった」

「それより、本当にSKEのメンバーなのか?」

「うん間違いないよ。たしか古川愛李って奴じゃないかな」
彼らは今までこの場所で何人かのメンバーを確認したが皆複数でいたり、他に邪魔な人間がいたりで
なかなかこれと言ったチャンスがつかめなかった。
いつもシンゴが劇場前で待ち伏せ、車の中で待機している仲間に状況を知らせていた。
そしてその日たまたま一人で出て来た古川を見つけ後を付け連携して拉致したのだった。
車が動き出した後も古川は恐怖で身動きが出来ず、黒い布の袋を頭から被せられても暴れる事無く静かにしていた。

何時間か走った後、古川は車から降ろされ気付けば広い部屋のソファーの上に座らされていた。
男達がその部屋から出て行ったと分かっても暫くは袋を取る事が出来なかった。
そして袋を取り周りを見渡した瞬間に、こみ上げる恐怖で涙が止まらなくなった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
20 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:25:14.78 ID:ScL4UK+F0
襲われた所までは思い出したが、ここがどこなのかこれからどうなるのかがまるで分からない。
髪を掻き上げた時右耳にしびれを感じ、手をやるとイヤリングだった。
どうやら左耳に付いていたのは外れてたみたいだ、残ったイヤリングを外すと激痛が走る。

(イタタタ、ずっとしてたら外す時が痛いんだよな)

外したイヤリングをポケットに入れると、愛李は右耳を押さえた。
そんな時突然部屋のドアの鍵の音がするとドアが開けられた。
一人の男がコンビニの袋を何枚か手に持って入って来た。

「ほら、昼飯だ。いいかちゃんとゴミは分別しろよ、これが燃えるごみ、こっちが燃えないゴミ
そして、これがペットボトル。分かったな」

コンビニの袋をテーブルに置くと男は直ぐに出て行きドアに再び鍵が掛けられた。
愛李は部屋の隅に身を守る様に逃げていたが、男が出て行ったので残された袋の中を見た。
1枚の袋は空だったが、もう1つにはカップアイスが付属のスプーンと共に入っていた。
大きめの一つの袋にコンビニ弁当とペットボトルの500mlのお茶、そして袋の底に貼り付く様にレシートが残っていた。

愛李は弁当を食べながら、レシートを見た。そこには店名と電話番号そして買った品目が記されていた。
弁当6個、お茶6個、ビール6本、アイスカップ6個、雑誌2冊、新聞1部と記されている。
おそらく今の男が買って来たのであろう、レシートを貰う程の几帳面さから推理したものだった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
21 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:30:06.99 ID:ScL4UK+F0
『声がかすれるくらい』


SKE48は夕方、番組収録の為に中京テレビに来ていた。
楽屋は騒がしかったが玲奈を囲むメンバーは静かに答えを待っている。
玲奈は出口から今朝見つけた古川が付けていたと思われるイヤリングを受け取ると
両手で包みそこから何かを聞きこうとしていた。

「どう?玲奈、何か分かった」

「全然だめ。あいりんはこのイヤリングにそんなに思い入れはないみたい」

「そもそも本当に愛李のかさへはっきりとしないからね」

と出口がうなだれると、玲奈は慰めるように

「いやこれは確かにあいりんがしていたものだよ。それだけは分かるから」

「でも手がかりはこれだけだし…」

玲奈は出口にイヤリングを返すと

「これどうする?警察に渡す」

「私達は玲奈のしている事は信じるけど警察はどうだろう。それにこれを見つけた経緯も
きっと信じてもらえないし…これは私が預かっておくよ。愛李が帰ってきたら私から返すわ」

出口はサイフの中にそれを入れた。

「いわゆる、陰膳見たいなものね」

中西がぽつりとつぶやくとそこにいたほとんどのメンバーは意味が分からないまま頷いた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
22 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:35:19.28 ID:ScL4UK+F0
愛李は一日中のほとんどを一人でいた。
それにここは地下室で以前はオーディオルームとして使っていた様で
防音対策が施されているのかいくら叫んでも外には聞こえなかった。
それは、逆に言うと外の音もしないと言う事だ、音が遮断されると精神的にきつくなる事を
愛李は初めて経験した。ただ耳を澄ませば設置されている空気循環システムの
ファンの音が微かに聞こえる程度だった。

もともとここはナカイ達家族の別荘だったが今では所有権を奪われてしまっていた。
幸いな事にそのまま空家として放置されていたのを知り、そこを拠点として使ったものだった。
この別荘地区は今はオフシーズンにも拘(かかわ)らず、いくつかの別荘には管理人が常駐していたが
元々がナカイ達の持ち物で有っただけに、所有権譲渡の事を知らない彼らに
姿を見られても怪しまれる事はなかった。

持ち物を全て取り上げられた愛李は何もやる事がない。
「あぁ、シャワーしたいな、髪の毛もベタベタだ。でもそんな事言えないし…」
(私一体どうなるんだろう?きっとみんな心配してるだろうなぁ)
ソファーに座ったり部屋中を歩き回ったりしながら時間を潰すしかなかった。
今ここで分かるのは、明り取りの窓から差し込む光で昼か夜か位だった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
23 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:40:21.82 ID:ScL4UK+F0
ふと、ポケットに手を入れるとそこには片方だけ残ったイヤリングがあった。

(そう言えば片方はどこで無くしたんだろう)

愛李はひまつぶしで両手でそれを包み込むと目を閉じる。

(…うん?ここはどこだ。どこかの楽屋だな、劇場じゃないしテレビ局…?そして誰かのサイフの中か
…と言う事はメンバーの誰かが見つけてくれて持ってくれているのか)

愛李の見え方は、周りの風景が見えてやがてズームアップして行き最終的にどこにあるか分かった。

「じゃあ、私が拉致された場所が特定されたって事だ」

愛李は少し希望を持ったが直ぐにここが分かるのは難しいと考えると落胆した。
暫くするとドアの鍵が開く音がした。身がまえながらも愛李はもう食事の時間かと思っていた。
するとそこから入って来たのは三人の男達だった。


ナカイはナイフをチラつかせながら部屋の隅へ逃げた愛李にソファーに座る様に命令する。
言われた通りにソファーに腰を下ろし恐怖でそこから身動き出来ずにいると、
後ろ髪を少し引っ張れ小指の太さ位の房で糸で縛られた感じがした。

「悪いな、髪の毛を少し切らせて貰うぜ」

とツヨシは愛李の目の前に鋏を持ってくると切る仕草をした。

愛李は思わず目を閉じると「やめて」と声を発した。

「心配するなほんの少しだけだから問題ないさ」

愛李はギュッと目を閉じたままである事を強く思った。

(…玲奈)

ジョキッと言う音と共に髪の毛が切られた感触がした。
それをツヨシの横でシンゴは手袋をした手でチャック付きの小袋を開きながらそれを入れると封をした。
三人は作業を終えると無言のまま部屋を出て行った。悔しさに耐えていた愛李に鍵を掛ける音だけが大きく響いた気がした。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
24 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:45:53.12 ID:ScL4UK+F0
SKE48がテレビ収録している最中に湯浅のスマートフォンに古川愛李名義の着信が入った。
傍には刑事達が数人貼りついていた。湯浅のスマートフォンには予め通話を録音できるアプリがダウンロードされていて
それを作動させて電話に出た。

「もしもし…、湯浅です」

自分の発した声で湯浅は必要以上に緊張しているのが分かった。

「明後日、劇場を開放して公演を2回しろ。2回とも満員状態にするのが条件だ」

すごんだ声が受話器越しに聞こえる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。明後日は休館日で公演はやってない」

