- AKB高橋「特殊能力…?」
1 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:06:24.26 ID:+9B/ba1D0 - 高橋「本当にこっちで良かったんでしょうか…」
高橋は不安げに康を見上げ、途方に暮れた。 秋元P「まったくこれだから警察は…」 康は苛立った様子で小刻みに地団太を踏んだ。 先ほどから忙しなく眼鏡を上下させたり、大げさにため息をついたりしている。 それは彼にすれば珍しい仕草であった。 日頃温厚であるはずの康がここまで怒りを露にしているのは何故なのか。 もうかれこれ一時間半もの間、2人は警察署内をたらい回しにされているのだった。 体力に自身のある高橋だが、警察という慣れない雰囲気の中にいるせいか、すでに疲労困憊である。 高橋「やっぱりさっきの角を曲がるんでしたかね?どんどん倉庫みたいな場所に来ちゃってますし」 それでも高橋は康を気遣い、意識して明るい声で言った。 秋元P「そうかもしれないね。案内表示すらないなんて不親切極まりないな、警察は」 康が本日何度目かのため息をつこうとしたその時だった。
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2 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:07:13.11 ID:+9B/ba1D0 - 雅「あの、もしかして未詳をお探しですか?」
どこから現れたのか、制服姿の若い女性がにこやかに2人へ話しかけてきた。 高橋「未詳…はいそうです。わたし達そこへ案内されて来たんですけど、迷っちゃって」 雅「それでしたら上から話が通って来ております。こちらのエレベーターへどうぞ」 女性が指し示したのは、普段高橋が見慣れているエレベーターとは違うものだった。 秋元P「エレベーターって君…これは貨物用じゃないか」 康が呆れ顔で抗議する。 秋元P「これに乗れというのか」 しかし女性はそんな康に臆することなく、笑顔でエレベーターに乗り込んでしまった。 高橋も慌てて女性の隣に並ぶ。 高橋「秋元さん、仕方ないですよ。案内してもらうんですから素直に従いましょう」 高橋の呼びかけに、康も渋々エレベーターに乗り込んだ。 女性は慣れた調子で床に投げ捨てられていたスイッチを拾い上げ、エレベーターを操作する。
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3 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:07:59.44 ID:+9B/ba1D0 - 着いた所は、先ほどの場所とさほど変わらない、倉庫のような広い空間だった。
壁際には幟やカラーコーン、交通安全を謳った垂れ幕などが雑然と置かれている。 中央に申し訳程度にデスクが集められ、電話やパソコンの類が置かれていることから、かろうじてここが機能している部署なのだと見てとることができた。 雅「入りまーす!AKB48の高橋みなみさんとそのプロデューサー秋元康さんが脅迫状のことでご相談があるとのことでご案内致しました。それではお2人、張り切ってどうぞ!」 女性はどうやら決まり文句らしい言葉を大声で述べた。 高橋と康が動揺していると、人の良さそうな顔をした初老の男性がデスクからゆったりと立ち上がった。 野々村「キャッ、雅ちゃん」 男性は案内してくれた女性を見ると、乙女のような仕草で照れた笑いを浮かべる。 その後2人は合図のようなものを送り合い、高橋と康のことは目に入っていないようであった。 男性がさり気なく左手の薬指にはめていた指輪を外し、スーツのポケットに仕舞うのを高橋は見逃さなかった。 もしかしてこの2人は、不倫関係にあるのだろうか。 秋元P「あの…」 2人の様子を窺っていた康が、堪りかねて口を開く。
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6 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:08:49.77 ID:+9B/ba1D0 - 秋元P「聞けばここでご相談に乗っていただけるということで参ったのですが?」
野々村は慌てて高橋達に向き直ると、ようやくそこで挨拶をした。 野々村「そうですそうです。あ、申し送れました、係長の野々村です」 案内してくれた女性は少し拗ねた表情を浮かべると、さっさとエレベーターに乗り込み、どこかへ行ってしまった。 秋元P「よろしくお願いします。早速なんですが、聞いていただけますか?」 野々村「それではどうぞこちらへね、お座りください。あ、瀬文くん?お茶淹れてくれるかな?」 野々村の呼びかけに、高橋達が来たときからずっと直立不動の体勢を取っていた短髪の若い男が、軍隊のような返事をした。 高橋は先ほどからその男が気になっていた。 なぜだか男は高橋を睨むように見つめてきていたのだ。 高橋は彼の視線に気付かないふりをし続けていた。
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7 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:09:27.86 ID:+9B/ba1D0 - 野々村の示したソファに腰を下ろす。
ここへ来る前にあちこちで同じ説明をしていたため疲れたのか、康は高橋から話すよう目で合図してきた。 高橋はそんな康に無言で頷き返すと、野々村に顔を向けた。 高橋「実は数週間前、あたしに脅迫状が届いたんです」 野々村「ほほぉ、それで今日は未詳に犯人を逮捕して欲しいとの依頼ですかな?」 高橋の真剣な眼差しに対して、野々村の態度にはほとんど緊張が感じられない。 しかし彼女はめげることなく、アイドルとしての仕事の時には使わない重々しい声で続けた。 高橋「もちろん犯人逮捕はしてもらいたいのですが、一番心配なのは他のメンバーにまで被害が及ぶことです。脅迫状はあたし宛の一通だけでなく、他のメンバー宛にまで届くようになりました。内容もだんだん過激になってきていて…」 高橋「だからお願いします。正直犯人が誰なのかなんてあたしには興味ありません。それよりもまず警察のお力で、メンバーに危害が加えられるようなことがないよう、守っていただきたいんです」 高橋はそう言って深々と頭を下げた。
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11 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:10:36.71 ID:+9B/ba1D0 - 野々村「わかりました。要するに高橋さんには今、危険が迫っている。そのため我ら未詳にボディーガードになってもらいたいと」