「そんな事こっちの知った事じゃない。NETで告知するなり呼び込みをするなりして2回とも満員大入りにするように
頑張るんだな」

隣でやり取りを聞いている刑事はジェスチャーで会話を引き延ばす様に指示を与えている。
これは逆探知をする為ではなく、犯人のしゃべり方やそこから聞こえる生活音等の分析の為だ。
昔と違ってどんな電話からもデジタル化され逆探知は瞬時の内に出来る。

「古川愛李は無事なんだろうな」

ベタな質問だがとにかく会話を繋げるしかない。

「それは、お前達しだいだ」

そう言い残すと、電話は切れた。
すぐに五十嵐警部に連絡が入り今の電話がどこから掛って来たのかの報告が入った。

「今の電話は“名古屋市中区錦エリア”からでした」

「それって…」

「そう、大胆にもあなた達の御膝元の劇場付近からです」

五十嵐は「なめやがって」と吐き出す様に呟くと傍にいた桜井に付近の防犯カメラのチェックを指示した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
25 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 16:51:39.03 ID:ScL4UK+F0
湯浅はその日の午後メンバーを集めると休館日である明後日に劇場を無料開放して緊急公演を
行う事を告げた。もちろんメンバーは詳しい説明はされて無いが古川愛李が何か事件に巻き込まれてている事は
気付いていたから、おそらくその関係だろうと認識してした。
それに続いて五十嵐が言葉を濁しながらも今回の件は他言無用でお願いすると釘を刺した。
茉夏はこれは前みたいに意味も知らないまま頷いてはいけないと思い傍にいた中西に小声で訊いた

「ねぇ、中西さん。『タゴンムヨウ』ってどう言う意味ですかね?」

訊かれた中西はやはり小声で

「それはね、誰にも喋っちゃダメって意味だよ」

と優しく教えると茉夏の代わりに須田亜香里が「そうなんだ」とつぶやいた。


本来は休館日であった劇場は突然の告知であったにも拘らず満員の状態だった。
それは、無料開放であり尚且つSKEの選抜メンバーも出ていたからかも知れない。
1回目、2回目の公演も劇場のキャパシティー一杯で扉も開放状態だったので
ロビーまでたくさんの人達で埋まっていた。
やがて公演は大盛況のまま幕を下ろした。

「結局犯人の要求はこれだったのでしょうか?公演のチケットが取れない為にこんな事件を…」

と府に落ちない湯浅は五十嵐に話し掛ける。

「申し訳ないが、私はあなた達の背景にあるそんな問題は分かりません。しかしこれだけで済んだとは思いません」

客がいなくなった劇場に湯浅と五十嵐と桜井そして着替えが終わったTEAM ESPがステージの上に集まっていた。
そこへ犯人から着信が入る。

「もしもし…」

「劇場後方の壁を調べろ。それから名古屋駅前の宝石店の奥に展示されている宝石三点を明日中に購入しろ」

それだけ伝えると一方的に切られた。
すぐに桜井をはじめメンバー達が劇場後ろの壁を調べ始める。

「もしかして、これじゃない?」

玲奈が劇場隅の足元に近い壁に貼り付けられているビニール袋を見つけた。

「触らないで!」

桜井が声を荒げる。すぐに鑑識班が来て指紋等の確認作業が取られたが何も見つからなかった。

「犯人目的はこれだったのか…」

五十嵐は白い手袋をして鑑識が終わったその袋を持ち上げた。
その中には糸で縛られたひと房の髪と小さな鍵が入っていた。
その髪を見たメンバーは口々に「酷い」と怒りを覚えた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
27 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:00:22.35 ID:ScL4UK+F0
>>26
まだ、疲れてませんwww
ってか、これ前にも貼られましたよww




すぐにその日の公演の映像確認が行われたが、隅でありカメラに映り込んでいないのと
デジカメの映像にも手がかりはなかった。

「くそっ、無料開放だった為に入場者の確認も取れない、入退場の時の映像しかないのか…」

湯浅が悔しがる。

「あいりん、髪をとっても大切にしてたのに可哀そう」

と茉夏の言葉で出口はふとある事を思った。

「ねぇ、みんな集まって」

声を掛けるとステージの隅にメンバーが集まった。

「玲奈、あなたその人が大切にしている物と話が出来るんだよね」

「うん、大切にしてればしてるほど詳しく話が聞けるよ」

玲奈は何を唐突にと思いながら出口の質問に答える。

「じゃあ髪の毛と話ができる?」

その問いでみんな出口が言わんとしている事が分かった。

「えっ、それはどうだろう。今までやった事がないから分からない」

「髪も切られた瞬間から物だし、特にあいりは髪を大切にしてたから。
それと、何より彼女は私達の能力を知っている、きっと何かのメッセージを込めてる筈」

出口の熱意が伝わる。

「分かった、やって見る」

出口はみんなを引き連れて湯浅の所にいる五十嵐の元に駆け寄った。

「警部さん、その髪の毛を見せて下さい」

「なんです?これを…。ダメダメこれは重要な証拠品だ、あなた達に見せれる訳ないでしょう」

と鰾膠(にべ)も無く断られたが、彼女達はそれでも引かなかった。
その様子を見ていた湯浅は何かを感じ取り「私からもお願いします」と頼み込んだ。
五十嵐は暫く考えていたが

「いいでしょう、しかし全員手袋を着用して下さい」

の条件を出し現物を渡した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
28 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:05:28.62 ID:ScL4UK+F0
劇場のイスの座りみんな袋の中に入っている髪をみた。見ただけではそれが愛李の物かどうかは
分からないが彼女達の目的はそれではない。
五十嵐は黙って彼女達の様子を見ていたがそれを邪魔するように湯浅は今後の展開について
話しかける。
玲奈は素早く手袋を外し袋から髪の束を取り出すと両手で包みこみ目を閉じた。

「…これから犯人がどう出るかがカギですね。なんせ営利誘拐は必ず犯人側から一度は
接触をしなくてはなりませんから検挙率は高いんですよ」

と湯浅に説明をしながら視線を戻すと玲奈が素手で証拠品である髪を取り出して居る所だった。

「こらっ!何をしてる」

と怒鳴りながらその行為を阻止しようとすると、湯浅が割って入った。

「ここは玲奈達に任せて下さい。願いします」

湯浅に加勢するかのように玲奈を除く全員も立ちはだかる。
暫くのにらみ合いが続くが玲奈の声でその均衡は破られた。

「聞こえたよ!」

みんな玲奈に注目する。

「何?レシート…誰かメモを取って」

スーツの内ポケットからペンと手帳を出すと湯浅は玲奈に対して「いいぞ」っと声を掛けた。

「ええと、から揚げ弁当3個、焼き肉弁当2個、のり弁当1個。500mlお茶6本、缶ビール5つ。
カップアイス6個。そして雑誌2冊と新聞1部」

と目を閉じたまま玲奈は聞こえてくる声を伝える。

「○×△マート○○店、電話番号は…」

そこまで聴きとると玲奈は目を開けた。

「あいりんは無事みたい。さいごにかすれた様な声で私にお願いって言ってた」

玲奈は現物をを袋に収め警部に返した。

「何をしてるんだ、本当に!後であなたの指紋を取らしてもらうから」

と憤慨する五十嵐に対して出口が
「今の聞いてたでしょう?そんな事より早く捜査して下さい」
と怒鳴る。

「私達はあんたらのお遊びに付き合ってる暇はないんだ!証拠も何もないのに動かせるわけないだろう」

そう捨て台詞を残すとその場から足早に出て行った。


「こうなったらTEAM ESPが動くしかないわね」

出口の声にみんなが頷く。

「お、おい。捜査は警察に任すんだ」

湯浅だけが焦る様に自重を促した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
29 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:10:41.08 ID:ScL4UK+F0
『微笑みのポジティブシンキング』