高橋「ボディーガードなんてそんな大げさなものじゃなくてもいいです。ただあたし、脅迫状が届いてから毎日本当に不安で…。だけど警察が目を光らせてくれているとなれば少しは安心できるかなって。その程度なんです」 高橋は早口でそう説明した。 野々村は可愛い孫でも見るかのような笑みを浮かべ、うんうんと何度も頷く。 野々村「わかりました。AKB48さんといったら今や国民的アイドル。皆さん本当に可愛らしくて、雅ちゃんもあなた方のファンなんですよ」 ――雅ちゃん…さっき案内してくれた女性のことか。 高橋は先ほどの女性の顔を思い浮かべた。 野々村は彼女の名前を口にする時だけ、妙に目じりを下げて、甘い口調になっていた。 野々村「そんなAKB48さんに危険が及ぶとなったら最早日本の一大事。日本のため、雅ちゃんのため、男野々村、全力で皆さんをお守り致しましょう!」 なぜだか今日に力強い話しぶりになった野々村に、一抹の不安を感じながら、それでも高橋は希望に胸が躍った。
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12 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:11:31.04 ID:+9B/ba1D0 - 高橋「じゃあお力になっていただけるんですね」
野々村「はい、必ずや」 強い口調を通り越して、最早歌舞伎役者のような言い回しになってしまった野々村が、大きく頷く。 高橋「良かった秋元さん、これで秋元さんも安心できますね」 高橋は隣に座る康へ笑いかける。 しかし康の表情は曇っていた。 秋元P「失礼ですが、この部署にはお二方しかおられないのですか?」 そう言って康はやや不躾な態度で、野々村と少し離れた場所に立つ例の短髪の男とを見比べた。 秋元P「ご存知とは思いますが、AKBは大所帯のアイドルグループ。お2方だけで彼女達の護衛をするには無理があるかと…」
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13 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:12:33.95 ID:+9B/ba1D0 - 野々村「いえいえもう1人、当麻くんと言って24歳のギャルがいましてね、彼女がまた中々の切れ者でして…」
高橋「あの、今日はその当麻さんという人はいないんですか?」 野々村「もうすぐ来ると思うんですがね…どうだったかな瀬文くん?」 野々村が尋ねると、男は静かに首を横に振った。 瀬文「いえ、自分は当麻には興味がありませんので」 高橋はそこで初めて瀬文と呼ばれる男の顔を見た。 無表情で立つ瀬文の顔には、何を考えているのかわからない独特の怖さがある。 体つきは細いが、スーツの下には鍛え抜かれた筋肉が潜んでいるようで、一部の隙もないように窺えた。 高橋と目が合うと、瀬文はすっと視線を逸らす。 その時、背後でエレベーターの動く音が聞こえた。
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14 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:13:13.27 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「すみません、病院行ってたら遅くなりました」
やって来たのは野暮ったいスーツ姿に、真っ赤なキャリーバッグを引いた若い女性であった。 高橋の目が、一瞬で彼女に釘付けになる。 女性の髪はぼさぼさで化粧も薄く、あまり身なりに気を使っていないことが見てとれる。しかし高橋が興味をそそられたのは、彼女の左腕だった。 ギプスで固められ、大げさなほどの包帯で肩から吊っている。 一体どれほどの大怪我をしたのか。 見ていてとても痛々しい姿であった。 野々村「そういうことなら構いませんよ。さっそくだけど当麻くん、お客様が来てるからちょっとこっちいいかな?」 野々村がそう言うと、当麻と呼ばれた女性がその姿からは想像もつかない素早さで駆け寄ってきた。 当麻「事件ですか?何々気になるぅ〜」 上司である野々村に対してくだけた口調で話すあたり、当麻の大物ぶりが窺い知れた。 高橋は立ち上がり、当麻に頭を下げた。
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15 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:13:55.44 ID:+9B/ba1D0 - 野々村「何だか脅迫状のことでお困りでね、未詳で護衛することになったんだよ」
当麻「脅迫状?今時脅迫状ってどんだけ頭悪い犯人なんすかね」 なぜか脅迫状がツボにはまったらしく、当麻はにやにやと笑っている。 しかし高橋の顔を見た途端にその笑顔は引っ込み、驚きの表情へと変わった。 高橋「あの、どうかしたんですか?」 当麻「えー?AKBの高橋みなみさん…通称たかみなさんじゃないですかー?」 高橋「あ、よろしくお願いします」 当麻「それでこちらがプロデューサーの秋元康さん。ですよね?ね?」 当麻の馴れ馴れしい態度に、康は困惑の表情を浮かべた。 しかし当麻は気にすることなく、野々村を無理やりずらして開けたスペースに腰を下ろし、高橋にぐっと顔を近づけてくる。 高橋「……」 その瞬間、当麻から発せられる強烈なにんにく臭に、高橋は思わず身を引いてしまった。
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16 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:14:27.86 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「マジでお2人、超有名人じゃないですかー?あ、申し送れました警視庁公安部第五課未詳事件特別対策係の当麻です。お会いできて大分光栄です」
当麻はそう言って、遠慮のない視線で高橋をじろじろと観察する。 高橋「は、はぁ…」 瀬文「当麻!お2人はご相談にいらしているんだ。失礼だろ!」 当麻「チッ、うるせーなハゲ黙ってろよ!」 当麻と瀬文が睨む合う。 ――もしかしてこの2人、仲が悪い? 高橋は性格上、2人の間に仲裁に入りそうになったが、しかし今日は依頼人の立場ということを思い出し、ぐっと堪えた。 野々村は慣れているのか顔色1つ変えずに、淡々と説明する。 野々村「まずは犯人逮捕うんぬんの前にね、AKB48さんの安全を第一に考えて捜査もしてこうとね考えているんだけど、どうかな当麻くん?」 当麻は野々村に向き直ると、軽く頷き、再び高橋に顔を近づけた。
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17 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:15:00.05 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「で、その脅迫状ですけど、なんだかすごーくおかしなことが書かれていたってことないですか?」
高橋「はい、そうなんです。でもなんでわかったんですか?」 当麻「ここは普通の刑事事件では手に負えない、特殊な事件を扱った部署なんですよー。そんな未詳に回されてくるくらいですから、だいたい想像はつきます。今その脅迫状はお持ちですか?」 高橋「はい、これなんですけど…」 高橋は鞄から数枚の紙を出すと、当麻に手渡した。 警察署に来てからこれを見せるたび、ただの悪戯だろうと一蹴されてきた脅迫状だ。 案の定、脅迫状を読む当麻の顔が、次第に険しくなっていく。
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18 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:15:27.57 ID:+9B/ba1D0 - 1通目。
『高橋みなみさんへ 次の握手会を中止しなさい。 もし中止されない場合には、こちらは然るべき措置を取ります。 しかしなるべくならあなたを傷つけたくはない。 覚えていてください。 私には能力があります。 遠くにいながら、あなたの呼吸を止めることができる。 あなたに触れずとも、その体を切り刻むことができる。 無事でいたいのなら、どうかこちらの指示に従ってください』
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19 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:15:56.96 ID:+9B/ba1D0 - 2通目。
『前田敦子さんへ 次の握手会を中止しなさい。 もし中止されない場合には、こちらは然るべき措置を取ります。 しかしなるべくならあなたを傷つけたくはない。 覚えていてください。 私には能力があります。それはとても恐ろしい力です。 念じるだけで、あなたをいのままに動かせる。 迫り来る電車の前へ飛び出すよう、あなたを操れるのです。 無事でいたいのなら、どうかこちらの指示に従ってください』
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20 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:16:36.58 ID:+9B/ba1D0 - 3通目。
『板野友美さんへ 次の握手会を中止しなさい。 もし中止されない場合には、こちらは然るべき措置を取ります。 しかしなるべくならあなたを傷つけたくはない。 覚えていてください。 私には能力があります。それはとても恐ろしい力です。 手を握っただけで、あなたを遠くへ飛ばすことができる。 次の瞬間には、あなたは誰もいない南極の地でひっそりと凍死するこでしょう。 無事でいたいのなら、どうかこちらの指示に従ってください』
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21 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:17:07.26 ID:+9B/ba1D0 - 秋元P「馬鹿馬鹿しいでしょう。何なんだ能力って。しかしこれでわかる通り、犯人は相当頭のおかしな人物であることは間違いない。だから何をしでかすかわからない。こちらとしても不安なんですよ」
康は忌々しげに、当麻の持つ脅迫状を見ながら言った。 しかし当麻は真顔で康を見つめると、静かに問いかけた。 当麻「本当にそうでしょうか?」 秋元P「君まさか、こんなふざけた内容を本気にしているのか?」 当麻「はい、私はこの犯人の言っていることを信じますよ。ここまで言い切るくらいですから、本当に犯人にはそういう能力が備わっているのだと思います」 突然真面目な口調になった当麻を、高橋は驚いて見つめた。 高橋「どういうことですか、当麻さん」 当麻は今度、高橋に視線を向けると、一気に説明した。
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22 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:18:22.22 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「人間の脳は通常10パーセントほどしか使われてません。残り90パーセントがなぜ存在し、どんな能力が秘められているのかわかってないんです」
当麻「だからこそ、通常の人間の能力や常識では図り知れない特殊なスペックを持った人間が、この世界にはすでに存在していると私は思います」 秋元P「それは超能力者や霊能力者の類が本当に存在するということですか?そんな馬鹿な…」 当麻「はい。そんな馬鹿馬鹿しくてどんだけーな能力がある日突然備わってしまう人間が確かにいるんです。私は会ったことありますよ。身を持ってその恐ろしさを知りました。ね、瀬文さん?」 突然話を振られた瀬文だが、落ち着いた動作で頷いた。 見るからに硬派な体育会系といった瀬文が同意したので、高橋は当麻の言葉が本気であると悟った。 先ほどとは違う緊張感が、2人に間には感じられた。 秋元P「まぁそう思うならそれで、とにかく私はメンバーの安全が確保できれば何でもいい。どうかくれぐれもお願いしますよ」 康の言葉に、高橋は慌てて頭を下げた。 高橋「お願いします、皆さん」
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23 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:19:03.58 ID:+9B/ba1D0 - 野々村「そうと決まれば早速ね、当麻くんと瀬文くんでAKB48の皆さんを見張って…」
当麻「はい!」 野々村の言葉を遮って、当麻が挙手をする。 野々村「はいはい何だい当麻くん」 当麻「あのー、いっそのこと握手会を中止してしまうというのはどうでしょう?」 当麻は当たり前のようにそう指摘した。 当麻「犯人の要求を呑んでひとまず握手会を中止にしてしまえば、高橋さん達が狙われるようなことはなくなりますよね?それが一番手っ取り早くて安全なんじゃないですか?」 瀬文「馬鹿、握手会に一体どれだけのファンが来るかわかって言ってるのか!」 当麻が言い終わるか言い終わらないかのうちに、瀬文が彼女の頭を思いきり叩く。 当麻「痛ぁーい。瀬文さんがぶったー」 当麻は明らかに嘘泣きとわかる声を上げ、瀬文を抗議した。 当麻「そんなに大変なことなんですか?握手会って」