指定されたジュエリーショップは誰もが知っている大きな建物だった。
予め客として扮している捜査員が見守る中、湯浅は奥の方へ進んで行く。
昨日の段階で秋元に連絡を入れ事の成り行きを報告し、犯人の要望通りにしろ
と指示を受けていた。
電話で犯人が言ってた様に奥にあるショーウィンドウには大きなダイヤの指輪を
左右に鎮座させ何個もの小さなダイヤを散りばめ中央に大きなブルーサファイアを配(あし)らった
ネックレスが展示されていた。
この店には如何にも不似合いな湯浅を見て、店員は取って付けたような愛想笑いを浮かべ対応をした。

「今日は、どのような物をお探しでしょうか?」

湯浅は緊張の為に

「ここに展示されている3点を下さい」

と唐突に答えた。

「…?すいません、もう一度お願いします」

顔を少しこわばらせて対応した店員が問い掛けた。

「ですから、ここに展示されている宝石を全部下さい」

すでに湯浅の脚は震えだし声も上ずっていた。ただ事ではないと思った店員は
周りいる先輩に目配せをした。

「お客様、失礼いたしました。ここからは私がお聞きいたします」

目配せされた先輩は直ぐにやって来て代わって対応した。
今まで対応していた店員は直ぐに店長に報告した。

「お客様の言う通りにしなさい」

店長はたった今警察に説明を受けたばかりだった。
湯浅を対応していた店員はその事を耳打ちされ別室へと案内した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
30 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:13:09.33 ID:ScL4UK+F0
すでにそこには五十嵐と店長が待機していた。

「お話は伺いました。私共と致しましてはこの事に対して全面的に協力させて貰います。
何なりとお聞きください」

当然、警察はこの事件とジュエリーショップの関連を疑っていた。
湯浅はその傍らで指定された宝石の購入手続きをする。
AKS名義のカード支払いとなったが、その段階で総額が8000万円以上すると知って
驚愕した。現品は安全の為に明日にでもこちらから届けると言われたがそれを断り
ハードケースに納められた3点の宝石を持ちかえると告げた。
しかし生憎それらが入るような鞄を持ってなかったので何か入れるような物がないかと訊くと。
店長が指示をして2つの袋が用意された。
黒く光沢がある化粧紙で店名が入った高級感あふれる紙袋と白で無地の紙袋が用意された。
店長は黒い袋に中が空の箱を数点入れて、無地の方に宝石類を入れた。

「何が起こるか分かりませんから、これはダミーです」

と黒い方を湯浅に渡し、無地の白い方を五十嵐に渡した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
31 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:18:12.81 ID:ScL4UK+F0
ナカイは、テーブルに広げた地図を見ながら明日の最終確認を兼ねてみんなに説明をした。
地図上には4つの円が記されていて、何か所の建物に印が付けられていた。

「キムラ、お前が最初だからしっかり頼むぞ、ツヨシお前が2番目担当はここだからな
次はゴローで担当エリアはここ、そして最後が俺で最終地点はここだ」

と地図を指差しながら今回の作戦の手順と詳細を頭に叩き込めと言った。

「シンゴ、準備は出来ているのか?」

「任しといてよ、あそこの物置にはちゃんとセットしてきたし、それと…」

とシンゴはスーツとサラリーマンが使うアタッシュケースと
耳掛け型Bluetoothヘッドセットを4人分持って来た。

「明日はこれを着てアタッシュケースを持ってれば怪しまれない。あれが中にちゃんと
入ってるから最終確認だけは忘れないで」

各人がそれらを受け取ると「武者震いするぜ」とキムラが興奮した様子で口を開いた。

「8000万円だぜ!」

「向こうで現金化したら買いたたかれるからそんなにはならないぞ」

ナカイが忠告する。

「まぁそれでも皆に1000万円以上は渡せると思うが」

その間にシンゴはよく冷えた缶ビールを持って来た。

「あっ、そうそうあいつら今日ちゃんと宝石手に入れたみたいだよ」

と一人ずつビールを配りながら追加報告をする。

「ほんとにシンゴは気が効くな、頭のいい兄と準備万端の弟。
お前達は最高の兄弟だな」

キムラが二人をそう言って持ち上げた。

(フン、歯の浮く様な事を言っても分け前は変わらないからな)

とナカイは思いながらも愛想笑いを返した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
32 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:24:24.32 ID:ScL4UK+F0
昼過ぎの名古屋市内にあるファミレス。大渋滞の車列で線引きされた様な街を見ながら
玲奈と珠理奈を除いたTEAM ESPと優希はミーティングをしていた。
優希は珠理奈からその後の話を聞いていて、恩返しがしたいとチームに加わった。

「警察はおそらく玲奈の事を信じていないから動かないと思う、だから私達があいりを救い出す」

出口が言う。当然その事に対しては誰もが異存はなかった。

「かおたん、場所調べてくれた?」

松村は持参していたタブレットを起動すると

「ここが玲奈さんが言ってたコンビニ。これから見るとかなりの山手になると思う」

画面に写し出されたmapを操作して拡大した。

「ここは国道沿いにあるけど、この先で二手に分かれていてその内の一方が山側に続いている、
ただ、その付近は別荘や企業の保養地が立ち並ぶ地区らしいんですけど今はシーズンオフで
恐らく無人だと思います。だから、これだけで愛李さんの所までたどり着けるかどうか
不安もあるんですけど…」

そう松村は正直な気持ちを漏らした。

「よく考えて見て、玲奈が感じ取ったレシートの事を。あれでかなりの事が分かった、
先ずカップアイスを買った事で恐らくそこからそんなに遠くない場所に愛李はいるって事と
デザートであるそれを愛李の分まで用意するって事はひどい扱いは受けて無いと思う。
そして犯人達は5人だってことも分かったし」

「ちょっと待って下さい、運転しながら食べたのかもしれないし、もしかしたら車の中に冷蔵庫が
あったのかもしれないじゃないですか?」

「確かにそれは言えるけど、先ず車内で食べるとしてもキャンディータイプじゃないし、
冷蔵庫を備えてるような車に乗っている人が誘拐なんてするかしら?
あの警部さんが言ってたじゃない、誘拐は必ず犯人側から接触してくるから検挙率が高いって
それはハイリスクって事でしょ?そんな人が考えるとは思えない」

出口は自分の意見に酔ったかの様に少し微笑んだ。不思議とこんな時の出口の説明は説得力がある。

「無人の別荘だって、勝手に入り込みやすいと考えればどう?」

誰もが考えていそうな疑問に答える事でみんなの気持ちは一つになろうとしていた。
しかし、現実には今ではセキュリティーシステムが施されていて昔の様に簡単には潜入は出来ない。
たまたま犯人達が解除カードをまだ持っていたのは幸いであったとは彼女達は知る由もなかった。

「じゃ明日の朝10時にJR名古屋駅集合ね。念の為マスコミにばれないように変装してきてね」

その言葉で中西を除くみんなが明日の服装の事で頭がいっぱいになった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
33 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:30:49.86 ID:ScL4UK+F0
「湯浅さん、この箱の裏に発信機が付けてあります。それとこれが小型カメラとマイクです」

それぞれ現物を見せながらの説明を湯浅は桜井巡査部長から受けていた。

「現段階で犯人から要求はありませんが、恐らく湯浅さんに持ってくる様に言う可能性が極めて高いと思います
私達は50名体制で監視をしますからご安心ください」

まるでドラマの様な状況にどこか他人事のような感覚に陥りそうになる湯浅は自分の頬を両手で叩いた。

「もうそろそろ犯人からの連絡があってもいい頃なんだが」

五十嵐の言葉で誰もが時計を見る。針は20時を指していた。
しかし、その夜は連絡が来る事はなかった。


その頃、愛李は監禁されてから5日目の夜を過ごしていた。
怯える事は少なくなったが、体の汗臭さと髪の毛のゴワゴワ感だけは我慢出来ずにいた。

(一体いつまでこんな状態が続くんだろう?)