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24 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:19:40.98 ID:+9B/ba1D0 - 瀬文「握手会が中止になったらまた後日振り替えの握手会日程を調整しなければならない。忙しいメンバーのスケジュールをやりくりし、ファンががっかりしない対応を取るため、どれほどの人間が動くかわかるだろう」
野々村「お、瀬文くん詳しいねぇ」 当麻「さては瀬文さん隠れファンですね?まさかたかみなさん推しだったりしてー。ちなみに私はこじはるさん推しです」 当麻の言葉はあながち外れてはいなかったようで、照れ隠しなのか、瀬文はまたしても思い切り当麻の頭を引っぱたいた。 高橋の視線に気付くと、露骨に逸らして頬を赤らめる。 高橋はさっきから感じていた瀬文の視線の理由を、そこでようやく理解した。 野々村「僕はね、あのー、ともちんと呼ばれてる子が好きだな。若い頃の妻にそっくりで…」 当麻「係長は黙っていてください」 当麻に一蹴され、野々村は黙った。 気がついたようにスーツのポケットを探って指輪を取り出すと、左手の薬指に戻している。
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25 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:20:49.10 ID:+9B/ba1D0 - 秋元P「確かに握手会を中止にすれば安全は確保されるでしょう。しかし毎回脅迫状が届くたびに中止にしていたのでは、ファンは混乱する。妙な憶測を呼んでしまうかもしれない。そこから悪い噂が立つことも考えられる」
秋元P「どうか皆さんのお力で、メンバーが安全に活動できるようにしてほしいんです」 当麻「わかりました。警察は善良な市民の味方です。お任せください」 そう断言した当麻の右手には、いつの間にか割り箸が握られていた。 ――本当にこれで安心できるのだろうか。 高橋は若干の不安を残しながらも、何かを探すように未詳を見渡した。
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26 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:21:18.98 ID:+9B/ba1D0 - 高橋達が未詳に相談に行っている頃、前田は自宅マンションのソファの上にいた。
彼女の隣には、同じグループのメンバーで親友でもある板野の姿があった。 板野「…でね、あっちゃん聞いている?」 前田「あ、ごめーん。聞いてるよ。ちょっと集中してただけ」 板野は呆れたように前田を見つめ、それから彼女の手元に視線を落とした。 集中していると言ったわりに、ジグソーパズルはほとんど進んでいない。 考えごとでもしていたのだろう。 ――あたしがこんなことになったから、あっちゃんを悩ませているのかもしれない。 板野は罪悪感に襲われた。
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27 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:21:49.76 ID:+9B/ba1D0 - 前田「なんか眠くなっちゃった」
板野「あ、コーヒー淹れようか?キッチン借りるね」 板野はそう言って、テーブルに置かれたマグカップを持つと立ち上がった。 しかしすぐに立ちくらみのような感覚に襲われ、その場に座り込む。 前田「大丈夫?いいよー。コーヒーならあたしが淹れるから」 前田は板野を座らせると、キッチンへと向かった。 気配を察知した前田の愛犬達が、餌が貰えるのかと思い込み、彼女の足元に纏わりついていく。 愛犬達を引き連れながら、前田はキッチンへと姿を消した。
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28 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:22:18.96 ID:+9B/ba1D0 - 1人になった板野は、脅迫状について考えていた。
――たかみなは今頃、秋元さんと一緒に警察に相談に行っているはず…。 板野にとっての心配の種は握手会が中止になってしまうことだった。 ソロの仕事も増え、忙しくなった彼女だが、握手会をファンとの交流として大切に思う気持ちは昔も今も変わっていない。 ――どうか警察の人が、力になってくれますように。 脅迫状の内容が内容なだけに、まともに対応してもられるかわからないと高橋は言っていた。 板野はそのことを思い出し、祈るような気持ちで天を仰いだ。 キッチンからはコーヒーのいい香りが漂ってくる。 板野は小さくため息をついた。
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29 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:22:44.93 ID:+9B/ba1D0 - 前田「おまたせー」
ほどなくしてマグカップをトレーに乗せた前田が戻って来た。 トレーにはコーヒーの他に、サラダとクッキーが乗せられている。 板野「あっちゃん、また食べるの?」 前田「えへへ、なんかお腹すいちゃって」 毎度のことながら、板野は前田の食欲には感服していた。 細い体で、前田は本当によく食べる。
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30 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:23:18.70 ID:+9B/ba1D0 - 前田「それよりともちん、またため息ついてたでしょー?」
板野「え?キッチンまで聞こえた?」 前田「聞こえたよー。心配しなくても大丈夫だって。たかみながうまくやってくれてるよ」 前田に励まされ、板野は大きく頷いた。 板野「そうだよね。警察の人が来てくれれば、何も心配することないよね」 前田「そうそう。ほらクッキー食べなよ。明日は握手会だよ?力つけておかないと」 板野「えー、クッキーで力つくわけないじゃん」 そう笑いながらも、板野はクッキーへと手を伸ばした。 前田はそんな板野を見守るような目つきでもって、見つめている。
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31 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:23:50.87 ID:+9B/ba1D0 - 翌日、高橋は緊張の面持ちで控え室へと入った。
前田「あ、たかみなおはよー」 すぐに気がついた前田が、飼い主を見つけた子犬ように駆け寄ってくる。 高橋「おー、おはよう」 高橋が挨拶を返すと、前田は高橋の耳元に唇を寄せ、小声になった。 前田「今日は警察の人、来てるんだよね?」 高橋が返事をしようとしたその時、背後からキャリーバッグを引く音が聞こえてきた。
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- AKB高橋「特殊能力…?」
33 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:24:31.72 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「おはようございます。あなたは確か…前田敦子さん!ですよね?ね?」
前田は当麻を見ると一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔を取り戻し頷いた。 それから当麻の後ろに立つ瀬文の姿を確認した。 瀬文はメンバーが集まる控え室に居心地の悪さを感じているのか、さながら女子高に勤める男性教諭のような気圧された表情で、しかし姿勢だけは崩れることなく堂々と立っている。 前田「警察の方ですね?今日はよろしくお願いします」 当麻「あー、わかりますか?一応ファンのふりして握手会を見張ることにしたんで、周囲に溶け込めるように考えたんですけど」 前田「だって握手会にスーツで来る人なんて滅多にいませんから」 当麻「ですよねー。ほらやっぱり私服のほうがいいって言ったじゃないですか瀬文さん」 当麻に抗議の眼差しを投げかけられ、瀬文の肩がぴくりと動いた。
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- AKB高橋「特殊能力…?」
34 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:25:49.87 ID:+9B/ba1D0 - 瀬文「格好なんてどうでもいい。要は皆さんが安全に握手会を終えることができるかどうかだ」
前田は瀬文が握りしめている紙袋に目を奪われた。 ――何が入っているのだろう。 スーツに紙袋という組み合わせが、彼女の目に不自然に映った。 当麻「それ何ですけど、現時点で脅迫状が届いているのは高橋さん前田さん板野さんの3人なんで、3人に集中して見張りをするんで問題ないですよね?」 当麻は物珍しそうに控え室を見渡しながら、そう言った。 気がつくと、先ほどまで賑やかだった控え室は、当麻と瀬文の登場により静まり返っていた。
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- AKB高橋「特殊能力…?」
35 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:26:45.90 ID:+9B/ba1D0 - >>32
ありがとー
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- AKB高橋「特殊能力…?」
36 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:27:29.45 ID:+9B/ba1D0 - 瀬文「1つお聞きしますが、他のメンバーの方々は脅迫状についてご存知なんですか?」
瀬文は相変わらず高橋の目をまっすぐに見ることができないようで、視線を逸らしながらそう訊いた。 高橋「はい。一応みんなにも警戒が必要なんじゃないかと秋元さんと相談して、あたしからみんなに伝えました」 大島「あのー、本当に大丈夫ですよね?まさかあんな脅迫状に書かれてあったようなこと、起きるわけないですよね?」 大島は一歩前に進み出ると、大きな目を見開きながら、当麻に質問した。 大島「3人にもしものことがあったらと思うとあたし心配で…」 当麻「大丈夫です。3人のことも、皆さんのことも必ず守りますんで」 当麻は大島の目力に吸い込まれそうになりながら、そう答えた。 その時だった。 控え室の隅で、か細い声が響く。
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- AKB高橋「特殊能力…?」
37 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:28:02.25 ID:+9B/ba1D0 - 渡辺「あのぉ…実は脅迫状はそれだけじゃないんです」
柏木に支えられた渡辺が、小刻みに肩を震わせている。 渡辺「今朝、わたしにも脅迫状が届いていたそうです」 当麻「…あなたは?」 渡辺「渡辺です。これがその脅迫状なんですけど…」 渡辺が差し出した便箋を受け取り、当麻はその文面に目を通した。 高橋も覗きこんで、脅迫状を読んでいる。 ――どうして…どうしてまゆゆにまで脅迫状が…。 高橋は驚きの表情を浮かべた。
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38 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:28:33.22 ID:+9B/ba1D0 - 『渡辺麻友さんへ
今日の握手会を中止しなさい。 もし中止にしなかったら、私はあなたの命を奪うでしょう。 私にはとある力があります。 私は遠くにいながら、あなたを毒殺することができます。 もうおわかりでしょう? 握手会が終わった時、あなたのもうこの世にいません』 当麻「毒殺…ですか」 当麻の呟きに、メンバーが凍りつく。
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39 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:29:00.76 ID:+9B/ba1D0 - 高橋「毒殺ってどういうことですか?何でまゆゆが?」