今のところ暴力を受けるとかの事はなかったが、音もない閉塞された空間に閉じ込められるのは
精神的に限界が近くなっていた。

(玲奈、気付いてくれたかな…)

愛李は、ソファーに横になると与えられている毛布に包まれると
暫くしてから小さな寝息を立て始めた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
34 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:36:58.80 ID:ScL4UK+F0
すいません。連続投稿規制(バイさる)が掛ると
暫くの間投稿が出来なくなりますので了承願います。



『狼とプライド』


大きなサングラスとマスクの集団がラッシュが過ぎたJR名古屋駅の“金の時計広場”に集まっていた。

「あのね、ばれない様な服装って言ってたでしょ?みんなのそれは逆に目立っちゃうよ。
こんな時は普通の服装で良いんだよ、ほら『木の葉を隠すなら森の中』って言うでしょ」
普段の服でキャップだけかぶっている中西があきれて溜息をもらす。
「中西はいつも例えが難しいんだよ。何その『きのこの山を買うなら森永』って
あれはグリコでしょう」
出口がサングラスを下にずらして中西を睨んだ。
「ごめん、ごめん」と中西はめんどくさくなってすぐに謝るも「ちなみにきのこの山は明治ね」
と訂正を忘れなかった。

「そんな事より、みんな行くよ。かおたん経路は調べてくれた?」

「大丈夫ですよ、ほらここにインプットしてますから」

松村はタブレットの地図アプリを見せた。


1時間程電車に揺られると目的地駅に着いた。
そこからタクシーを利用し約10分で玲奈が言ってたコンビニの前まで来る事ができた。
とにかく店に入るとあの時挙げられた品目をチェックする。当然全て確認は出来たが
どこでも売っている物なのでこれと言った確信はない。

(別に玲奈を疑っている訳じゃないけど、ここからどこへ向かえばいいんだろう)

「ねぇ、もうお昼も近いんだし何か買って行きません?」

亜香里が出口にお伺いを立てる。

「そうね、これからが長いからパンでも買って探しながら食べましょう」

「探しながら?」

「当たり前でしょう。あいりん事を考えなさい」

不服そうな亜香里を出口は窘(たしな)めた。
銘々に好きなパンと飲み物を持ってレジに並ぶ、その時中西が店員に地理的な事を尋ねた。

「あの、すいません。この辺は別荘地区って聞いたんですけど、行き方分かりますか?
知り合いに呼ばれているんですけど分からなくて」

尋ねられた店員は「ああそれなら」と丁寧に教えてくれた。

「でも、山の坂を上って行くのは大変ですよ。タクシーでも呼びましょうか?」

「ああ、いえ。夕方までに着けばいいんで、ハイキングがてら歩いて行きます」

と中西は店員の好意を辞退した。
店を出ると教えてもらった道を歩き出した。目指す先を見ると山の中服辺りに何軒かの建物が見えた。
その時、出口がある事を思いつき店に引き返し500mlのペットボトルのお茶を2本買って来た。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
35 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:43:06.04 ID:ScL4UK+F0
山道を登りながら、パンを食べ飲み物を飲みゴミを袋に入れ途中に設置されていた
ゴミ箱に捨てると少しは脚が軽くなった気がした。

「だーす、これ飲みなさい」

と出口は買ったペットボトルのお茶を亜香里に渡した。

「あっ、ありがとうございます」

亜香里は嬉しそうにそれを受け取ると直ぐにキャップを開け1口2口飲んだ。

「いっぱい飲んでね。さぁさぁ飲みなさい」

「そんなに飲めませんよ。まだ先は長いんだしちょっとずつ戴きますから」

亜香里は笑いながら出口に答えた。

「それじゃダメなのよ。お願いあいりの為に飲んで」

「あいりさんの為?」

「そうあいりの為。ほら…あの…何だっけ…そ、そう“カゲゼン”ってやつ」

「“カゲゼン”?」

「あきちゃん、それ意味違うんじゃ…」

と中西が会話に割り込むと

「な、何言ってるの。この前教えてくれたじゃん」

出口が中西に向かい亜香里に分からない様にウィンクしたので中西はそれ以上口を挟まなかった。


1時間も歩いた頃、遠くに見えていた建物がはっきりと分かるようになって来る。
その間にも亜香里は最終的に出口に勧められてお茶を2本飲まされていた。
道は別荘地区に入ったようだが何軒かあるのでどれがそうなのか分からない。
それ以上に確信的なものさへない。的外れな事をしている可能性だってあるのだ。
しかし、誰もそんな否定的な事は言わずに黙々と歩く。
そして、出口は歩きながらも亜香里を気に掛けていたのだった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
36 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:48:39.06 ID:ScL4UK+F0
愛李はどうしたらいいか考えていた。
そしてある案が浮かんだ。


「ほら、お昼だ」とカップ麺とコンビニおにぎり2個とペットボトルのお茶をトレーに載せて
いつもの男が入って来た。

「多分これがここでの最後の食事だ」

その言葉で愛李の表情が強張った。

「ああ、そう意味じゃないよ。今日で全てが終わるって意味さ。お前には悪い事をしたと思ってる
でも仕方なかったんだ。でも、ごめんな」

とシンゴは頭を下げると出て行こうとした。

「待って、それなら手鏡を貸して。髪の毛も切られてどんな状態になっているか見たいの」

愛李はシンゴに初めての要求をした。

「それもそうだな、待ってて直ぐに持ってくるから」

シンゴは一度ドアを閉め再び手鏡を持ってやって来た。

「すまん、こんなのしかなかった」

と手に持っていたのは四角い折り畳みタイプの手のひらサイズの鏡だった。

「あ、ありがと」

愛李は(まっ、これでもいいか)とそれを受け取った。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
37 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:53:27.80 ID:ScL4UK+F0
11時過ぎのSKE劇場は落ち着いているかのように静かだ。
しかしまだ犯人からの連絡がない事に湯浅は内心焦っていた。

「どう言う事なんだ。連絡がないなんて!」

愛知県警刑事部捜査第一課特殊犯捜査係(愛知県警SIT)の五十嵐警部は、苛立ちを隠せなかった。
付き人の様な桜井巡査部長はオロオロしながら五十嵐をなだめるしかない。
やがて正午ちょっと前になってようやく湯浅のスマートフォンに電話が入った。
湯浅以外の二人もイヤホンで会話を聞いている。

「…もしもし。言われた通り宝石は手に入れたぞ」」

「それは、知っている。では、13時ちょうどに桜井町△丁にある大渡ビルの屋上へお前一人で行き
そこにある物置を開けろ。鍵は渡している筈だ。急げよ」

会話はそこで突然途絶えた。
桜井はタブレットを出すと地図を表示し”名古屋市桜井町△丁”を表示した。

「名古屋市立大学病院の近くか…」

その時、桜井は時計を見てある事に気付いた。

「やばい!警部急ぎましょう、間に合わないかも知れません」

「何言ってるんだ。30分もあれば着くだろう」

「渋滞ですよ。この時間帯は市内の主要道路はどこも大渋滞です。
今から出てもギリギリの可能性もあります」

その言葉で彼らは急いで警察で用意されていたワゴン車で劇場を後にした。


道路は桜井の懸念した様に渋滞の長い車列が続いていた。
通常誘拐事件なら警察車両のサイレンは鳴らす筈もないが、
この場合は已む無しとしてパトライト回転させサイレンを鳴らした。
しかし、今の状況では思ったほど進めずにいる。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
38 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 17:59:59.29 ID:ScL4UK+F0
車の中は電子機器がくさん並んでいて何台かのモニターには道路マップに点滅する点が表示されていた。
湯浅はそれをずっと見ていると桜井は「これが僕達のいる地点ですよ。ほら宝石の箱に仕込んだあれです」

(ああそうだった、箱に発信機が仕込まれてるって言ってたっけ)

と湯浅は他人事のように思い出すと

「あっ宝石持って来るのを忘れた!」

と大声を発した。その声に車内にいた全員が驚いたが、桜井は落ち着かせる様に

「大丈夫ですよ。この画面に映ってるって事はここにあるって事ですから。落ち着きましょうか」

そう説明すると少し笑った。

「そ、そうですね。すいませんでした」

湯浅は頭を掻きながら皆に謝った。

「さて、これから湯浅さんにはこれを付けてもらいます」

桜井は小型のアルミケースを出すと中からマイクとイヤホンそしてネクタイピンに似せた小型カメラを出した。
それから手慣れた様子で、湯浅のスーツの胸ポケットにマイクを小型カメラをネクタイにセットした。

「次にこれをベルトに通して腰の後ろにセットして下さい」

とソフトケースに入ったトランスミッターを渡した。
全てをセットしたあとに調整が取られた。
耳に隠れる様な小さなイヤホンを耳に入れる際に桜井から「電話する耳とは逆にお願いします」
と注意されてしまう。

「ほら、こっちの画面に映っているのがこのカメラから送られている映像です」

そこには、カメラを指差す桜井の顔がはっきりと映っていた。

「これで我々にもあなたと同じ状況がリアルタイムに分かるようになっています。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
39 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 18:05:18.46 ID:ScL4UK+F0
車は環状線に入ってから更に進まなくなって来た。それに犯人に怪しまれない様に
サイレンを止めなくてはならなかった。

(犯人は警察に知らせるなって言ってたっけ)

とぼんやりと思い起こしていたが、桜井の声で現実に呼び返された。

「湯浅さんもう時間がありません。ここからは車を降りて走って下さい、問題のビルはスマートフォンの
Mapアプリに既にインプットしています。我々も直ぐに追い掛けますから」

と強引に宝石が入った袋を渡されると車を降ろされた。
時計を見るともう10分を切っている、湯浅はとにかくナビに従って走った。

「そうか、だから宝石だったのか」今まで黙っていた五十嵐が何かを思い付いたのか叫んだ

「奴らはこれも想定に入れていて宝石にしたのか」

「警部、どう言う事です?」

「いいか、桜井。彼らが指定した所は渋滞の道路沿いにあった。しかも時間ギリギリの指定だ
そうすると今みたいに宝石を持って走らなければならない、これが現金だったら重くて走れないからな、
じゃあ何の為にそうするのか、それは俺達警察を引き離す為だよ」

「さすが警部、名推理ですね。でもこちらは予め付近一帯監視体制が敷かれてるし何より宝石箱には発信機が
仕込まれていて追跡も出来て一歩も二歩も先に行ってるのに」

「そうだよ。おいモニターから目を離すなよ」

(警察のプライドを掛けて必ず犯人を捕まえて人質を救出する)

五十嵐は片頬だけで笑うと桜井に指示をした。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
40 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 18:10:30.60 ID:ScL4UK+F0
『その先に君がいた』


キムラは15階建てのマンションの屋上にいた。
双眼鏡で見るとそこから200メートル離れている指定されたビルの屋上がはっきりと見えた。

「ナカイ、奴らまだ来てないぜ」

耳掛け型ヘッドセットでナカイに携帯が繋がっている。

『あわてるな、まだ3分残っている。それより周波数の確認はしたか?』

「ああ、ばっちりだ。おっとそう言ってる間に来たみたいだぜ、おっさん一人だけ上がって来た」

『了解、実況中継頼む』


ナカイは公衆電話を見つけると受話器を取り上げた。
そして愛李から取り上げたスマートフォンからダイアルしてから左耳に当て
その上から受話器を被せた、傍から見れば両手で受話器を持ち公衆電話を掛けているように見えた。
右耳のヘッドセットからはキムラの湯浅の様子が実況されていた。



湯浅は息を切らせながらもどうにか時間内に指定されたビルに辿り着いた。
いかにも古いビルのマンションの様で無人なのか?と思う程通路は暗かった。
エレベーターもなく蛇腹状の階段を屋上まで上って行く。
そして休む間もなく屋上隅に設置されていたぼろぼろの物置を見つけた。
そこにはその物置には似つかわしくない真新しい錠が付けらていた。
ポケットから鍵をとりだすとそれを使って錠を外しガタついている戸をスライドさせると

電話が鳴った。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
41 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 18:16:21.47 ID:ScL4UK+F0
出口達はいくつもある別荘を見ながら立ち尽くしていた。みんな額に汗がにじんでいる。

「まだまだ上にもいくつかあるよ。これを一つづつ探さなきゃいけないのかな?」

茉夏が膝に手をつきながら息切れ切れに松村に話し掛けた。
「そうでしょうね」と聞かれた松村も息を切らせて返事をする。
今まで亜香里を見ていた出口は「そろそろね」っとつぶやくと茉夏を呼んだ。

「まなつ、ちょっと来て」

呼ばれた茉夏はちょっとふらつきながらやって来た。

「何ですか?」

「疲れてるのにごめんね、だーすにちょっと触って見て」

言われた茉夏は意味が分からない

「いいから触れて見て」と手を取って亜香里に触らせた。

「…!あかりんトイレに行きたいのね」

亜香里は無言で頷いた。

「で、トイレはどこにあるの?」

と出口は茉夏に訊く。

「……。この先200m先の家にあります」

「そこの家じゃないの?」

「違います。一番近くて使用できるのはその家です」

「と言う事だからみんな急ごう」

そうか、とみんなようやく合点が行った。トイレが使用できる所とは誰かがいる家である。
オフシーズンである今はそれは重要な手掛かりとなる。
疲れ切っていたメンバーの表情に生気が戻ったが亜香里だけは泣きそうな表情だった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
42 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 18:22:05.31 ID:ScL4UK+F0
「亜香里、もうすぐだから我慢してね」

と仕掛けた出口が優しく声を掛ける。
ようやく茉夏が言ってた別荘の前まで来た。みんなに緊張が走る。

「かおたん、ここの家の電燈が点くのはいつ?」

出口は今度は松村に質問する。

「…。ここは点かないと思う」

「えっ、どう言う事?茉夏ここだよねトイレが使えるのは」

「そ、そうですけど…」

まるで問い詰められているかのように茉夏は委縮してしまった。

「日帰りの住人がいるか通いで来ているか、別荘管理人がいるかじゃないの?」

と中西が助け船を出す。

「そうか…。じゃあ次はどこか見て」

茉夏は再び亜香里に触れようとしたその時、中西が茉夏の手を取り
「落ち着いてまなつ」と優しく微笑んだ。

「…。あそこです」

指差す所は50メートル先の建物だった。
一行は疲れた足に鞭打ってそこに向かい歩き出す。


「かおたん…」

出口にみなまで言われるまでもなく松村は目を閉じた。

「約5時間後にここは点きます」

「じゃここなのかな?」

その家は、門扉はなく開放状態ですぐにでも敷地内に入り込めた。
ガレージも兼ねている様に広場があり青いバイクが1台停まっていた。
そして、防犯上の為か建物の周りには砂利が敷き詰められている。
でもそのおかげで地面には轍(わだち)が残っていて、
嘗(かつ)てそこには車が停まっていたが今はない事が分かった。
それと敷地の周りには目隠し代わりの生け垣で仕切られていた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
43 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 18:27:24.86 ID:ScL4UK+F0
生け垣に身を隠し家の様子を窺うとキラリと光が周りの木々を走った。