高橋の声は上擦っていた。 みるみるうちにその目は涙で濡れはじめる。 瀬文「ただちに差し入れや弁当の類を処分しろ!早く!飲み物も全部だ!」 瀬文が周りにいたスタッフに怒鳴った。 スタッフ達は瀬文の迫力に驚きながらも、次々と控え室から飲食物の類を運び出そうとする。 メンバーの中からは悲鳴が上がった。 小嶋「えー、あたしもうお弁当食べちゃったよー」 小嶋はしかし事態の深刻さがまだ理解できていないらしく、メイクを直す手を休めることなくそう言った。
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40 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:29:40.65 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「さすが小嶋さん、脅迫状ごときでは動じないなんてやはり天才の素質が備わっているんですね。いやー、ぶっちゃけ私、アインシュタインの次に小嶋さんを尊敬していますから。実物はやっぱりクソ可愛いっすね!」
当麻もまた突然の事態に驚く様子もなく、ひょうひょうと小嶋に話しかけた。 元来人見知りの小嶋は、曖昧に笑っただけで、当麻と話す気はないようだった。 そんな小嶋の態度に気を悪くすることもなく、むしろ当麻は興味深げに憧れの美女の姿を見つめている。 秋元「大丈夫なんですか、結構みんなごはん済ませちゃってるんですけど」 仲川「あたしまだお菓子しか食べてなかったよー」 口々に話し始めるメンバーを、高橋が貫禄ある仕草で宥めていく。 当麻「あくまでも犯人の狙いは渡辺さん。わざわざ名指しで脅迫状を送りつけてくるくらいですからね。他の皆さんにまでは危害を加える気はないと思いますよー」 高橋「でも誰がどのお弁当を食べるかまで犯人が予想できるわけないし、もし無差別に毒が入っていたのなら…」
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- AKB高橋「特殊能力…?」
41 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:30:10.89 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「大丈夫です。ほら瀬文さーん、余計なことするから皆さん怖がっちゃったじゃないですか」
瀬文「これは緊急事態だぞ」 当麻「犯人の狙いは渡辺さんです。しかし控え室に置かれた飲食物に毒を仕込んだのでは、確実に渡辺さんを狙うことは不可能。だったら犯人はもっと別の方法で渡辺さんを狙ってくるはずじゃないですか」 高橋「メンバーやスタッフがこんなにいる状態で、どうやってまゆゆにだけ毒を盛るっていうんですか?」 当麻「さあわかりませんけど、毒殺っていっても何も飲食物だけを疑う理由なんてないんですよ。毒っていえば例えば蜘蛛とか蠍とか蛇とかだってそうですよね?」 恐怖と不安に硬直する控え室の中で、当麻だけが悠然と構えている。 何か犯人逮捕に対する秘策でもあるのだろうか。 得体の知れぬ当麻の自信に、高橋は苛立ちを覚えていた。
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42 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:30:52.68 ID:+9B/ba1D0 - 高橋「メンバーやスタッフがこんなにいる状態で、どうやってまゆゆにだけ毒を盛るっていうんですか?」
当麻「さあわかりませんけど、毒殺っていっても何も飲食物だけを疑う理由なんてないんですよ。毒っていえば例えば蜘蛛とか蠍とか蛇とかだってそうですよね?」 恐怖と不安に硬直する控え室の中で、当麻だけが悠然と構えている。 何か犯人逮捕に対する秘策でもあるのだろうか。 得体の知れぬ当麻の自信に、高橋は苛立ちを覚えていた。 高橋「そっちのほうがより不可能じゃないですか。まゆゆを毒殺するために、犯人は蛇や蠍を持ち込むというんですか?」 当麻「いえ、これはあくまでも方法の可能性です。実際に犯人がどんな手を使ってくるか私にもわかりません。だけどそのためにこうして私達が来ているんじゃないですか」 当麻はそう言うと、バッグから惣菜のパックと割り箸を取り出し、食べ始めた。 当麻「まあ今からここでああだこうだ言ってても始まりません。犯人は必ず握手会に現れます。そこを私達は逮捕するだけです。今は静かにその時を待ちましょう」 落ち着いた様子で食事を始めた当麻を、瀬文は忌々しげに見つめている。 高橋はメンバーを落ち着かせたり、具合が悪くなっていないかと聞いて回ったりと、忙しく立ち働き始めた。
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43 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:31:25.33 ID:+9B/ba1D0 - ほどなくして、握手会が開始された。
結局作戦を変更して、客のふりをして潜入するのではなく、握手会スタッフとして堂々と渡辺につくことにした当麻と瀬文は、始終辺りを警戒していた。 渡辺は脅迫状が届いていることなど感じさせぬ笑顔で、ファンと交流している。 まだ子供っぽさの残る少女の、プロ意識の高さに、瀬文は目を見張った。 ふと見れば、他のメンバーも不安だろうに、傍目には心から握手会を楽しんでいるように映る。 高橋「ありがとうございますー」 少し離れた所から、高橋の元気な声が聞こえてきた。 瀬文は先ほどの控え室での、彼女の様子を思い出す。 不安で泣き出すメンバー、震えるメンバーに1人1人声をかけ、じっくりと話を聞いていた高橋。 不思議なことに高橋に話しかけられたメンバーは皆、その後笑顔になり、元気を取り戻したように見えた。 以前SITの一員として部下を引っ張ってきた経験のある瀬文だが、高橋の持つ天性のリーダーシップと責任感の強さは、尊敬に値すると考えていた。 しかし、だからこそ今の状況を一番深刻に受け止め、傷ついているのは高橋だろう。 絶対に彼女を救ってあげたい。 瀬文はそう心に誓った。
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44 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:32:07.47 ID:+9B/ba1D0 - 前田「本当ですかー?ありがとうございますー」
渡辺と背中合わせに立つ位置には、前田がいた。 2通目の脅迫状を受け取ったのは彼女だ。 いくらスタッフに固められているとはいえ、きっとその時の握手会は恐怖でいっぱいだっただろう。 瀬文は前田の姿にも視線を走らせた。 今日の犯人の狙いは渡辺に間違いなさそうだが、念のため前田の周囲にも警戒しておいたほうが良さそうだと瀬文は判断した。 この寒い季節に、前田は防寒よりも見た目を重視した服装で握手会に望んでいる。 華やかに見えるアイドルという職業も、なかなか楽ではないらしい。 瀬文はいつの間にか、健気に頑張る彼女達の虜になっていった。