「今の見た?」

みんなが頷くと出口だけが身を乗り出し敷地内を見回した。
すると地面すれすれにある小さな窓から一条の光が漏れていた。

「!」

無言でそこを指をさし皆に知らせる。
そしてそこに駆けつけようとする出口を中西が止めた。

「なによ、中西!」

怒った様に言う出口に中西は地面を指差した。

「ここは砂利よ。歩けば音がする、もしあそこにあいりがいて私達の事がばれたら
彼女が危険な目にあう可能性がある。もっと慎重にしなければ」

唇をかんだ出口はその場に立ち止まり窓を見た。
そこには助けてと手を差し伸べているかのように光の筋が伸びていた。

「ちょっと待って下さい。私が合図します」

「どうしたの亜香里?もう我慢できなくなっちゃった」

亜香里はそれに答えず目を閉じた。

「今です。走って!」

何の事か分からず皆が走りだすと、強い風が吹いて木々の葉を鳴らした。
そのおかげで砂利の音は誤魔化されたのだ。
地面に這いつくばる様に細長い窓から中を見ると、鏡に陽の光を反射をしている愛李がいた。

「あいり!」

出口は愛李を見つけたがすぐに涙にぼやけてしまった。


愛李は、イヤリングを握りしめながらもう片方が近づいて来ているのを感じていた。
その時の為の合図として鏡を手に入れたのだ。
見上げていた小さな窓から出口達が覗いた時には膝の力が抜けそうになった。
何か話してはいるが声はおろか音すらも聞こえない。
愛李は耳に手を当てたあと両手でバツ印を作った。
それを受けて出口は指でOKマークを作って返した。
それから声を出す事無く大きく口を開け

「体は大丈夫?」

と見上げている愛李に訊(き)くと大きな頷く
中西はすぐに湯浅に連絡を入れたが話中で繋がらなかった。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
44 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 18:34:22.41 ID:ScL4UK+F0
湯浅は物置にある逆立ちの様に吊り下げられているラジコンヘリを見つけた時に電話が鳴った。

「もしもし、おいどこにいる?」

『まずはそこにあるヘリコプターを出してもらおうか』

二人のやり取りは警察車両のモニターでも映っていた。
湯浅は言われた通りに屋上の真ん中に全長2m程もある大きなラジコンヘリを出した。

『ヘリの脚の間に箱が取り付けられてるだろう。そこを開けて宝石を入れろ』

見ると確かに箱があり抽斗(ひきだし)の様なスライド式で中が3つに仕切られた構造になっていた。
そこに箱ごと入れようとすると

『おっと、宝石は現物だけを入れろ外箱は記念に持って帰れ」

ナカイはキムラの実況で湯浅の行動が分かっていた。
宝石を裸のままそれぞれの仕切りの中に入れると言われた通りにロックをする。

『御苦労、それでは本体の印の付いているスイッチをオンにしたら入口まで下がれ』

「ちょっと待て!愛李はどこにいるんだ」

『ちゃんと宝石が本物かどうか確認したら返してやる』

「本物に決まってるだろう!昨日だぞ手に入れたのは。偽物なんか用意できる訳ないじゃないか」

そこで回線は切れてしまった。と同時にラジコンヘリのローターが回転し始めたかと思うと
空高く舞い上がり、東の空へ向かい猛スピードで飛んで行った。



ヘリが飛び去った頃五十嵐達もようやくビルへとたどり着いた。
屋上でのやり取りはモニターカメラで確認している。
直ぐに車を降り空を見上げるとはるか向こうに飛び去る機影が確認出来た。

「緊急手配だ、ここから半径200mの高いビルの屋上を調べろ。犯人はそこからラジコンヘリを
操作している筈だ、そして防犯カメラチェックだ」

やがて湯浅が下りてきて五十嵐達と合流した。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
45 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 18:40:11.14 ID:ScL4UK+F0
ナカイは湯浅との電話を切っても公衆電話の受話器を置かなかった。
会話をしている振りをして、頭を下げたりしていた。
その姿は少し離れている防犯カメラにも映っている。
やがて受話器を置くと人ごみに紛れる様に歩き出す、その時に走り込んで来た数人の警察官と
すれ違う。そしてナカイはツヨシに電話を掛け第一段階終了の連絡を入れた後、
最終目的地へと向かって車を走らせた。


湯浅の様子を逐一報告していたキムラはナカイと通話を切ると、直ぐにツヨシから電話が入った。
片手でヘッドセルのボタンを押す。

「もしもし、今ヘリを飛ばした。もう直ぐ頭上を通過する、順調に飛行してるよ。
そっちのエリアに入ったら誘導頼む」

『了解、まだ確認は出来ない』

ツヨシもまた離れた高い建物の屋上から双眼鏡で見ていた。

『おお、見えた。もう少しだ』

「こちらも目で追っている。中継点の着陸の際の微調整を指示してくれ」

『チョイ右。そうそのまま、スピードを落とせ…。OK、そのまま降下しろ…。よし着陸完了』

「了解。よしこちらのコントローラーのスイッチは切った。あとは宜しく!」

通話を切るとキムラはゴローに連絡した。

「ゴロー第二段階終了だ。頼んだぞ」

『了解。お疲れさん、じゃあ、例の場所で』

キムラはコントローラーのアンテナを収縮し双眼鏡と共にアタッシュケースに入れると
スーツの乱れを直し、エレベータでマンションエントランスに降りた。
マンション玄関には“セールスマンお断り”のシールが貼られている。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
46 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 18:47:06.38 ID:ScL4UK+F0
ツヨシもキムラとの通話を切ると直ぐにゴローからの電話に出た。

『ツヨシ大丈夫か?』

「俺を誰だと思ってる?もう何十回もシミュレーション訓練しただろう。ラジコンヘリの大会に
出たらおそらく優勝する腕前だな俺様は、おっといま頭上をきれいに飛び去って行った」

『ちゃんと見えてるよ、警察は多分半径200mのビルを血眼になって探してんだろうな』

「だろうな、まさかリレーして飛ばしてるとは思わないだろうな」

『やっぱりナカイは頭いいな、そろそろ着陸地点だ誘導する』

「ああ、頼む」

ラジコンヘリはあるビルの屋上に着陸するとそのまま次の信号を待った。

「はい、スイッチを切ったぞ」

『お疲れさん、帰りを待っててくれ』

ゴローはそのままナカイからの連絡を待った。


ラジコンヘリは電動モーターで駆動していたのでエンジンタイプの物と比べると静かで
都会のノイズにかき消され誰も気付きはしなかった。
本来、コントローラーは混線を避ける為にバンドや周波数を変えて飛ばさなければならなかった。
ところが同一メーカーなら複数のコントローラーでバンド・周波数を同じにすれば一つのラジコンを
操作できるのだが、同時にスイッチを入れると(操作はしなくても電波が出ている)
機はノーコン状態になるので連絡を取り合いながら互いのコントローラーのスイッチ操作を
しなければならない(電波自身は1km程飛ぶ)。
それで、最も注意しなければならないのが着陸時だった。
障害物に乗り上げてバランスが崩れるとプロペラが地面に接触し破損または転倒する危険性があった。
彼らはそれを防ぐために双眼鏡で確認し、操縦者に報告をする様にしていた。


ラジコンヘリは時速120kmで一直線で目的地へと向けて飛び続けた。
ツヨシはナカイに同じく第三段階終了を告げ、コントローラー等をアタッシュケースに入れると
セールスマン宜しく雑踏の中に紛れた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
47 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 18:53:09.47 ID:ScL4UK+F0
ナカイは車のハンドルを握りながらヘッドセルでゴローに連絡を入れた。