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45 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:32:44.34 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「はいはい駄目駄目ー。次の人が控えてるんだから」
渡辺の横で、すっかり握手会スタッフになりきった当麻が、渡辺から無理やりファンを引き剥がそうとしている。 渡辺のレーンでは、態度の悪い女性スタッフがいると早くも噂になっていた。 笑顔を浮かべながらも、渡辺は時折困惑した表情で当麻を見ている。 その時、バランスを崩したのか、背後にいた前田が渡辺に倒れかかった。 渡辺はその場に座りこむような形で倒れしまう。 助け起こそうとして当麻が動くのと、何かが彼女達の目の前を横切るのとは、ほとんど同時であった。 渡辺「キャーーーー」 一瞬遅れて、渡辺の悲鳴が上がる。
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55 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:44:06.89 ID:+9B/ba1D0 - 少し離れた場所で警戒を続けていた瀬文が急いで彼女のもとへと駆け寄った。
倒れた渡辺の足先数センチほどの所。そこに矢が刺さっていた。 瀬文「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」 瀬文は周囲に素早く視線を走らせた。 どこから矢は放たれたのか。 突然の出来事に騒ぎ出すファンの群れに隠れ、犯人はすでに逃走を始めているかもしれない。 考えるよりも先に、瀬文は駆け出した。 しかしやはり犯人らしき姿を見つけることはできない。
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56 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:44:43.45 ID:+9B/ba1D0 - 瀬文が駆け出すのを見て、当麻は呆れていた。
当麻「あの体育会系馬鹿。脳みそまで筋肉で出来てるのかよ」 当麻は天井近くの窓に開けられた穴を確認する。 ――あそこから矢が放たれたのだとしたら、犯人は最初から会場に入って来てはいない。 窓の先にはビルの屋上が見えた。 犯人はおそらくあの屋上から渡辺を狙って矢を放ったのだろう。 犯人は相当な弓矢の腕を持つ人物。 あるいはやはり特殊なスペックを持ち、その能力を使って矢を放ったのかもしれない。 前田「まゆゆ大丈夫?」 当麻が窓を睨んでいるうちに、倒れた渡辺を前田が助け起こした。 渡辺は恐怖で足がすくみ、1人では立っていられないような状態であった。 すぐにスタッフが駆けつけ、渡辺と前田を奥へ連れ去る。 当麻も後を追いかけた。 当然のことながら、その後の握手会は中止となり、他のメンバーも控え室へと戻らされることとなった。
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57 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:45:22.94 ID:+9B/ba1D0 - 控え室には重々しい空気が漂っていた。
その後の調べで、矢には即効性の毒が塗られていて、当たればまず命を落としていただろうということだった。 高橋はメンバーの恐怖を和らげようと、意識して明るい声を出す。 高橋「でもさ、犯人は確かに気になるけど、あたしはまゆゆが無事でいてくれてうれしいよ」 高橋の言葉に、メンバーの表情が少しだけ和らいだ。 篠田「本当そうだよね。何はともあれ、まゆゆに矢は当たらなかったわけだし」 柏木「私は麻友が無事なら、正直犯人なんてどうだっていいです。後は警察に任せておけばいいんですよね」 柏木は涙ぐみながら、渡辺を抱きしめた。 毒殺に怯え、食事を摂っていなかった渡辺だが、柏木からきんぴらごぼうを差し出されると、少しだけ食べることができた。 きんぴらごぼうは今朝、柏木の母が作って持たせたものである。 柏木の母の味に、緊張の糸が切れたのか、渡辺は泣き笑いを浮かべた。 渡辺「本当に怖かったよぉ。ありがとう、ゆきりん、あっちゃん」 そんな渡辺の姿を見て、ようやくメンバーの間に安堵の息が洩れた。
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58 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:45:50.08 ID:+9B/ba1D0 - 大島「そうそう!あっちゃんお手柄だったねー」
偶然とはいえ渡辺を助けた形となった前田は、メンバーから賞賛されていた。 もしあの時、前田が倒れかかっていなければ渡辺はまともに矢を受けいたことになる。 前田「たまたまコートを取ろうとして手を伸ばしたらこけちゃって。まゆゆを倒しちゃったんだよね。大丈夫だった?」 渡辺「うん、平気だよ。ありがとう」 前田は渡辺の言葉に、笑顔で頷いた。 高橋「あっちゃんは怪我とかなかった?」 前田「うん。大丈夫ー」
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59 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:46:31.48 ID:+9B/ba1D0 - こうして徐々に控え室には和やかな空気が流れるようになった。
しかしそこへ、当麻が姿を現した。 メンバーのおしゃべりは一瞬にして止み、視線は当麻へと注がれる。 当麻「高橋さん、ちょっとお話いいですか?」 当麻は高橋を見て、手招きをした。 高橋は神妙な面持ちで控え室を出て行く。 その後ろ姿を、前田は心配そうに見つめていた。
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60 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:47:01.58 ID:+9B/ba1D0 - 当麻は高橋を会場の隅へと連れて行った。