「ゴロー、調子はどうだ?」

『上々でちょっと肩すかし気味かな』

「そりゃ良かった。俺の方は少し道が混んでるから若干の遅れが出ている。
中継点で少し留めておいてくれるか?」

『どれ位の遅れ?』

「う〜ん5分くらいかな」

ナカイは車のパネルのデジタル表示時計見ながら計算した。

『了解。早目に頼む』

「わかった。駐機してる時に誰かが近づかないか監視も怠らないでくれ」

『誰も来ないって、まさか工場の屋根の上に8000万円の宝石を載せた
ラジコンヘリが停まってるって思わないだろう』

「そうだな」

『じゃあ、スタンバイ出来たら連絡をくれ』


ナカイも最後のビルの上に立つとゴローと連絡を取り合いヘリを無事に
最終の中継点へ着陸させ、最後は自分の元に着陸させた。
駆け寄り機体に取り付けた箱を引き出すと無事に宝石3点が
そこに納められていた。すばやく宝石を用意していた布の袋にそれぞれ分け入れ
ヘリコプターを簡単に分解し持ってきていた家電の段ボールに入れた。


下まで降りラジコンヘリを入れた段ボールを車に乗せて、運転席で宝石を確認した。
シンゴが入手した写真で確認した宝石に間違いなさそうだった。
ナカイはシンゴに作戦終了の連絡を入れると車を発進させる。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
48 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 19:02:41.01 ID:ScL4UK+F0
『バイクとサイドカー』



優希は愛李が見つかった事で安堵感が生まれていたが
すぐに右頬にゾワッとした寒気が感じられた。

「皆ここから離れて!」

優希の切羽詰まった言葉に、皆近くの物陰に身を隠した。


愛李は突然、皆がいなくなったのを不思議に思った。
しかし、外で何かの変化があったのかも知れないと身構える。
その時にドアの鍵が開く音がした。
愛李が振り向くと、白いライダースーツでシンゴが入って来る。

「長い間閉じ込めていて悪かったな、もう自由だ。鍵は開けておくよ
シャワーはここを上がった所の右側にある、使いたければ使えばいい
俺はもう出て行くから。そうそうこれで帰れるだろう」

と1万円札をテーブルに置いた。

「ちょっと、待って。こんな所から一人で帰れない!お願い私だけにしないで」

愛李は駆け寄るとシンゴの腰に抱きついて泣きじゃくった。

「君を連れていけない、悪いとは思っているが許してくれ」

頑なにしがみ付く愛李の腕を振りほどこうとするがなかなか離れないので
シンゴは済まないと思いながら手荒に突き放す。
愛李は床に放り出されると暫くそのまま動かない。
やがてバイクのエンジン音がすると遠ざかって行った。


物陰で見ていた出口達は優希の「もう大丈夫」の声で建物の中へ入った。


シンゴが出て行ってすぐにバイクの遠ざかるエンジン音が
開け放たれたドアから聞こえて来た。
そして入れ違う様に出口達が走り込んで来た。
愛李は出口に抱きつきながら今まで溜まっていた物が一気に溢れ出す。
他の者は愛李と出口をセットで抱きしめた。


「あいりさ〜ん」

亜香里も涙を流しながら愛李に抱きついた。

「あかりん、心配掛けてごめんね」

「トイレどこですか?」

愛李はきょとんとして亜香里を見た。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
49 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 19:09:37.28 ID:ScL4UK+F0
愛李はその身をリビングに移し、中西の力を借りて落ち着きを取り戻していた。
そこは塵一つ無くきれいに片づけられ、ソファーカバーもしわ一つ無かった。

「で、誰が私のイヤリングを持っているの?」

「何で分かったの?」

と口にしてから愚問だったと出口は後悔した。
財布の中からイヤリングを取り出すと、「はい」っと愛李に渡した。

「絶対に逃がさないから」

と愛李はそれを受け取ると握りしめた。中西は再び愛李の手を握ると落ち着かせた。

「それをどうするの?」

「さっき、私が持っていた分をあいつのポケットに入れてやったの」

「さすが、愛李。怒らすと怖い女」

出口が囃(はや)した。
そのやり取りを横目に松村はスマートフォンをカメラモードのすると「撮るよー」と
声を掛けた。最初、愛李はこんな姿嫌だと駄々をこねたが皆に救出したって知らせる為だと
説明し納得させた。
おかしなことにシャッターを切る時にはさすがアイドルなのか
顎のラインを隠す様にしてピ―スサインをしてた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
51 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 19:14:37.17 ID:ScL4UK+F0
玲奈と珠理奈は昨日から仕事の為に東京に来ていたがテレビ収録も終わり
心配だろうからと言う秋元康の助言もあり、予定を切り上げて
名古屋に向かっていた。
追々に松村からは連絡が入っていたが、これと言った進展はない。
今日も長く重い1日になりそうだと思いながら二人は午後には名古屋の地に立っていた。
無言で名古屋駅の改札を抜けた時、同時にそれぞれのスマートフォンが鳴る。
見ると松村からのメールで、すぐに開くと「あいりさん、無事救出!」の文字と共に
皆で写ってる写真が添付されていた。

「やった!!」

いきなり叫んだ二人にみんな注目する。

「ねぇ、あれ松井JRじゃない?」

人だかりになり掛けるのを逃げる様にタクシーに乗り込みSKE劇場へと向かった。
改めて写真を見て涙を流す玲奈とは対照的に怒りを噛み殺した表情の珠理奈がそこにいた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
52 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 19:33:16.06 ID:ScL4UK+F0
五十嵐は次々に入る報告に苛立っていた。

「何故だ!ラジコンの操作距離なんてせいぜい200mだろう。それに飛んでいった方向を
見ればすぐに分かるはずだ」

警察サイドの作戦は完全に裏をかかれていた。
先ず宝石のケースにしかけた発信機は無駄に終わり、ラジコンヘリを追った捜査車両は
交通渋滞に阻まれ思い通りに動けず機影を見失ってしまった。
何より五十嵐は何故犯人が要求が現金でなく宝石だったかの推理が外れた事が
悔しくて仕方がなかった。

(こんな事なら、口にするんじゃなかった)

そして、次々に入る芳しくない報告がその気持ちに拍車を掛けた。

「警部、捜査本部から連絡が入っています」

桜井が警察無線のマイクを五十嵐に渡す。

「はい、五十嵐です」

『捜査本部の田中です。今テレビでワイドショーのお天気カメラの映像が映ったんですけど
そこに例のラジコンヘリが見えたようなんです』

「何!それはどこだ」

『今、テレビ局に問い合わせてます。分かり次第連絡します』

「バカヤロー!分かってから連絡しろ」

スピーカーからは『す、すいません』と声がして切れた。
そのやり取りを聞いていた湯浅は装備を外しながらたまりかねて

「正直、僕は犯人逮捕とか宝石とかはどうでもいいです。愛李の無事が重要なんです。
とりあえず僕だけでも劇場に帰してくれませんか?」

「それもそうですね。分かりました、直ぐに車両を手配します」

との五十嵐の提案を断り湯浅はタクシーで帰ると言った。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
54 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 19:49:23.36 ID:ScL4UK+F0
>>50
>>53
支援ありがとうございます。



帰りのタクシーの中で湯浅は松村からのメールを受け取った。
彼は玲奈や珠理奈の様に声は上げなかったが涙が流れ落ちた。
直ぐにでも警部に知らせたがったが、タクシー内でこの話は出来ずに
結局劇場前でタクシーを降りてからの連絡となった。