さきほどまで握手会が行われていた会場。 すでにファンの姿はなく、がらんとした空間には寂しさだけが漂っている。 高橋「あの、何かわかったんですか?」 高橋は当麻を見つめる。 事件直後は姿が見えなかった瀬文が、矢が刺さっていた床に屈みこんで何かを調べていた。 高橋「あ、瀬文さんもいたんですね」 当麻「犯人逮捕しようと考えなしに駆け出して、結局収穫なしで戻って来たんですよ、この馬鹿は」 瀬文「隣にいながら渡辺さんを狙う矢の存在に気付かなかったおまえに言われたくない」 瀬文が抑揚のない声で言い返す。
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61 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:48:03.50 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「でー、高橋さんをお呼びしたのは他でもない、ちょっと聞きたいことがあるんですよー」
当麻は呑気さの窺える間延びした声で言った。 この人には真剣味が感じられないなと、高橋は心内で批判する。 高橋「はい、何ですか?」 当麻「事件が起きたとき、あのビルの屋上に不審な人物が見えたりしませんでしたか?」 高橋「いえ、あたしはまゆゆから一番遠い、あっちの壁際のほうにいましたから、事件が起きたことさえ最初は気付きませんでした」 当麻「そうですか。メンバーの並び順や組み合わせは誰が決めているんですか?」 高橋「運営の方だと思います」 当麻「レーンの並び順をあなた方が知るのは、いつも当日会場に入ってからですかね?」 高橋「はい、控え室に入ると、自分がどこのレーンに行くか貼り出されてあるんです」 当麻「そうですかー」 当麻は何を気にしているのだろう。 高橋は当麻の考えがさっぱり読めなかった。
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62 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:48:46.51 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「ところで、高橋さんの身近に、弓矢の経験がある人とか、異常に運動神経がいい人とかいませんか?」
高橋「は?どういうことですか…」 当麻「うーん、例えばあなた方のスケジュールに詳しいマネージャーさんやスタッフさん、もしくはー……メンバーとか?」 当麻は無邪気にそう言った。 高橋の顔に、明らかな嫌悪が浮かぶ。 高橋「まさかスタッフさんやメンバーの中に犯人がいると疑っているんですか?」 当麻の発言に、高橋は憤りを感じている。 自分達のために頑張ってくれているマネージャーやスタッフ、そして何よりここまで苦労を共にしてきたメンバーを疑われたのが心外といった様子だ。
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63 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:49:29.47 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「例えばの話ですよ。やだなぁー、そんなに怖い顔しないでください」
当麻がにやにやと笑う。 高橋はそんな当麻を睨みつけた。 すぐに瀬文が割って入る。 瀬文「当麻!聞き方というものがあるだろ!」 しかし当麻は軽く舌打ちしただけで、すぐにまた高橋に向き直る。 当麻「だってさっきの事件、どう考えても外部の犯行じゃないんすよー。AKB48さんの身近な人物でないと絶対にさっきの犯行は不可能なんです」 高橋「どうしてですか?矢は会場の外…あのビルの屋上から放たれたんですよね?」 高橋が訊くと、当麻はなぜかうれしそうに頷いた。 そして待ってましたと言わんばかりに、一気に話し始める。
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64 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:52:12.15 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「握手会のレーンの並び順は当日会場に来ないと、関係者以外は知ることができないんですよね?あのビルの屋上から渡辺さんを狙うには、事前にレーンの並び順がわかっていなければ実行不可能なんです」
当麻「もし渡辺さんがここではなく、もっと別の、奥のほうのレーンだったらあそこから弓矢で狙うことは出来ませんからねー。そうなった場合はきっとターゲットを変更していたんだと思います」 当麻「おそらく犯人が渡辺さんをターゲットに選んだ理由はレーンの並び順にあるんじゃないでしょうか。一番狙いやすい窓側のレーンの渡辺さんを、犯人は弓矢で毒殺することに決めました」 当麻「そして今朝、渡辺さん宛てに脅迫状が届いた。犯人は遅くとも今日の朝までにはレーンの並び順を知っていたことになります。だとしたら自然と犯人は絞り込めますよね?」 当麻「事前に並び順を知ることのできる人物、それは握手会のスタッフとメンバーの方だけです」 当麻の説明に、高橋は言葉を失った。 まさか本当にそんなことがあり得るのだろうか。 いつも親切なスタッフ、優しいメンバー達、あの中に、密かにメンバーに対して殺意を抱いている人物が紛れこんでいるというのか。 高橋は当麻の言葉が信じられなかった。信じたくなかった。 そんな高橋の気持ちを見透かしてか、当麻は尚も続ける。
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65 : ◆4zj.uHuFeyJ8 []:2011/12/16(金) 17:52:51.14 ID:+9B/ba1D0 - 当麻「すぐには信じられませんよねこんとなこと。だけど状況がそれを物語ってるんですよ。教えてください高橋さん、あなたの身近に弓矢の腕を持つ人物はいませんか?」
当麻の問いかけに、高橋はしばらくの間無言を貫いた。 しかし観念したのか、口を開く。 高橋「番組で特技を披露する機会とかあるんで、メンバーについてはよく知っているはずだと思います。あたしが知る限り、メンバーの中には弓矢が得意の子はいません。スタッフさんについてはよく知りませんけど」 当麻「そうですか、わかりました。ありがとうございます」 当麻は意外とあっさり納得し、弓矢が放たれた窓を見上げた。 高橋「お力になれなくてすみません」 当麻「いいっすよ。どうせそんなことだろうと思いました」 当麻の言葉に、高橋は首を傾げる。 最初からそう思っていたのなら、なぜわざわざ自分は呼び出されたのだろう。
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