劇場に入るとそこには玲奈と珠理奈が待っていた。

「湯浅さん、あいりんは?」

玲奈の問い掛けに首を振るしか出来ない。

「でもあの子達凄い!あいりんを見つけ出しちゃうんだから」

「そうだな、これで安心して愛李の両親や秋元先生に報告が出来る」

そう言うと湯浅は支配人室へと向かった。

「ねぇ、珠理奈さっきから黙ってるけどどうしたの?」

「私、許せない。あの写真見たでしょう?あんなに疲れ果ててボロボロのあいりんの」

玲奈は珠理奈の気迫に押され無言で頷く。

「絶対に犯人を見つけ出してやるから」

「で、でもどうやって?」

「それは分からないけど、どこまでも追い掛けてやる。私の大切なメンバーを傷付けた奴は
許さない」

玲奈の眼には珠理奈が怒りで我を忘れている様な気がして、

(こんな時に優香ちゃんがいてくれればなぁ)と思っていた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
55 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 19:55:36.91 ID:ScL4UK+F0
湯浅は古川の家族と秋元康に彼女の無事の報告を入れて電話を切ると直ぐに呼び出し音が鳴った。

「おぉ松村、メール見たぞ良くやったなご苦労さん」

『そんな事より、はやく警察に知らせて下さい。今あいりさんが犯人を追いかけてるんです』

「えっ、あいりはそこにいないのか?」

『ここにいます。ここで追いかけているんです』

「松村落ち着け!お前の言っている事がよく分からん」

『もしもし、変わりました。中西です』

松村の話がうまく伝わっていないのを見て中西が電話に出た。

『あいりはいま自分のイヤリングの一つをここから逃亡した犯人のポケットに忍ばせて
それを追いかけているです』

湯浅は愛李の特殊能力を知っているからそれだけで納得が行った。

『今からスピーカー通話に切り替えます。すぐにメモの準備を願いします』

「わかった。こちらもスピーカーにするちょっと待ってくれ」

湯浅はあわてて筆記用具を手にしてスマートフォンをスピーカー通話状態にした。

「いいぞ」

と通話内容を書き留め始めた時、玲奈と珠理奈が入って来た。
「湯浅さ…」その時の湯浅のあわてぶりで玲奈も言葉を飲んだ。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
56 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 20:01:11.80 ID:ScL4UK+F0
「あいり、スピーカー通話にしたから。湯浅さんに伝えて」

中西は愛梨の目の前にスマートフォンを置いた。
愛李は、頷きイヤリングを両手で包みこむと目を閉じ頭に浮かんだ情景を話した。
どうやら犯人は高速を走行している事とかそこで見えた行き先案内板の文字を
「東名高速 岡崎」「東名高速 豊田ジャンクション」「伊勢湾岸自動車道」と読み取れる物を
小さな休憩を挟みながら報告し続けた。
途中電源が無くなって来たので、その度に電話を変えては連絡を続けた。


愛李が見えている映像とはバイクで逃走する犯人の横で
ポケットの高さから一緒に周りの風景を見ている様だった。
時折こめかみをマッサージをしながら続ける。

「あいり、大丈夫?少し休もうか?」

「ありがとう、私は大丈夫」

『あいりん、聞こえる、絶対に私が犯人を捕まえるから』

「珠理奈さん?無茶はしないで、お願い」

愛李は珠理奈の性格からして暴走しなければと危惧(きぐ)した。
そして最後に「名港中央インターチェンジで降りた」と告げ、

「扉に“あけぼの物流(株)第3倉庫”って書かれている建物の近くの駐車場で停まったわ」

と最終報告をした。


湯浅は五十嵐から貰った名刺を出すとすぐに連絡した。
するとワンコールで相手が出た。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
57 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 20:09:11.09 ID:ScL4UK+F0
『追いかけShadow』



五十嵐警部は捜査本部のからの追加報告を聞き、唖然としていた。
テレビ局からの返事でお天気カメラが映していた場所はここから1Km以上も離れていた地域だった。

「ばかな!そんなに離れていて操縦なんか出来る訳はないだろう。何かの見間違いじゃないのか」
『確かにその可能性もあります。しかし確認しようにもテレビ局でも生放送の為録画はされて無いよう
なので確認はとれません…』
叩きつけるかのように無線を切った五十嵐は次の行動を思案していた。

「あのう…」声を掛け辛そうに桜井が話しかけた「もしですよ、コントローラーを持っていた人間が
一緒に移動してたらどうでしょう?」
五十嵐は溜息をつきながら
「この渋滞の中を?例えバイクや自転車を使っても上空を直線で飛ぶヘリには追いつけないだろ」
「そうですね…」
桜井は暫く考え「それじゃ、川を使ってもモーターボートを利用したとしたら渋滞は関係ないですよね」
「その川はどこにある!」
「では、本物のヘリに乗って操作とか」
「だから!本物のヘリがどこに飛んでた?それに犯人が直ぐに足取りが掴めそうな馬鹿な真似を
する必要性がどこにある。なぁ、頼むから少し黙っててくれ」

五十嵐が頭を抱えているその時携帯電話が鳴った。

「はい、五十嵐です」

『湯浅です』

「何か分かりましたか?そう言えば人質が見つかったとか言ってましたが」

『はい、メンバーの活躍で見つかりました』

と湯浅は皮肉を言った。

「ほんとは人質が隙を見て連絡してきたんでしょ?兎に角、送られて来た画像の位置データーを調べて
地元警察には連絡していますから、こちらはそれどころじゃないんで切りますよ」

『ちょ、ちょっと待って下さい。犯人の逃走経路が分かったんで警部に知らせておこうと電話したんです』

五十嵐はめんどくさそうに

「それじゃ手短にお願いします」

湯浅は愛李から聞いた事を書き取ったメモを順を追って報告した。

『と言う事なんで直ぐにでも現地に手配をお願いします』

「どうやってそれを知ったんです?彼女達が偶然に持っていた発信機を取り付けたんでしょうかね?」

五十嵐はイラついていたのでそんな言葉が口をついた。

『もういい!あんたなんかには頼まない。私達が犯人を捕まえてやる』

と女性の声がして通話が切れた。
【SKE小説】 SKEはESP?U 『仲間の歌』
58 :名無しさん@実況は禁止です[]:2013/06/18(火) 20:14:37.04 ID:ScL4UK+F0
同じく警部との会話もスピーカーにしていたので、玲奈も珠理奈も聞こえていた。
通話を一方的に切った珠理奈は怒りの為に肩で息をしていた。

「珠理奈落ち着いて」

玲奈が宥(なだ)めるものの、珠理奈の機嫌は治りそうもなかった。

「湯浅さん、こうなったら私達だけで行くしかないでしょ」

と両手で机をバンと叩いた。

「ちょっと待て。それは警察の仕事だ、俺達がする事は連絡するだけだ」

湯浅は暴走し掛けている珠理奈を何とか食い止めようとした。

「今の電話聞いたでしょう?あの人達が動いてくれるとは思えない」

「だからと言ってだな…」

そう言い掛ける湯浅に珠理奈は松村から送られて来た愛李の映像を見せた。

「湯浅さんは、あいりんのこの姿を見て悔しくないの?」

「そりゃ俺だって…悔しいよ」

と少しトーンダウンした。それを見た玲奈が珠理奈の味方に付いた。

「別に捕まえる必要はないと思います。的確な証拠をつかんで警察に報告すれば良いんですよ」

玲奈の言葉に考える湯浅。

「そうすれば警察も動きやすくなるでしょう?ねっ」

玲奈の“ねっ”は威力があった。

「分かった、ただし玲奈が言った様に監視だけだいいな。珠、理、奈」

湯浅は珠理奈に念を押す事は忘れなかった。それに対して返事代わりに彼女は頷いた。
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